(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供するデイリーマーケットレポートを転載したものです。

 

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【目次】

1.SVB問題と金融政策~慎重な利上げ

2.ファンダメンタルズをチェック~粘着的なインフレ

3.米国株式市場の見通し~最重要課題はインフレの行方

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米国の金融・マクロ環境はシリコンバレー銀行(SVB)等複数の地方銀行の破綻をきっかけに大きく変化しました。今回はSVB問題発生後の米国金融・マクロ環境を整理し、米国株式市場の今後の展開についてまとめました。

1.SVB問題と金融政策~慎重な利上げ

(1)SVB問題で一変した金融環境

■3月上旬の議会証言で、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、堅調な雇用や粘着的なインフレを背景に3月に利上げ幅を再拡大する旨を示唆しました。その直後に発生したSVB問題を契機に金融市場は一変し、金融不安の様相を呈することとなりました。米金融機関の信用リスクを示す「FRA-OISスプレッド」は一時的に60bpを超えるところまで拡大した後、足元では40bp前後で推移しています。同スプレッドは今回の問題が起こる前の10bpを下回る状況に比べると高止まっています。

 

 

(2)金融ストレス指数上昇の景気への影響試算

■金融市場の緊張感を示す金融ストレス指数も▲1前後から+1前後まで引き締め方向に一気に上昇しました。足元でも+0.77と高止まっています。今後、中小銀行を中心に貸出態度は一層厳格化する可能性が高く、年央以降の景気見通しにとってはマイナスに作用すると考えられます。

 

■弊社では金融ストレス指数が+1ポイントの変化で成長率に年間ベースで▲0.3%程度の影響があると試算しています。金融ストレス指数は約2ポイント上昇しているのでGDPへの影響は▲0.6%程度となります。今後中小銀行の貸出基準の厳格化を通じて、金融環境の引き締め的な状態が年後半に向けて約半年間程度維持すると考えています。半年であれば約半分の▲0.3%程度の景気抑制圧力として影響する見通しです。

 

 

(3)中小銀行への政策対応で緊張感は若干緩和

■金融不安がエスカレートするリスクには引き続き警戒する必要があると考えられます。ただし、破綻銀行の預金全額保護や適格担保の額面買取などの対策が迅速にとられたことで、株式市場や債券市場は落ち着きを取り戻しつつあります。当面は流動性を確保する動きが続くと思われますが、政策対応が適宜実施されることで金融不安を巡る懸念は徐々に解消されていく可能性もありそうです。

 

 

(4)慎重な利上げ ~今後インフレが再び焦点となる可能性がある

■FRBは、SVB問題も考慮した上で3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利上げを決定しました。金融不安が燻る中でもインフレへの対応を継続することをアピールしました。

 

■同時に発表されたFOMCメンバーによる金利予想を示すドット・チャートは、利上げの終着点(ターミナルレート)想定を据え置き、残りの利上げがあと1回に留まるというハト派的な見通しとなりました。金融不安が深刻化すれば、即利上げを停止する姿勢をみせたことで、金融市場に安心感を与えたとみられます。

 

■ただし、信用収縮による景気の悪化、インフレ上昇率の鈍化がドットの前提となっている点には留意が必要です。金融不安による信用収縮が利上げ効果を代替するとされていますが、今回の金融不安により、実際に景気がどの程度悪化するかは、現時点ではかなり不確実性が高いと思われます。足元の堅調な雇用や粘着的なインフレに再び焦点が当たる可能性も否定できません。

 

2.ファンダメンタルズをチェック ~粘着的なインフレ

(1)堅調な雇用、生産活動

■米国の雇用等は引き続き好調ですが、生産活動は悪化しています。

 

■2月の非農業部門雇用者数は前月比31万人増でした。大幅な増加となった1月の50万人に続いて事前予想を上回りました。また、週次でデータが発表される米国新規失業保険申請件数も増加しておらず、雇用情勢は引き続き堅調とみることができそうです。

