ここ数年、注目度が高まっている「民事信託(家族信託)」。民事信託を活用すれば、後見制度や遺言などでは実現が困難な財産管理・資産継承も可能となります。いつまで健康にいられるか、不安を感じる人も多いなか、健康である今のうちから、将来の備えを考えていくことが重要だと言われています。

適切な信託契約には、専門家のサポートが必要

筆者の勤める三井住友信託銀行では、まず受託者との金融取引を拡大することによって、家族信託の適切な普及を後押ししたいと考えています。

 

また、信託契約書の作成を始めとする信託契約のセットアップに係るコンサルティングの担い手は、弁護士をはじめとした士業の先生方です。また顧問の立場や信託監督人の立場で運営をサポートするのも士業の先生方です。

 

そのため、士業の先生方のコンサルティングや運営サポートが機能し、受託者との金融取引が円滑に行えるように、必要な助言を行うなどの連携を図っていくことも重要だと考えています。

 

民事信託スキームにおける連携のイメージ

 
民事信託スキームにおける連携のイメージ

平均寿命より約10年も短い「健康寿命」

医療技術の進歩や健康志向の高まりを受け、日本人の平均寿命は延伸していますが、その一方で、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を意味する「健康寿命」は平均寿命より約10 年も短いのが実情です。

 

そのため、今後は健常時から、将来の判断能力低下時に生じ得る財産凍結状態に対して、どのような対応をとっておくか、また、死後の財産承継に対してどのような備えを行っておくべきかという点への関心が、ますます高まると思われます。そして、後見制度や遺言等だけではかかるニーズに十分に応えられない場合があり、そのような場合に民事信託(家族信託)が有効な解決策の一つとなり得ることは、これまで述べてきたとおりです。

 

また、高齢者が自らの意思に沿った充実した余生を送ることができ、高齢者の親族に過度な負担が生じない社会が実現されるためには、健常時から上記のような対応を行うことへの意識が社会全体で醸成されることが重要です。そして、民事信託(家族信託)の普及はその一助となることでしょう。

 

信託全体の歴史に照らせば、高齢者の財産管理や資産承継を目的とする信託利用は黎明期にあるといえますが、今後、その実例が蓄積されることによって、民事信託(家族信託)がより発展・普及していくことが期待されます。

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