幅広い品目が取引されている「商品市場」
工業製品などの完成品(product)に対して、原材料やエネルギーなどに用いられる品目を商品(commodity)という。商品という日本語は完成品を指すこともあるため、混乱を避けてコモディティと英語読みすることもある。
商品市場では非常に幅広い品目が取引されており、それぞれの商品で特徴や値動きが異なっている。商品市場全体の値動きを示す指標として、CRB指数がある。正式名称はThomson Reuters/Core Commodity CRB Indexといい、4分野19種類の商品から構成されている。
商品はそれぞれ独特の取引単位がある。原油ではバレル(約159リットル)、穀物ではブッシェル(トウモロコシ約25kg,大豆約27kg,小麦約27kg)、大豆ミールではショートトン(約907kg)、金やプラチナではトロイオンス(約31g)などがあり、砂糖や綿花など重さの単位としてポンド(450g)が使われる商品も多い。
エネルギー:原油/天然ガス/石炭など
原油(crude oil)、天然ガス(natural gas)、石炭(coal)などの商品はエネルギー源として使われるが、素材や添加物としての需要もある。原油(石油)はプラスチックや繊維、石炭は鉄鋼への添加物や電極などの材料にもなる。炭素繊維は軽量で強度も高いことから飛行機などへの利用が進んでおり、カーボンナノチューブやフラーレンは素材開発の際の添加物としても利用されている。
一方で、これらは化石燃料とも呼ばれ、燃焼時に温室効果ガスや微小粒子状物質(PM)などを多く排出することから、環境規制の対象になっている。特に発電の分野では、ヨーロッパなどで再生可能エネルギーへの移行が徐々に進んでおり、化石燃料からのダイベストメントも進んでいる。
アメリカのWTI(West Texas Intermediate)、ヨーロッパのブレント(Brent)、中東のドバイなどが主な原油の指標となっている。図表2のように、2010年代に入るとブレントがWTIを上回って推移するようになっている。アメリカ国内のシェールオイル増産による価格下落が背景にある。
原油は産地によって品質が異なり、一物一価の法則が当てはまらないことも価格差の原因になっている。原油は加熱して精製する。温度を徐々に高くすると一部の成分が気化する。この蒸気を集めて石油製品を作る。原油からは沸点の違いによって軽油※1、ガソリンが得られ、重油が沈殿物として残る。アラビアンライトのような軽質原油は軽油が多く取れ、アラビアンヘビーのような重質原油は重油が多く取れる。軽油の方が単価が高いため、軽質の原油の方がより高い価格で取引される。WTIのインターミディエイトも油質を表している。
※1 車の燃料ではディーゼル、暖房用では灯油、飛行機などのジェット燃料ではケロシンと呼ばれるが、基本的には同じものである。日本の飛行機のサーチャージはシンガポールで取引されるケロシン価格を参考に決められている。
原油の3大生産国は、アメリカ、ロシア、サウジアラビアであり、日量1000万バレルを生産している。かつては原油の生産は中東に偏っていた。20世紀には中東諸国が多く加盟するOPEC(石油輸出国機構)が原油価格を人為的に引き上げてオイルショックを引き起こしたが、世界各地で油田が発見され、技術が発達したことでOPECの価格支配力が低下している。オイルサンドやシェールオイルなどの生産が実用化され、原油の生産地はさらに広がった。
天然ガスはメタン(CH4)を主要成分とするガスで、原油や石炭に比べて、燃焼時の窒素酸化物や硫黄酸化物などの汚染物質の排出が少ない。ガスはパイプラインで輸送する方法の他に、冷却して液化天然ガス(LNG)にしてタンクで輸送できる。アメリカやロシアが主な産地だが、世界中で採掘できる。ロシア産の天然ガスはパイプラインでヨーロッパなど周辺地域に送られているが、ロシアの天然ガスは地政学的リスクの対象にもなりやすい。
石炭は最も安価にエネルギーを手に入れられる商品であり、多くの国で石炭火力が発電に用いられている。しかし、硫黄酸化物などの環境汚染物質の排出も多く、先進国では規制する国が増えつつある。
金属:貴金属/鉄/非鉄金属/レアメタル