 

■求人が慢性的な人手不足により高止まりする一方で、企業は価格転嫁により何とか企業収益を確保しており、いまだ雇用コストを抑制する段階には至っていないと思われます。雇用カットはハイテクセクターを中心とした一部の企業に留まっており、マクロ全体には広がっていない様子です。

 

■一方、生産活動は供給管理協会(ISM)製造業景況指数が下振れをみせるなど、すでに悪化しています。生産活動の調整に伴い、機械投資に軟化がみられます。住宅販売も大きく減少し続けており、利上げ効果が波及していると思われます。また、建設投資など公共投資が増加しており、財政拡張の効果がみられます。なお、コロナ禍の政府支援によって家計部門には過剰貯蓄残高が積み上がっており、足元でも個人消費を下支えしている模様です。

 

 

 

(2)インフレは粘着的で正常化が遅れている

■インフレは最悪期を脱してはいるものの、粘着的に推移しており、正常化が遅れています。振れの大きいエネルギーと食品を除くコア消費者物価指数(CPI)のうち、財価格の増勢は在庫の復元により一巡しました。ただ、サービス価格は家賃や余暇娯楽を中心に目立った鈍化は見られていません。

 

■賃金もピークアウト感が出始めてはいるものの、高い伸びが続いており、総じて雇用コストを販売価格に転嫁する動きが続いていると思われます。足元はインフレ率、賃金の上昇率は鈍化していませんが、景気は年後半に緩やかに悪化する見通しで、インフレ率、賃金の上昇率も鈍化していくと思われます。

 

3.米国株式市場の見通し ~最重要課題はインフレの行方

(1)弊社のメインシナリオ

■SVB問題に端を発した金融不安は当面燻り続けると思われます。その中で、弊社は以下のように見通しています。

 

景気…雇用の動きなどから、緩慢な減速局面がやや長く続く見通しです。金融環境の悪化により23年後半にかけ米景気は減速すると予想しています。

 

金融政策…FRBは金融不安が利上げ(0.25%)2~3回分の効果を持つとみて3月の利上げを小幅にとどめました。今後は5月に追加利上げ(0.25%)後、様子見に転換する見通しです。

 

債券市場…当面、変動性の高い展開が続く見通しです。年後半にかけて景気後退の確度が高まることと利上げが終了することで、金利低下に対する期待が入りやすい局面になると思われます。実際に利下げに至らなくても、緩やかに金利が低下する見通しです。

 

株式市場…当面、変動性の高い展開が続く見通しです。年後半にかけては、利上げ一巡後の金融緩和期待と、景気減速後の24年以降の回復を意識した展開で下値を切り上げると想定しています。

 

 

 

(2)リスクシナリオ

■上記のメインシナリオが実現するには、インフレが緩やかながら低下することが条件です。インフレの行方によって株式市場が上ぶれたり、下ぶれたりするリスクがあります。

 

・ダウンサイドリスク…インフレ率の低下が引き続き緩慢で、再度、市場の関心がインフレの行方に集まり、利上げ継続の可能性が高まる場合が考えられます。市場は足元ではSVB問題を中心に金融不安に注目していますが、FRBはそもそもインフレを抑え込めていません。また、貸出基準の強化から銀行の貸し渋りが起きれば、信用悪化の効果は概ね半年後に顕在化するため、年後半の景気停滞が想定よりもやや深いものとなる可能性があります。この場合は株価の頭が抑えられると思われます。

 

・アップサイドリスク…金融不安はこれ以上拡大せず、インフレ率、賃金上昇率が想定以上に急減速する場合が考えられます。この場合は、極端な景気悪化を伴わずに利上げが終了し、その後の金融緩和期待が高まると思われます。

 

 

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『植田総裁の下で「日銀新体制」始動、金融緩和の修正はあるか?4月の注目イベント【マーケットのプロが解説】』を参照)。

 

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

 

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