(※画像はイメージです/PIXTA)

自動車を保有する人は、交通事故で人を死傷させた場合に備えて「自賠責保険」への加入を義務付けられています。しかし、そのことがかえって、交通事故の被害者・遺族の救済を妨げているという指摘があります。どういうことなのか。本記事では、自賠責保険の補償内容と問題点について解説します。

◆物損事故|賠償額が「億単位」になることも

自賠責保険がまったくカバーしない「物損事故」のデータも紹介しておきましょう。

 

加害者が負う損害賠償責任の対象となるのは、事故によって損傷したモノ自体の損害だけではありません。

 

人身事故同様、「逸失利益」の損害(消極損害)も賠償責任の対象となり、賠償金額が膨れ上がる要因となりえます。

 

たとえば、自動車を運転して店舗や工場に突っ込み、建物、機械設備、商品等を損傷した場合、それらの損害だけでなく、営業できない期間の分の逸失利益まで賠償しなければならないということです。

 

データをみれば、物損といえども、場合によっては億単位となることがあります(【図表3】参照)。

 

日本損害保険協会「ファクトブック2022」より
【図表3】物損事故の高額判決例 日本損害保険協会「ファクトブック2022」より

自賠責保険の不足を補う「任意保険」

このように、自賠責保険は、交通事故を起こした場合の損害賠償金等の補償としては到底足りません。

 

そこで、足りない部分をカバーするため必須なのが「任意保険」です。

 

任意保険には人身事故を対象とする「対人賠償保険」だけでなく、物損事故を対象とする「対物賠償保険」も含まれます。しかも、賠償金等を無制限でカバーしてくれます。

 

また、特約を付けることにより、以下のような補償も備えることができます。

 

【任意保険の主要な特約】

・人身傷害保険・搭乗者傷害保険:自分や同乗者が死傷した場合の補償

・車両保険:自分のクルマが事故で損傷したり盗難被害に遭ったりした場合の補償

・個人賠償責任保険:日常生活における交通事故以外の対人・対物事故の補償

「任意保険」に入らないとドライバーも被害者も「地獄」

もしもドライバーが任意保険に加入していなかったら、ドライバー本人はもちろん、被害者側も地獄をみることになります。

 

まず、ドライバー本人は、莫大な額の損害賠償債務を負い、払えずに破産するしかありません。なお、自己破産により免責される余地がありますが、社会的非難は一生免れません。

 

次に、被害者ないしその遺族は、賠償金を満足に受け取ることができません。法律上の損害賠償請求権があっても、加害者であるドライバーに資力がなければ、強制執行もできません。実質的に泣き寝入りを強いられ、経済的に困窮することになります。

「4人に1人」が任意保険不加入!自賠責保険の存在が被害者救済の妨げに!?

ところが、統計をみると、ほぼ4人に1人が任意保険に加入していないという実態があります。

 

2022年3月末時点で、日本全国の「対人賠償保険」「対物賠償保険」の加入率は、「対人賠償保険」が75.4%、「対物賠償保険」が75.5%にとどまります(損害保険料算出機構「2022年度 自動車保険の概況」P114参照)。

 

中には、上述したような賠償事例の実態を知らずに、「自賠責保険に加入しておけば大丈夫」「任意保険の保険料がもったいない」などと安易に考えているケースが相当数含まれていることが想定されます。

 

こうなると、もはや、自賠責保険の制度の存在が、かえって交通事故被害者の救済の妨げになっているといわざるを得ません。

 

自賠責保険の制度ができたのは1955年です。まだ自動車が普及していなかった時代です。それから70年近くが経過した今日、自動車は当時とは比べものにならないほど普及し、交通事故の件数も著しく増大しています。

 

被害者救済にとって、自賠責保険よりもむしろ任意保険が果たす役割のほうが大きくなっています。交通事故による損害のごく一部しかカバーできない自賠責保険は、その存在意義自体が揺らいでいるといわざるを得ません。

 

自賠責保険の内容を少なくとも任意保険の「対人賠償」「対物賠償」と同レベルの補償とするか、あるいは任意保険への加入を義務化するなど、制度を根本的に見直す必要があるといえます。

 

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