◆問題点1|最低賃金が引き上げられてきたのに「壁」は動かず
最低賃金(全国加重平均額)は、2003年には「時給664円」でしたが、2022年10月には「961円」へと1.5倍近くにまで上昇しています。(【図表2】)。ところが、「壁」の金額はそのままです。
したがって、単純計算すると、「壁」の範囲内で働く人は、20年前と比べ、労働時間が約3分の2になっていることがあるということです。
この20年で最低賃金も物価も上昇していることを考慮すると、「壁」の額がそのまま据え置かれているというのは合理性を欠くといわざるをえません。
ただし、「壁を引き上げればよい」かというと、そうともいえません。
古くから、「壁」の制度は、その範囲内で働く人をそれ以外の人よりも優遇するものであり不公平であるとの批判が根強くあります。
もしも壁を引き上げれば、不公平の問題がさらに大きくなります。
◆問題点2|「壁」が女性の社会進出を妨げている
第二の問題点は、「壁」の制度が女性の社会進出を妨げているということです。
パート・アルバイトとして働く女性が、実質的な手取りが減ることをおそれ、「壁」を意識して労働時間をセーブするということが行われています。
2014年3月の時点で、安倍晋三首相(当時)は「第1回経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議」において、「壁」を含む現行の税・社会保障制度について「女性の就労拡大を抑制する効果をもたらしている」と明言しています(議事要旨P.13参照)。
「老後不安」「年金不安」が指摘されている現在、目先の「壁」を気にして所得獲得活動を控えることは本人の首を絞めることになりかねません。
また、所得獲得活動の抑制は国にとっても税収の減少につながり、大きなマイナスとなります。
政府も「壁」の解消に乗り出したが…
以上の問題点を踏まえ、政府は、ようやく、「壁」の制度を解消することの検討を始めました。
その方法は、「106万円の壁」について、壁を超えたことで発生する社会保険料の負担について、国が企業への助成を行うということです。
なお、社会保険料は雇用者と労働者が半分ずつ負担するしくみになっていますが、企業の分だけではなく、労働者の分も負担する案が検討されているもようです。
しかし、これは結局「壁」が形を変えるだけであり、上述した2つの問題の根本的な解決にならないという指摘もなされています。
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