令和5年民法改正…所有者不明土地の利用の円滑化
令和5年4月、権利関係が複雑になった土地の整理と国土の円滑な活用を目的に、「所有者不明土地の利用の円滑化」に関する民法等の改正法の施行が決定しました。
なかでも筆者が注目したのは「ライフライン設備設置・使用権の創設」についてです。
今回、ほかの土地に設備を設置しない限り、電気・ガス・水道水の供給をはじめ、それらに類する継続的給付を受けることができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置する権利を有することが明文化されました(新民法213条の2第1項)。
上記の典型的なライフラインに加え、インターネット等の設備も、この権利によって隣地等への設備設置が可能となります。
自分の土地の上下水道の設備が「隣地を横断する」ケース
「お宅の上下水道設備、うちの敷地を通っているんですよ。撤去してもらえますかね!」
購入した土地の上下水道の設備が隣地を横断している(する)場合、工事を行う際に、隣地の所有者から設備の撤去を要請されてトラブルになるケースは少なくありません。
とはいえ、この規定によってトラブルがなくなるのかというと、正直、そこまでの効果は期待薄だと思います。しかし、改正に意味がないと申し上げているわけではありません。これまで「ライフライン関係の規律」は極めて不明瞭なものでしたから、それを法令によって明確化したのは大きな一歩であり、意義あることだと思います。
「法律・国が、このように定めている」と、明確な論拠を示して説明できれば、クレーマー的な主張を繰り返す人にも、きちんと対抗することができるからです。
このライフライン設備設置・使用権は、「他人の土地…を使用しなければ(ライフラインの使用が)できないとき」が要件である点がポイントです。おそらくほとんどのケースにおいて、「本当に他人の土地を使わないといけないのか?」が争点になると思われます。
500万円の土地建物に「300万円の余剰費用」が発生するなら?
もっとも可能性の高いトラブルは、「他人の土地を利用しなくてもライフラインの供給は可能だが、その場合、多額の費用が発生する」というケースだと思われます。つまり、「都合よく他人の土地を使えるかどうか」ということです。
新設されたばかりの法令で、裁判例はありませんが、筆者としては「通行権の裁判例」と近い発想によって解決されるのではないかと考えています。端的にいうなら、「社会通念上、看過できないほどの過大な費用が発生するかどうか」により、「利用できない(不能)」と言えるか否かが変わってくるでしょう。
例えば、1億円の土地建物に300万円程度の余剰費用が発生する場合、「社会通念上、その程度は仕方ない」と判断されるかもしれません。しかし、500万円の土地建物に対して、300万円の余剰費用が発生する場合、こちらは看過できないとされる可能性が高いのではないでしょうか。
これについて筆者は、通行権の議論、あるいは「建物が建築できるか否か」という契約不適合責任(瑕疵担保責任)の判断の場面でも類似の判断がなされる傾向があると考えています。
また、近年では通信関連の重要性が非常に高まっていることから、インターネット等の電波設備についても規定が整備されていることは非常に重要です。
これらの規定の知識を得たことで、不動産オーナーや不動産投資家の方の利益に直結するわけではないでしょうが、該当の不動産を所有されている方、あるいは、安い土地を見つけたものの非協力的な隣人がいる場合には、この知識が交渉を有利にするカードとなるかもしれません。
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦
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