ロンドンでは、大手の保険会社で証券アナリストとして働き始めます。その後、1年ほどして、規模は小さいものの、急速に成長していた投資銀行に移ります。そこで、ドラッカーはエコノミストとして3人のシニアパートナー(共同経営者)の補佐役を務めます。
一人は70歳代の創立者で、あとの二人は30歳代半ばの若いシニアパートナーでした。二人の若い上司は、ドラッカーの仕事ぶりを高く評価していましたが、創立者はなかなか評価してくれませんでした。
そして、3カ月ほどたったある日、ドラッカーは創立者の上司に呼びつけられて次の言葉を投げかけられました。
「君が入社してきたときはあまり評価していなかったし、今もそれは変わらない。君は思っていたよりも、はるかに駄目だ。あきれるほどだ」。
二人のシニアパートナーから高い評価を得て、毎日のように褒められていたドラッカーは、あっけにとられます。創立者は続けてこう言いました。
「保険会社の証券アナリストとしては、よくやっていたことは聞いているよ。しかし、証券アナリストをやりたかったなら、そのまま保険会社にいればよかったじゃないか。今、君は補佐役だ。ところが君がやっているのは相変わらず証券アナリストの仕事だ。今の仕事で成果を上げるには、一体何をしなければならないと思っているのかね」
ドラッカーが失敗から学んだこととは
ドラッカーは頭に血が上ったものの、すぐにこのシニアパートナーの言うことが正しいことを認めざるを得ませんでした。
それからドラッカーは、仕事の内容も仕事の考え方も一新したのです。この一件以来、新しい仕事に就くたびに、その仕事と自分の役割において期待されているものは何かを考えるようになったと言います。
失敗は成功のもとといいますが、成功は失敗のもとでもあります。優れた成果を上げて昇進した人々の多くが、その後、なかなか成果を上げられないのは、かつての成功パターンを繰り返そうとするからだとドラッカーは言います。
さらにドラッカーは「昇進して新しい仕事に就いた人は、その仕事に、あるいはその役割に対して会社が期待しているものが何かを問うところから始めるべきだ」と教えています。
このドラッカーの失敗からの学びは、やがて、自己目標管理シートにおいて、「上司が期待すること」という記入欄と同僚からのヒアリングを通じて「今期担うべき役割」という記入欄を設ける必要があるという気づきにつながっています。
まさに、ドラッカーも失敗から学んだ人でもありました。
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