金属は、貴金属(precious metals)、鉄(ferrous metals)、非鉄金属(non-ferrous metals)、レアメタル(minor metal)からなる。ロンドン金属取引所(London Metal Exchange:LME)では、図表3の商品が取引されている。
貴金属は非常に高価な金属を指す。図表3の他にも、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウムなどの白金族も貴金属と呼ばれる。
金(gold)は宝飾品としての需要だけでなく、電子機器の基盤配線などの工業品需要、外貨準備などの退蔵需要がある。プラチナ(platinum,白金)にもディーゼルエンジンの排ガス装置の触媒としての需要がある。パラジウム(palladium)はガソリンエンジンの排ガス装置の触媒に使われる。触媒とは化学反応を促進する物質のことで、エンジンから排出されるガスから汚染物質を取り除く処理に用いられる。
ディーゼル車は二酸化炭素の排出量が少ないことからクリーン車として普及していたが、2015年にドイツのフォルクスワーゲンで排ガス試験の不正問題が発覚したことや、パリなどの大都市で大気汚染が進んでいることからディーゼル車への規制が強化された。そのため、プラチナの工業需要が低下し、2015年以降は金価格を下回り、2018年にはパラジウム価格をも下回った。プラチナの産出量は金の20分の1ほどで希少性はプラチナの方が極めて高いが、価格は希少性だけで決まるわけではない。
貴金属では人件費の高騰や安全対策などで生産コストが上昇している。また、特にプラチナは生産国が南アフリカに偏っている。このため、スマートフォンなどの電子機器や自動車などから貴金属を回収する動きが始まっており、都市鉱山といわれている。
鉄や非鉄金属は貴金属に比べて価格は低いものの、現代社会に欠かせない物質が多く、住宅やビル、工業製品、輸送部門、電子機器などに広く用いられている。
図表5は主な金属の生産国上位5位を示しているが、表の読み取りには注意を要する。粗鋼では日本は世界2位であるものの、原料の鉄鉱石はほとんど産出されず、オーストラリアやブラジルなどから輸入している。また、アルミニウムはボーキサイトからアルミナを経て生産されるが、ボーキサイトはオーストラリア、中国、ギニアが主要産地となる。金属は鉱石の形で採掘されるが、金属製品への加工地は技術やコストを勘案して決められる。多くの金属は鉱石を高温で溶かして加工するが、アルミニウムは電気分解により精錬するため、電気代が大きな要因となる。電気コストの高い日本ではアルミニウムは生産されていない。一方で、表にはないが豊富な地熱で安価に電力を得られるアイスランドでは、アルミニウム製錬は主要産業になっている。
銅価格は景気を占う指標であるといわれる。銅は銅線をはじめ多くの製品で利用されていることから、銅の需要が減少するとその後の経済活動も低調になるといわれる。を見ると、銅価格と景気には一定の関係があるように見え、両者の相関係数は0.61と高い。ただし、銅価格を先行指標として1年後の世界GDPとの相関係数を見ると0.33に低下し、銅価格が先行指標であるとはいえない。
レアメタルやレアアース(rare-earth element)は様々な素材に添加することで性質を変えることができるものが多く、ビタミンの役割を果たすといわれている。レア(英語ではminor)という名前が付いているが、バナジウム、チタン、リチウムのように豊富に存在するものもある※2。レアメタルは地球上での存在量が少ない金属や、採掘が難しい金属を指す。人によって定義は異なるが30-40種類ほどの金属が該当する。
※2 リチウムは海水に含まれるため無尽蔵といえるほど存在するが、濃度が低く現在の技術では経済的な採算が取れない。
レアアースはネオジム、ジスプロジウム、テルビウム、イットリウムなど17種類があり、中国の産出世界シェアが約80%に達している。レアアースの多くが磁石、レーザー、光ファイバーなどに用いられ必要不可欠であるが、中国の経済政策により国際価格が大きく上下する。各国で代替材料の開発が進められているものの、レアアースへの依存度は非常に高い。
川野 祐司
東洋大学 経済学部国際経済学科 教授