燻る金融市場の不透明感
■米国では、3月10日にシリコンバレー・バンク(SVB)、12日にシグネチャー・バンクが破綻しました。これを受け、12日同日に、米財務省、米連邦準備制度理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)が2行の預金を全額保護する例外措置を発表しました。FRBは金融システムが機能不全に陥るリスクを抑制するため、新たな流動性対策を発表しました。また、中堅銀行でハイテク企業との取引が多いとされるファースト・リパブリック・バンクに経営不安が広がりました。20日にJPモルガン・チェースなどの大手銀行が新たな救済策の検討に入ると報道されるなど、金融市場の不透明感は依然燻っています。
安定して資金が流入する米国投資適格社債ファンド
(1)米国投資適格社債の利回りは低下
■こうした中、米国クレジット市場では、ハイ・イールド社債の利回りが上昇する一方、投資適格社債の利回りはむしろ低下しており、信用力が総じて高い投資適格社債が選好されていると思われます。
■金融不安が高まる中、投資適格社債と国債の利回り格差(オプション調整後スプレッド(OAS))は若干の拡大がみられましたが、過去に比べても落ち着いた推移となっています。リーマンショック時、金融当局の銀行に対する規制が強まり、銀行の財務安定性が高まったこと、金融当局が迅速に対応していることで、スプレッドの大幅な乖離は回避されそうです。
(2)米国投資適格社債ファンドへ着実に資金が流入
■金融市場の不透明感が燻る中、米国投信マネーでクレジット市場への資金流出入を確認しました。
■2022年1月以降でみると、米国ハイ・イールド社債ファンドは資金流出傾向が続いています。高いクーポン収入がパフォーマンスを支えていますが、エネルギーセクターが多いことやデフォルト率が若干ではあるものの上昇する傾向にある中で、さらに足元で金融不安が高まっていることが嫌気されていると思われます。
■一方、米国投資適格社債ファンドは2022年7月頃から流入超に転じ、以後安定して資金流入が継続しています。足元ではパフォーマンスも改善し始めています。
今後の展開:業績回復がやや遅れる可能性はあるものの、良好な財務を背景に投資適格社債への資金流入は継続しよう
■米国投資適格社債ファンドへの資金流入は景気見通しと金融政策、企業業績と財務状況がカギを握りそうです。中小銀行が預金の流出に備えた流動性の確保などから貸出に慎重となり、金融環境がタイト化することで設備投資の減少など経済活動が鈍化することも想定されます。年後半以降、米景気は浅い後退局面を迎える可能性が高まっています。また、米金融政策は利上げも一巡し、金融緩和への期待が改めて高まると思われます。
■企業業績ですが、リフィニティブの集計によればS&P500採用企業(除くエネルギー)の予想利益成長率(前年同期比)は2023年7-9月期が+7.5%、10-12月期は+13.5%と決して悪くはありません。今後、金融セクターを中心に下方修正される可能性はありますが、浅い景気後退であれば、全体としては大幅な業績悪化は回避できそうです。一方、米国企業の財務は、EBITDA有利子負債倍率が23年3月現在1.63倍と2月の1.57倍よりは若干上昇していますが、良好な状態が続いています。以上から、米国投資適格社債ファンドへの資金流入は継続すると期待されます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『安定して資金が流入する「米国投資適格社債ファンド」…投信フローから見た米国クレジット市場【マーケットのプロが解説】』を参照)。
三井住友DSアセットマネジメント株式会社