「所有者不明土地」にまつわる相談例、3つのケース
「所有者不明土地」について、法律の現場にはどのような相談が寄せられているのか、具体例をご紹介していきたいと思います。
CASE①:所有土地のなかに、なぜか他人名義の土地が混入している
アパートを建築しようとしたところ、理由は不明だが、所有土地の中に数m2の他人名義の土地が混入していた。名義を調べたところ、法人のものだと判明したが、その法人はすでに解散している。土地を買い取る、もしくは時効取得を主張したいのに、相手がいない状態となっている。
CASE②:不動産に廃業した会社の抵当権が付着している
区分マンションを売却しようと不動産会社に相談したところ、抵当権が付着していることが判明。しかも、一般的な金融機関等ではなく消費者金融のものだった。調べたところ、その消費者金融はすでに廃業していた。
CASE③:所有地の接道の通行掘削をしたいが、接道する私道の所有者が見つからない
アパートを売却しようとしたところ、不動産会社に、接道している私道の通行掘削承諾を取得してほしいといわれる。調べると、私道の所有者は住所変更登記をしていなかったらしく、実際の所有者が見つからない。
CASE①:所有土地のなかに、なぜか他人名義の土地が混入している
所有地のなかに他人名義の土地が混入しているケースは、たまに遭遇します。
不動産売買の実務において、隣地と境界確定ができない場合、所有地を薄く切り、境界確定が取れない本当の隣地とのあいだに別の「新しい隣地」を生み出し、そこと境界確定を行うことで「確定測量済みの土地」として売却する、という取引が、過去に行われたことがあったようです。
その際にできた「薄く切った数m2の新しい隣地」を小規模なディベロッパーが保有したまま廃業することで、①のような事態が発生するものと思われます。
筆者が取り扱った案件のなかには、「薄く切った土地」が挟まっているために所有地が接道していない状態にあると判明するといった、困ったケースも存在しました。
そのような状況に至った背景は不明ですが、もしかしたら、あえて未接道の土地にしておき、買主が売却ないし建て替えしようとした際、「薄い土地」を高値で売るような悪質な意図があったのかもしれません。
未接道の再建築不可の土地は、評価額が相当下がります。そのため所有者は、高値でも薄い土地を買う選択をせざるを得ない、という事態もありえるのです。
★CASE①の解決策★
「時効による所有権移転登記請求訴訟」を提起し、訴訟のなか限定で、所有者不明土地を代理できる「特別代理人」という手続を利用
この事例の基本的な解決方法として、まずは他人名義の土地を自分の所有に名義移転することです。もしこの土地名義人が見つかったなら、買い取るのがいちばん手っ取り早いでしょう。
CASE①では、この数m2の土地の上に建物を建築し、数十年間利用してきたという事情がありました。そのため、「時効による所有権移転登記請求訴訟」を提起し、訴訟のなか限定で、所有者不明土地を代理できる「特別代理人」という手続を利用して解決しました。
このようなケースでは、相手方と権利を巡って争うというより、裁判所に対して「このように、長年にわたって利用してきたという事情があるから、時効取得しても差し支えありませんよね?」と、裁判所を説得する書面を作成するイメージです。
「長年」の定義ですが、資料から明らかに「20年以上」占有できていることが証明できれば、同様に時効取得にて解決可能です。ただ、10年以上の場合は別途「善意」が要求されるので、ややハードルがあがります。
10年未満等の場合は、また違うアプローチが必要です。法人が解散している状況であれば、「清算人」という法人を代理する権限を持つ人を裁判所に選任して解決するか、もしくは、令和5年民法改正の「所有者不明土地管理制度」を利用して、それらによる清算人、管理人から土地を買い取るというアプローチが求められます。
時効取得の訴訟ルート、清算人ルート、所有者不明土地管理制度ルートのうち、いちばん早くてコストのかからないルート選択を行うことが必要です。
CASE②:不動産に廃業した会社の抵当権が付着している
解散、廃業した会社の抵当権が不動産に付着している、というケースも度々見かけます。
消費者金融系の事例が多いのですが、過去に、大手企業の住宅ローン援助のような制度があったものの、その後に企業の事業再編があり、抵当権名義の会社自体が存在しなくなった、という事例もありました。
上記の事例では、事業再編後から数十年ほど経過していましたが、「清算人」という解散した企業の代理権をもつ人物が生存していたため、なんとか解決が図れました。しかし、その「清算人」の方もご高齢であり、万一この方が亡くなっていたら、やはり裁判所による手続きが必要でした。
★CASE②の解決策★
