大きく変化しつつある「ホーチミン郊外」の農村風景
不動産業界の概要をチェックしたところで、日本企業の活躍ぶりにも目を向けてみたい。
ホーチミン市の中心地は急速な都市化を経て、いまやすっかり大都会といった感じがする。まだまだ雑多な雰囲気は残っているものの、Wi-Fi環境は日本以上と思えるほどだし、コンビニや飲食店も充実している。スーパーや家電量販店などもあり、日本の街と何ら変わらない生活を送ることができる。
だが、ひとたび中心地から郊外に出ると、まだまだのどかな農村風景が広がっている。日本でも郊外には農村風景が残っているが、農業国といわれるベトナムのそれとは規模が大きく異なる。
事実、ホーチミンの中心地から車で1時間も離れれば、日本では北海道くらいにしかない見渡す限りの農村風景を目の当たりにすることができる。それはベトナムの主要産業が農業であるということをあらためて実感させられる風景でもある。
ところが、ホーチミン郊外の農村風景はこの数年で大きく変化し始めている。その代表格とされるのがビンズン省だ。
ホーチミンの中心地から車で1時間ほどのところにある地域が、現在、ベトナムでもっとも開発が進んでいる一帯だ。事実、ビンズン省では2013年にロッテマートやBig-C、2014年にイオンのショッピングモール2号店が誕生しており、若者たちにとって、グルメやファッションの中心地となりつつある。
都市開発のノウハウを持つ「東急電鉄」が打って出た!
そんなビンズン省で都市開発を進めているのが東京急行電鉄㈱(以下、東急電鉄)だ。
同社はビンズン省の約1000ヘクタールという広大な開発、ビンズン新都市の中に約110ヘクタールの開発エリアを擁し、国営企業のベカメックスIDC社(以下、ベカメックス)と合弁企業「ベカメックス東急」を設立し、総投資枠約1000億円という大規模な都市開発を展開している。
東急電鉄といえば、日本では田園調布をはじめとしたまちづくりを展開してきたことで知られる。その代表例は紛れもなく田園都市線沿線の街、多摩田園都市だろう。
緑豊富なイギリスのレッチワースを彷彿とさせる東急のまちづくりは高度経済成長期の真っただ中にあったサラリーマンの心をわしづかみにし、瞬く間に多くの日本人にとって憧れの地となった。
現在、渋谷駅周辺の大規模な再開発が行われているが、こちらの先陣を切っているのも東急電鉄である。そういったノウハウを生かし、東急電鉄はベトナムにおいて、従来のベトナム住宅にはない高い住宅品質だけでなく、安心・安全な生活空間、人々に憩いや楽しみをもたらす施設空間といった街づくりをパッケージで提供しようとしているのだ。
高度経済成長期の都市計画に成功した東急電鉄。その実績とノウハウはおそらく日本から遠く離れたベトナムの地でも成功するのではないか。私たちがそう考える最大の理由は、現在のベトナムの現状が日本の高度経済成長期のそれとよく似ているからだ。
日本のベビーブームよろしく、現在のベトナムの人口動態を見てみると圧倒的に若年層が多く、これから住宅を持つ人たちが多い。
しかも、投機的な動きによる地価の乱高下というリスクはあるものの、個人所得は増加傾向にあり、中間層や富裕層の人々は日本人と変わらない価値観で、高額な不動産や商品を購入する傾向にある。
転じて日本はどうか。国内の人口は減少傾向にあり、日本創成会議の試算によると、2040年には896もの自治体が人口減で消滅しかねないとまでいわれている。とすれば、当然、東急電鉄をはじめとした鉄道会社による沿線開発にも影響があり、もはや国内においては新たな路線開発およびそれとセットとなった大規模開発などは需要が少なくなる。
だからこそ、東急電鉄は海外に打って出た。日本で培ったノウハウを生かし、海外でのまちづくりに生かそうと取り組み始めたのだ。そして、その先進事例として注目されているのが、このベトナムでのまちづくりなのである。
では、その概要はどうなっているのか。ベカメックス東急は2012年3月からビンズン省にて東急ビンズンガーデンシティの開発に着手し始めた。
その場所は14年にビンズン省の新庁舎が完成し、省都移転されたビンズン新都市、もう少し詳細を伝えると、ホーチミン市の中心地から北に約30km、トゥヤウモット市から10km、ベトナム南部における有名な観光施設であるダイナム・ヴァン・ヒエンパークの近くである。
この一帯は省都の移転を機に住宅やオフィス、商業・娯楽施設、人口増加が予測されており、2020年に中央直轄市に昇格される予定となっている。
この流れを率先して進めるべく、ベカメックス東急は約110ヘクタールの開発面積を対象に、約1万戸の住宅、商業施設、業務施設などを開発する予定であり、居住人口約12万人、就業人口40万人という大規模なまちづくりを展開しているのだ。