(※写真はイメージです/PIXTA)

相続等でせっかく手にした土地も、有効活用できる状態にあるものばかりとは限りません。近年特に問題となっているのが、隣地の所有者が不明であることで、資産活用の足かせとなるケースです。ここでは、土地活用を促すために改正された民法の「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」について深掘りしていきます。不動産問題と相続を得意とする、山村法律事務所の山村暢彦弁護士が解説します。

「所有者不明の隣地のせいで、土地が売却・活用できない…」

空き家・空き地の問題が不動産取引に深刻な影響を及ぼすことはよく知られています。たとえば、ゴミ屋敷が空き家のまま放置された場合、倒壊の危険はもちろん、ホームレスが居つく、窃盗品の置き場所にされるといった防犯上の懸念もあります。

 

このような倒壊リスクのある空き家は、数年前に話題になった「空き家特別措置法」等で行政による手当がなされており、現状、全国で数十件の解決事例が出ていると聞きます。

 

しかし、政府が介入するようなもの以外にも、個々の不動産取引に悪影響を及ぼす問題は全国で多発しています。おそらく、不動産の売却や建物の建築をおこなった方は、事情がよくおわかりだと思います。

 

土地を売却する際は、基本的に「境界確定測量」を行い、対象物である土地の大きさを確定する必要があります。しかし、隣地が「空き地・空き家」の状態だと、この境界確定測量ができません。

 

ほかの測量の方法がないわけではありませんが、隣地所有者の立会を必要とする境界確定測量は実施できません。

 

また、建物を建築するためには「建築基準法上接道要件」と呼ばれるものが課されています。簡単にいうと、道路付けができなければ建物を建て替えられないという規制です。

 

たとえば、5~10m2程度の土地が間に挟まるなどして道路付けができない場合、挟まっている土地を所有者から購入したり、時効取得を主張したりといった方法がありますが、所有者がいない・不明であれば、それらのアクションも起こせません。

 

また、所有地に接している道路が他者と共有の場合、建物を建て替える際には共有者から「通行承諾、道路掘削の同意書面」を取得することが必要です。しかし、共有者に所在不明者がいれば、取得できません。

 

つまり、自分の所有地の権利等が明確であるだけでなく、隣地や道路共有者の権利関係までもが明確でないと、土地の売買や建物の建て替えができないという現実があるのです。

 

このような問題が多発すれば不動産の流通が滞り、ただでさえ限られた日本の土地が、有効活用できなくなってしまいます。個人レベルでいうなら、処分したくてもできない「負動産」が増えてしまいます。

土地活用を目的に民法改正されたが…従来はどうしていた?

令和5年4月、権利関係が複雑になった土地の整理と国土の円滑な活用を目的に、「所有者不明土地の利用の円滑化」に関する民法等の改正法の施行が決定しました。

 

なかでも「所有者不明土地管理制度」は、今回の改正で、従来の解決方法にプラスアルファとして加わる制度となっています。

 

では、隣地が所有者不明土地であり、自分の所有地の売却や活用がかなわない場合の対応策について、改正以前はどのように対応していたのでしょうか?

 

端的にまとめると、「空き地・空き家」について、裁判所で「中立的な代理人」を選任してもらい、その「中立的な代理人」との間で、①境界確定測量の手続を行う→②通行・掘削承諾をもらう→③土地の売買または時効取得の主張を行う、という、3ステップを踏みます。それにより、所有者不明に由来する問題解決が可能となります。

 

●土地の所有者が所在不明の場合

裁判所に「不在者財産管理人」として「中立的な代理人」を選任してもらい、その代理人を通じて問題の対処にあたります。

 

●土地の相続人が全員が相続放棄し、相続人がいない場合

裁判所に「相続財産管理人」として「中立的な代理人」を選任してもらい、その代理人を通じて問題の対処にあたります。

 

●土地を所有していた会社が解散し、所有者がいない場合

裁判所に「清算人」として「中立的な代理人」を選任してもらい、その代理人を通じて問題の対処にあたります。

 

●時効取得等、裁判を前提にする手続きにおいて被告が不在の場合

裁判所に「特別代理人」を選任してもらい、対処にあたります。そうすることで、問題を解決していきます。

以前の法律がはらんでいた、由々しき問題

読者の皆さんは上記の説明から「従来の手続きでなんとかなるなら、新たな法改正はいらないのでは?」と疑問に思わるかもしれませんが、そうではありません。

 

