(※画像はイメージです/PIXTA)

日本では年間約130万人の方が亡くなっています。つまり相続税の課税対象になろうが、なかろうが、130万通りの相続が発生しているのです。お金が絡むと、人はとんでもない行動にでるもの。トラブルに巻き込まれないためにも、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが大切です。編集部に寄せられた事例のなかから、介護問題も絡むトラブルをみていきます。

日常生活がおぼつかなくなる父に、3人兄妹は

<登場人物>

金田賢持(85)…父

金田誠(51)…賢持の長男

金田聡(50)…賢持の次男

金田陽子(45)…賢持の長女

※氏名はすべて仮名

 

「長男だから、という考えも古いだろう」

 

遡ること、10年前。3人兄妹が集まった際に、長男の誠さんが言った言葉。確かにその通りと思ったけど、どうも納得がいかなかったと、長女の陽子さんは振り返ります。

 

次男の聡さん含め、兄妹が集まったのは、父・賢持さんのこと。それまでビル賃貸業の社長としてまい進してきた賢持さんでしたが、70歳を前に長男の聡さんを跡継ぎに引退。悠々自適な老後を送るかと思っていましたが、母(賢持さんの妻)が急逝。賢持さんの落ち込みようはヒドく、それが原因かどうかは分かりませんが、徐々に足腰が弱くなり、介護が必要になりました。

 

「お父さん、ひとり暮らしはもう難しいと思う」と心配した陽子さん。今後、どうするかを子供たち三人で話し合うことになりました。普通に考えれば、実家から最も近くに住む誠さんが中心となって賢持さんを世話をするのが妥当。しかし、「やっぱり兄さんが一番近くに住んでいるんだし、長男なんだし。父さんの面倒をみるのが普通だよね」と聡さんの言葉に、誠さんは冒頭のように反論したのです。

 

「俺は父さんの会社を継いでいるんだ。奥さんにも手伝ってもらいながら、毎日毎日、戦争のようだよ。それで父さんの面倒なんて、とてもじゃないけど看てらんないよ」と誠さん。「それは言い過ぎだな」と思ったと陽子さん。父から継いだ社長業。仕事はほとんど従業員がこなし、社長の仕事といえば書類に判子を押すくらい、と会社の古株となる人が皮肉を込めて言っていたのを聞いたことがありました。父が「ほとんど何もしなくても大丈夫だから」と長男を口説いていたのを覚えています。

 

陽子さん「面倒なことに巻き込まれたくないだけじゃない」と心にそう思っていたところ、「陽子、実家に戻ってこいよ」と誠さんが言いました。「えっ⁉」。陽子さんは突然のことに、耳にきちんと入ってこなかったといいます。

 

「大翔くん(陽子さんの長男)もまだ小さいし、実家からなら大輔くん(陽子さんの夫)も通勤できなくもないだろ」と誠さん。確かにそうでしたが、距離の話でいえば、3人兄妹のなかでは一番遠くに住んでいて、夫も通勤圏内とはいえ、実家からは片道2時間弱はかかります。「広い家に住めるし、何だったら、あの家、陽子がもらえばいいし」「いいじゃん、父さんの面倒をみるんなら、女の陽子が一番いいだろ」と陽子さんを説得する、二人の兄。「女とか、関係ないじゃない!」「面倒なことを押し付けようとしているだけじゃない」。いろいろと不満が口に出そうでしたが、ぐっとおさえたという陽子さん。誰かが手を挙げなければ、この話し合いは終わらないと思ったからです。

 

「いいわ、ちょっと家族とも相談するから、最終的な返事は待っていて」

 

家族と相談のうえ、実家に引っ越してきた陽子さん。それから子育てと父の介護で忙しい毎日が始まりました。さらに父の介護レベルは時と共に進んでいき、引越しをしてから5年ほど経った頃には、在宅介護では厳しいと感じるようになったといいます。

 

「そろそろ限界かも」と思って、誠さんや聡さんに相談したところ、ふたりとも「父さんを介護施設に入れるなんて、親不孝だ!」と反対。「自分たちは何も手を貸さないくせに」「何もしないくせに」そう思いましたが、「確かに大変だけど、父と一緒にいられるのも、幸せなこと」と言い聞かせて、在宅介護を続けていくことにしたといいます。

 

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