(※画像はイメージです/PIXTA)

自動車を保有する人は、交通事故で人を死傷させた場合に備えて「自賠責保険」への加入を義務付けられています。しかし、そのことがかえって、交通事故の被害者・遺族の救済を妨げているという指摘があります。どういうことなのか。本記事では、自賠責保険の補償内容と問題点について解説します。

自賠責保険の補償内容

自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、「人身事故」を起こして人を死傷させ、損害賠償責任を負う場合に備えて、加入が義務付けられている保険です。「強制保険」と呼ばれることもあります。

 

保険金の支払限度額は、被害者1名につき、傷害の場合は120万円、後遺障害が残った場合は4,000万円、死亡の場合は3,000万円と定められています(【図表】参照)。

 

【図表】自賠責保険の支払限度額

 

自賠責保険がカバーするのは、「人身事故」において「相手方の生命・身体」を侵害した場合のみで、しかも、限度額が設けられています。

 

すなわち、自賠責保険がカバーするのは、自動車事故による損害のうち、ごく限られた一部だけです。

自賠責保険は「全然足りない」

死亡の場合の「3,000万円」、後遺障害の場合の「4,000万円」という数字は、それだけみると、いかにも大きな額であるかのような「錯覚」を招きがちです。

 

しかし、実際の賠償事例をみると、自賠責保険では到底まかないきれないことは明らかです。

 

以下、人身事故と物損事故のそれぞれについて、データをもとに説明します。

 

◆人身事故|賠償額「4億円」はざら

人身事故で人を死傷させた場合、損害賠償金の支払い義務を負うことになります。

 

損害賠償の対象となるのは、治療費等だけではありません。被害者ないし家族・遺族の「慰謝料」も含まれます。また、被害者が働けなくなったことによって本来稼げたはずのお金を稼げなくなったという「逸失利益」の損害(消極損害)も含まれます。

 

なかでも、とりわけ賠償額が高額になる要因は「逸失利益」です。

 

逸失利益の計算式は以下の通りです(ライプニッツ方式)。

 

【逸失利益の計算式】

収入金額(基礎収入)×労働能力喪失率×ライプニッツ係数

 

高度に理論的な問題を含むので詳細には立ち入りませんが、この計算式は、以下の2つの要素を重視して考慮に入れたものとイメージしていただければけっこうです。

 

・被害者の年収

・被害者の年齢(残りの働けるはずだった期間)

 

他の条件が同一であれば、被害者の年齢が低いほど逸失利益が大きくなります。また、被害者の年収が高いほど逸失利益が大きくなります。

 

現に、過去の裁判の賠償事例のデータを紹介すると、最も少ない「21歳男性・大学生(後遺障害)」でもほぼ4億円近い額となっています(【図表2】参照)。

 

日本損害保険協会「ファクトブック2022」より
【図表2】人身事故の高額判決例 日本損害保険協会「ファクトブック2022」より

 

被害者の年齢・性別・職業により金額は前後しますが、賠償額は当然に億単位に達します。

 

少なくとも、自賠責保険の死亡保険金額の上限3,000万円では到底賄えません。たったこれだけでは全然足りないのは明らかです。

 

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