繰り返しになりますが、土地の所有者が行方不明・所在不明の場合は「不在者財産管理人」を、相続人全員が放棄をしている場合は「相続財産管理人」を、土地を所有していた会社が解散している場合は「清算人」を、「中立的な代理人」として選任して対処します。また、時効取得など裁判を前提にする手続きの中で、被告が不在の場合には、「特別代理人」を選任して対処することが可能になります。

 

本来であれば、隣地の境界確定測量に同席してもらいたいとか、土地を任意に購入したいといった場合、「その問題となっている対象土地のみ」を管理してくれる中立的な代理人がいればいいはずです。

 

しかし「清算人」「不在者財産管理人」「相続財産管理人」というのは、原則として、その「対象土地のみ」だけの管理人として選任することが難しく、その「立場」の方の全体財産を管理する管理人としての選任を行うことになります。

 

つまり、不在者財産管理人であれば、その不在者の財産のすべて、相続財産管理人であれば、その被相続人の財産のすべて、清算人であれば、その清算された(又は放置された)法人の財産のすべてを、管理する必要が生じるのです。

 

本来なら「対象土地のみ」の管理業務をやってほしいのに、これまでは、その他の(申立人としては興味のない)財産全体に対して管理人を選任しなければならなかったわけです。

 

「財産管理人の業務範囲が広くてもいいじゃない? それができないのは、何か申立人側に不都合があるの?」という声も聞こえてきそうですが、ズバリ、あります。

 

1つ目は、業務範囲が広いと、土地だけの情報がほしくても、その前に財産全体額を把握してからでないと「対象土地」の処分に移れないので、結果が出るまでに時間がかかるということです。

 

2つ目は、コストの問題です。中立的な財産管理人の「報酬」は、申立人側が「予納金」として裁判所に支払う必要があり、この「予納金」額が、業務範囲が広ければ広いほど、高額になりやすいという傾向があります。

 

そのため、従来の制度では、「対象土地のみ」の権利を確定したくても、申立人側は、対象とする「不在者」「人」の財産額全体にかかる手続きと重いコストを支払う必要が生じていました。

 

また、「特別代理人」制度は、訴訟手続きのなかでしか利用できません。土地を時効取得したい(取得時効に基づく移転登記請求訴訟)、清算した会社の抵当権を抹消したい(抵当権抹消登記請求訴訟)など、訴訟を前提とする手続きの中での利用が想定されているもので、隣地の境界確定測量への立会いや、土地を任意に購入したいといった場面で「特別代理人」制度を利用するのは難しいのです。

 

補足:ここでは問題点を分かりやすくするため、理論上の従来の制度の問題点を指摘しましたが、実際のところ、とくに「清算人」制度の問題は、裁判所の「運用」レベルにて解決されています。たとえば清算人には「スポット清算人」という制度運用があり、会社財産全体ではなく、「対象不動産のみ」に業務範囲を絞った清算人選任が認められるに至っています。このように、これまでは制度上の問題から、やむをえず運用レベルで対処していたものが、今回、立法的に対処しようとメスがいれられたのが改正法の「所有者不明土地管理制度」です。

 

新制度による「所有者不明土地管理制度」、さらなる活用を!

改正法の「所有者不明土地管理制度」について、従来の制度と新しくなった制度を比較すると、以下のようにまとめられます。

 

①新制度では、対象土地ごとに「中立的な代理人」を選任できる

 

②申立人になれる資格である「法律上の利害関係人」の範囲も広くなる

 

③理論上は申立時に必要となる「予納金(中立的な代理人の報酬相当額)」は低くなる傾向がある(実際の運用がはじまらないと不透明な点もあり)

 

④従来、不在者財産管理人、相続財産管理人、清算人等々、場面によって使える制度等が異なっていたが、これらが統一的に「所有者不明土地管理制度」に(概ね)一本化できる可能性がある

 

これらの点から、従来の制度をより実用化しやすくなる改正という意味で、筆者は非常に好意的に受け止めています。

 

さらに従来の制度の問題点として、概ねその「中立的な代理人」の判断に裁量が多く、申立人側からすると予測可能性が低い(希望どおりにしてもらえるかわからない)という懸念がありました。

 

それが今回の改正では、裁判所の許可を取れば「売買等」も代理人を通じて行えるという条文ができました。そうすれば「売買等の許可」を取れる基準も明確になり、予測可能性が高まっていくのではという点も期待しています。

 

時間とお金を利用して「問題あり土地」を正常化できれば、不動産の流通の促進に加え、「負動産」を正常化できることにもなります。この制度はもっと周知されていくべきだと思います。

 

 

山村法律事務所
代表弁護士 山村 暢彦

 

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