“わからない”から物語に頼ってしまう
よくよく考えてみると、「老後不安」というのは、とてもよくできた物語です。
なぜなら、人は誰しも、自分が経験したことがないものに対しては不安を持つのは当然だからです。老後というのは誰にとっても、これから行く未知の世界ですから、不安になるのは仕方がないでしょう。
もちろん、収支予測をきちんとすれば、それほど心配する必要がないということは数字でわかりますが、未来のことは誰にもわかりませんから、予想できない事態が起こるかもしれないという不安は、いつまで経ってもつきまといます。
一方、すでに60代、70代になって、年金で生活している人は、「老後が安心だ」とは決して言いません。
そうでなくても年金受給世代は、若い人から「逃げ切り世代」などといういわれのない批判を受けていますから、「年金もらってありがたい。楽しい老後だ」などということは、思っていてもあまり言えないのです。
ですから、常に「老後不安」を顔に出して、ひっそりと暮らしているという人が多いと思います。
それに、すでに年金を受給している世代だって、ひょっとしたら今後、年金が大幅に減額されてしまうのではないかという不安を持っています。
でも、実際はそんなことはまったくありません。もし不安に思うのなら、拙著『知らないと損する年金の真実』(ワニブックス)に、きちんとしたエビデンスも示しながら解説をしていますので、ご覧になってみてください。
介護も実態をよく考えてみよう
また老後不安についていえば、年金以外のもう1つの不安が介護です。これは年金に比べて少し厄介です。というのは予測が困難だからです。
人間は誰でも年を取り、いずれは働けなくなります。だからこそ「年金」という制度があり、これは死ぬまで支給される仕組みになっているわけです。
ところが介護というのは、誰にでも必ず訪れるものではありません。自分が将来「要介護」の状態になるかどうかは、誰もわからないのです。
ただ、そうなった場合を想定して、どれぐらいの金額が必要なのかは知っておいた方がよいでしょうから、調べてみました。
公益財団法人「生命保険文化センター」のホームページに載っている「リスクに備えるための生活設計」を見てみると、80~84歳までの間で要介護になっている人の割合は26.4%となっています。約4人に1人ということですね([図表2])。
一方、介護に必要なお金は? というと、本人負担分が月額8.3万円、一時金として必要なのは74万円が平均となっています([図表3])。
さらに、介護期間の平均が5年1カ月ということですから([図表4])、かかる費用を全部合計して計算してみると、約580万円になります。ということは、介護にかかる費用のメドとしては600万円ぐらいということになります。
もちろん介護期間も金額もあくまでも“平均”であって、最頻値ではありませんから、人によって状況はさまざまでしょう。
でも男性でいえば、平均寿命が81.47歳だということを考えれば、80代前半での要介護比率が26.4%という数字を見る限り、多くの人は実際には介護されることなく亡くなる可能性の方が高いだろうと思います。
結局、先のことは誰もわからないという不安は、どこまでいってもなくならないから、「老後不安」という物語を信じてしまうのでしょう。