(※写真はイメージです/PIXTA)

狭い持ち家のためにローンを背負うのはばからしい。隣人ガチャに外れたらシャレにならないし、賃貸ならすぐ引っ越せる。おまけに少子化で、日本の住宅は余りまくるはず――。この理論には一理ある。だが現在、「賃貸派」の予想した展望とは、やや違う方向が見えてきた。とくに高齢者が置かれた状況は、想像より厳しいようで…。実情を見ていく。

「少子高齢化の家余りを見越し、住まいは賃貸派です」

持ち家か、それとも賃貸か。正解はどっち――?

 

それぞれメリット・デメリットがあり、結論が出ない「住宅論争」。本人のライフスタイルや価値観などによって、どちらを選ぶべきかは変わってくるだろう。

 

「先行き不透明な状況で、高額な住宅ローンを背負い込むのは大変」

「少子高齢化が進む日本では、家余りは必然」

「メンテナンスに負担がかかる持ち家より、キレイな賃貸に住み替え続ける方が合理的」

 

そのような判断から「賃貸派」となる人も多い。

 

さて、「賃貸派」が上記のような決断を行うに至った日本の社会的背景の移り変わりを見てみよう。

 

日本が「高齢化社会」に突入したのは1970年。その年、高齢化率は14%を超えた。その後、2007年には高齢化率21%を超え「超高齢化社会」へ。翌年から人口減少へと転じ、高齢化はさらに加速を続けており、2065年には38.4%に達するとの推測もある。

 

これを見れば「家余り」という見通しは当然に思える。

長引く不景気&急激なインフレで、予想外の展開に

一方で、65歳以上人口を15~64歳人口で支える割合だが、現在は現役世代2.0人で1人の高齢者を支えているところ、2040年には現役世代1.5人に1人、2065年には現役世代1.3人に1人の高齢者を支える社会になるといわれている。

 

当然ながら、社会保障の負担は重くなる一方であり、政府はいよいよ国民への自助努力をストレートに求め始めた。国は、国民1人ひとりへ資産形成を強く促している。多くのサラリーマンは給料が伸び悩み、重たい社会保障負担にあえぐこととなる。おまけに、ここ最近の急激なインフレ傾向だ。

 

住宅購入の是非を決断するのは、30代から40代ぐらいの年齢層が多いのだが、この時点で「家は買わず、一生賃貸にする」と決断した人のなかには、その後一向に上向かない日本の景気と、増える一方の社会保障費、インフレのトリプルパンチにあえぐ人も多いだろう。

 

そのため、老後資産形成を目指す人たちは、常に収入と家賃をチェックして、少しでも無駄な出費を抑えるよう、注意を払っている。

 

ならば、それなりの資産を保有していれば大丈夫なのかといえば、実はそうとも限らない。年を重ねるごとに賃貸の審査は厳しくなる傾向にあるからだ。

 

「家余り」による「家賃下落」「物件選び放題」のはずが、逆に賃貸物件への入居が厳しくなっている現状もある。株式会社R65の調査では、高齢者の4人に1人が「不動産会社に入居を断られた経験がある」と回答し、なかでも「5回以上断られた経験がある」という人は13.4%にも上るという。

元エリート会社員、「家賃滞納」の危機一髪

経済的な理由で「家賃も払えないし、引っ越しもできない」そんな事態に陥ったら、どうなるか。

 

大家や不動産会社の催促に応じずにいると、債権回収のプロがやってくる。場合によっては、昼夜を問わない催促の電話や、玄関ドアへの貼り紙、支払い義務のない人への請求、部屋の鍵を勝手に交換といった、違法性が高く手荒な家賃督促が行われることもある。「違法行為なのだから訴えれば?」という意見は極めて真っ当だが、いざ当事者となれば、恐ろしい思いに震え上がってしまい、手も足も出ないという人も多い。そして、家賃の督促に応じられなければ裁判となり、最終的に追い出されることになる。

 

万一滞納してしまったら、1ヵ月分でもいいので家賃を入れて、大家や管理会社に支払いの意思を見せよう。それ以外にも、公的融資制度を活用したり、生活困窮者自立支援制度を利用するなどで対処することが必要だ。

 

実は、高齢者の家賃滞納は貧困層に限ったことではない。かつて高給取りのサラリーマンだった人でもリスクは存在する。

 

上場企業のサラリーマンだった、65歳のA氏は話す。

 

「一番給料が高かったとき、約1000万円でした。サラリーマン時代に生活していたのは都内の家賃18万円のマンションでしたが、私は結婚が早く、子どもたちが早々に独立したため、十分ゆとりがあると思っていたのです。そうはいっても、嘱託社員になったら郊外に住み替え、年金生活になったら実家のある静岡に帰る予定でした」

 

ところが、いざ嘱託社員になったらA氏の妻が引っ越しを渋った。専業主婦の妻は、利便性が高く広いマンションから出たくないというのだ。

 

「そのときは、まあ、やっていけるだろうと思いました。妻には〈65歳になったら静岡に帰るからな〉というと、〈わかってるわよ〉と…」

 

ところが、自分が相続するつもりでいた静岡の実家には、熟年離婚した妹が住み着いてしまい、計画が狂うことに。

 

「正直焦りましたが、こればかりは仕方ありません。年金生活に切り替わる1年前からあちこちマンションを探し回りましたが、なかなか決まりません。いいと思う物件は断られ、神奈川や千葉の物件だと、妻が〈こんな場所はいや〉、23区内の物件を見せると〈狭い〉といって、まったく決まりません」

 

そうこうしているうちに、65歳を迎えて本格的な年金生活に。なんとか妻を説き伏せ、東京都下のマンションに引っ越したそうだが、モタモタしていたため、大事な預貯金を大きく目減りさせてしまった。

 

A氏からもわかるように、サラリーマン人生で収入が大きく減るタイミングは2回。定年退職のタイミングと、年金収入のみに切り替わるタイミングだ。再雇用制度などで定年後も働き続ける人が増えているが、再雇用になった時点で給料は2~3割ほど減額される。

 

リタイアして完全な年金生活に入ると、さらに収入は半分以下に。収入が下がるタイミングで、都度、生活費をダウンサイズできるなら問題ないが、生活水準を下げることは意外に難しく、うまく切り替えられない人も多いのだ。

 

現役時代の収入なら、どうということもなかった家賃でも、年金収入だけになれば、負担は非常に大きい。以前の感覚で生活し、不足分を預貯金からちょくちょく補っていれば、いつの間にかと引っ越し費用も出せないほどの困窮状態になる可能性もある。

 

高齢者が増えれば、不動産会社も高齢者を相手にせざるを得ないだろうが、だからといって、高齢者が物件が選び放題になるわけではない。

 

まずは「収入が下がっても、問題なく暮らせる生活レベル」をシミュレーションのうえ、その感覚を把握し、収入に見合った生活にシフトすることが重要だ。

 

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