抵当権抹消請求訴訟を提起して「特別代理人」を選任。もし借金が残っているなら、解散した会社の清算人を選任し、借金返済と引き換えに抵当権抹消手続を交渉
実際に遭遇した類似の事例では、いずれも借金完済していたものの、抵当権抹消手続が行われていなかったという状況でしたので、まずは抵当権抹消請求訴訟を提起し、CASE①と同様に、特別代理人を選任するかたちで解決を目指しました。
仮に、借金は残っているが、該当の名義の消費者金融が破産しているという場合は、解散した会社の権利を代理する清算人を選任し、その清算人相手に「借金を返済する代わり、抵当権抹消手続をとってほしい」と協議して解決を図ることになります。
ただし、消費者金融が解散しているほど長期化している事案では、もし借金が残っていても「時効消滅」による訴訟ルートが使えるケースも多いと思われます。
CASE③:所有地の接道の通行掘削をしたいが、接道する私道の所有者が見つからない
大家業の方が圧倒的に多く出会うのは、なんといってもこの「接道する私道の所有者が見つからない」事例でしょう。敷地に接道する私道の所有者が所在不明のため、工事に着手できない、といった問題などは、現場でも多く見聞きします。
じつは、私道の扱いは非常に厄介で、
●多人数で共同所有していて、そのうちの何人かの所在が見つからない
●私道の所有者が死亡していて、戸籍が抹消されており相続人を追跡できない
●所有者ないし相続人が海外に移住しており、その後の住所を把握できない
といったケースが多々あります。
影響を及ぼす相手が自身の親族関係なら、どうにか対処することができても、隣地関係については、どうあがいても自分の力だけではコントロールできません。
★CASE③の解決策★
抵当権抹消請求訴訟を提起して「特別代理人」を選任。もし借金が残っているなら、解散した会社の清算人を選任し、借金返済と引き換えに抵当権抹消手続を交渉
引っ越しても住所変更手続をとっておらず、そのまま死亡または海外移住というのは、比較的多いトラブルです。住所変更登記の放置は、もともと罰則がなかったため、このようなケースはよくあるのです。
これに対処するため、相続登記や住所変更登記を手続せずに放置していると罰則が科されるよう法改正されましたので、今後はこのようなケースも減少していくと考えられます。
さて、このケースの解決方法は多岐にわたりますが、まずは弁護士事務所が介入しての調査業務から入っていくことになります。
弁護士には他の士業より「職権請求の使用目的の範囲が広い」「弁護士会照会手続という弁護士会を通すことで、官公庁や大手企業から情報を取得できる可能性がある」という点から、職権が広いことが特徴です。
私道関係は、これらの弁護士の権限を利用して調査業務をおこなっていきます。ここで所有者等が判明すれば、その方と協議することになります。
しかし、弁護士の職権調査をおこなっても所有者が判明しない場合は、裁判所を利用する手続へと移行します。相続人不存在なら「相続財産管理人」、行方不明、海外渡航等なら「不在者財産管理人」、休眠ないし解散した法人なら「清算人」または「所有者不明土地管理制度」などを、事案に応じて利用していくのです。
改正により施行された「所有者不明土地管理制度」は、「人」単位の手続に対して、「その土地単位」で進められるので、基本的に利用しやすい制度となっています(もっとも、「土地」に焦点を当てるぶん、土地の特定情報が厳密に要求される可能性があり、筆者としてもどのような使い勝手になるか、見定めていきたいと思っています)。
これらの制度で、所有者不明土地を代わりに管理してくれる代理人が選任できれば、この方から、
1 土地を買う
2 境界確定を行う
3 通行掘削承諾を取る
などにより解決していくことになります。この代理人は、基本的に裁判所のリストに載っている弁護士が一般的です。
「所有者不明土地」の問題に、似て非なるトラブルの場合
上記3つと似て非なるのが、話がまとまらない・了解が取れないだけで「私道所有者や隣地の方がいる」ケースです。じつはこちらのほうが厄介です。
筆者の元にもたびたび相談が寄せられますが、基本的に「裁判所での解決は難しい」と回答しています。厳密には「訴訟を立てることで何かしらの和解が取れるかもしれないが、そこまで裁判コストをかけるより、そのお金を払って同意を取ったほうが早い」のです。
それでも弁護士が介入する場合をあげるなら、「感情的にこじれ、まったく話し合いができない」といったケースです。それでも、訴訟を起こして裁判で戦うのではなく、「調停」を用いて裁判所で話し合うほうを提案することが多くあります。
以上、所有者不明土地関連の実例とその解決策をご紹介しました。
これらのトラブルの多くは、隣地の方の状況に左右される、いわば「不動産のもらい事故」のようなものです。困ったときには専門家に相談のうえ、方針を検討することをお勧めします。
山村法律事務所
代表弁護士 山村 暢彦