「損害賠償責任の範囲」を画する基準
まず、少年の行為について民法709条の「不法行為責任」が成立することはいうまでもありません。問題となるのは「損害賠償の範囲」、つまり、実際に発生した損害のうち、どこまで責任を問えるかということです。
この問題については、事実的な因果関係があるだけでは足りず、社会通念上、その行為から「通常生ずべき損害」といえるかという基準で判断されます。あくまでも、常識的な範囲に限られるということです。
問題となりうるものとしては、以下が考えられます。
・店舗の備品等の損害
・対応に追われたスタッフの人件費
・売上の減少
・再発防止策にかかった費用
なお、当初、株価の下落分の「168億円」について責任を問う声がありましたが、これはそもそも「事実的因果関係」の時点で疑わしいといわざるを得ません。
各項目の検討
以下、損害として考えられる前述の4つの項目について、それぞれ検討します。具体的な損害賠償額がいくらくらいになるのかということは、現状ある情報からは判断が難しいので、差し控えます。
◆店舗の備品等の損害
少年は醤油ボトル、湯呑みを舐めています。
いずれもどれが舐められたか特定できない以上、店舗の醤油ボトルとそのなかの醤油、湯呑みは、すべて取り換えられたものと考えられます。
醤油ボトルも湯呑も、舐められただけで壊れたわけではありません。しかし、お客さんとしては、少年が舐めた可能性があるものは使いたくないでしょうから、やはり廃棄せざるを得ないとみられます。
そうであれば、醤油ボトル・湯呑をすべて取り換えるのにかかった費用は対象となり得ます。
また、今回の事態を受け、店内くまなく大掛かりな清掃をしたことが想定されます。その費用も、対象となり得ます。
◆対応にあたったスタッフの人件費
今回の件を受け、運営会社の従業員が特別に対応にあたったことについては、理論上は「通常生ずべき損害」といえます。
その分だけ、本来ならば通常の業務に充てるべき時間が奪われているといえるからです。
◆売上の減少
スシロー運営会社側が強調しているのは、売上の減少です。当初、SNS等で「もう気持ち悪くて回転寿司屋に行きたくなった」という声がみられました。しかし、それが本当に売上減少につながったかどうかは、証明が難しいかもしれません。「スシローを応援しよう」という声も非常に多かったからです。
あるいは、事件の少し前にあった不祥事など、他の要因が響いている可能性も否定はできません。
したがって、最低限、事件が発覚した前後に売り上げにどのような変動があったのか、慎重に検証しなければならないでしょう。
また、同業他社の売上の推移と比べたり、店舗ごとの客足の推移を検証したりする必要があるかもしれません。