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【目次】
1.人生100年時代、年金だけじゃ足りない老後資金
2.「長期・分散・複利」と税制優遇制度活用で大切な資産を守り育てる
3.「運用の継続」で老後資産の寿命も延ばす
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1.人生100年時代、年金だけじゃ足りない老後資金
(1)長期化する退職後の期間と老後資金
■厚生労働省の「簡易生命表(令和3年)」によると、2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳となっており、日本は世界でも有数の長寿国です。今後も、医療の発達等とともに寿命は延びそうだと考えられ、日本は今まさに「人生100年時代」が到来しています。
■100年にわたる人生は、資産運用の観点から見ると、勤労による収入を主とする「勤労世代」と、定年退職等によって公的年金等による収入を主とする「退職世代」の2つに分けて考えることができます。寿命が延びることで退職世代の期間も伸びており、その期間は勤労世代の期間に近づきつつあります。
■総務省の家計調査(新型コロナウイルス感染症等の影響がない2019年)によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上妻60歳以上の夫婦の世帯)では、1ヵ月の平均収入は約23.8万円でした。一方、1ヵ月の平均支出は約27.1万円と、毎月約3.3万円の赤字です。さらに、「ゆとりある老後生活」のためには約36.1万円が必要(生命保険文化センター調べ)と考えられ、毎月約12.3万円の赤字になります。つまり、平均的な支出では約1,200万円、「ゆとりある老後生活」を送りたい場合には約4,400万円が必要と考えられます(図表1参照)。
■また、退職時には退職金を受け取るケースも多いでしょう。2018年の厚生労働省の調査によれば、いわゆる退職金にあたる定年時の平均退職給付額(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者1人あたり)は、大学・大学院卒で1,983万円、高校卒で1,618万円(いずれも管理・事務・技術職)でした。つまり、退職金を受け取ることができたとしても、ゆとりある老後生活を送るためには、退職金を除いて約2,400~2,800万円程度の資金を用意する必要があります(※住宅ローンは退職金受取前に完済しているものとします)。
(2)インフレで必要な老後資金はさらに膨らむ?
■日本ではこれまで長らくデフレが続いてきたものの、昨年からは急速に物価上昇が進んでいます。これに伴い、賃上げの動きも一段と増しており、いよいよ本格的なインフレ時代を迎えそうです。とすれば、今必要と考えられている老後資金もインフレによって膨らむと考えられます。
■前項で算出したゆとりある老後生活に必要と考えられる約2,400~2,800万円の資金は、インフレが無い場合を想定したものでした。ここで、今後物価が年率1%で上昇し続ける場合を考えてみます。ゆとりある老後生活に必要と考えられる1ヵ月の支出は年率1%で上昇するとします。一方収入の年金額は、年金財政の均衡の面から物価の伸びよりも抑えられることになっているため、1ヵ月の平均収入は年率0.8%で上昇すると仮定します。この場合、不足する資金は6,552万円と計算できます。なお、平均的な退職金額は、物価と同様に年率1%(35歳から65歳までの30年後)で上昇したとすると、大学・大学院卒の退職金1,983万円は2,646万円となります。これにより、退職金を引いた場合の不足資金は約3,900万円と考えられます。
■このように、ゆとりある老後生活を送るために必要な資金は、インフレが無ければ約2,400万円でしたが、インフレがある場合では約3,900万円まで膨れ上がることになります。こうしたことからも、物価上昇率を上回る運用利回りでの資産形成が必要そうです。
2.「長期・分散・複利」と税制優遇策活用で大切な資産を守り育てる
(1)資産運用のコツは「長期・分散・複利」
■資産運用のコツは「長期・分散・複利」の3点です。「長期」で投資することにより、景気や相場の下落の波を乗り越えて、期待リターンを引き上げることが可能となります。また、資産(アセット)の種類や国・地域等、投資先を「分散」させて異なる値動きの資産を組み合わせて保有することで、リスク/リターンを改善させることができます。さらに、収益を再投資して「複利」のリターンを享受することで、長期的に収益を積み上げていくことができます。そのため資産形成は、少しでも早く始めて、より長い投資期間を確保することが効果的と考えられます。
(2)「長期・分散・複利」のモデルケース・GPIFを参考に
■「長期・分散・複利」での運用は、個人だけでなく機関投資家も採用しています。代表的な機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、私たちの大切な厚生年金や国民年金といった巨額の資産の運用を行っており、運用の参考にできると思われます。例えば、GPIFのポリシーアセットミックスは、国内株式、海外株式、国内債券、海外債券に、概ね4分の1ずつの配分としているなど、まさに「長期・分散・複利」のポートフォリオ運用を実践しています。GPIFの市場運用開始以降(2001年度~2022年度第3四半期)の収益率は、年率3.38%となっています。
■例えば、GPIFを参考にして、平均して年率3.38%で運用ができたとします。すると、インフレが無い場合の老後資金・約2,400万円を用意するには、運用しなければ単純に毎月約6.7万円の積立額となるところ、運用した場合では毎月3.8万円となり、毎月の必要額は少なくて済みそうです。一方、今後物価が上昇し続けた場合に必要と試算される約3,900万円を貯える目標とする場合は、運用した場合では毎月約6.2万円が必要となります。
(3)税制優遇制度を活用
■運用効率を高めるためにはiDeCoやNISAといった税制優遇制度を活用すると効果的です。iDeCoは「個人型確定拠出年金」のことで、公的年金とは別に給付を受けられる私的年金制度の一つです。加入者によって拠出上限額は異なりますが、掛金は全額所得控除されるほか、運用時にかかる運用益が非課税となります。受取時には、年金か一時金かの受け取り方法の違いによってそれぞれの税控除が受けられます。NISAは「少額投資非課税制度」のことで、株式や投資信託の売却益や配当益にかかる税金が一定の投資上限額まで非課税となります。
■NISAはこれまでも制度が拡充されてきましたが、2024年からは新NISAが始まり、従来の一般NISAにあたる「成長投資枠」の上限が年間240万円、従来のつみたてNISAにあたる「つみたて投資枠」の上限が年間120万円へとそれぞれ引き上げられ、最大1,800万円までの投資が可能となります。このため、夫婦であれば3,600万円、成人した子供がいればさらにその人数分も家族の投資可能枠となり、非課税となる投資可能額はさらに大きくなります。投資可能額が大幅に増えるだけでなく、保有期間の上限が無くなるため、制度は実質的に恒久化されます。
3.「運用の継続」で老後資産の寿命も延ばす
(1)老後資産は運用を継続しながら定率で取り崩す
■退職世代となってからは、運用を継続しながら資産を取り崩すことで「資産寿命」を伸ばすことが可能となります。今後、基調的に物価が上昇する場合では、勤労世代に資産形成を進めていた時よりもリスクを低減させたとしても、物価上昇率を上回る運用利回りを確保することができれば、「資産寿命」を伸ばすことができると考えられます。
■図表4では、①運用せずに毎月定額を取り崩した場合、②運用しながら毎月定額を取り崩した場合、③運用しながらその時点の元本の定率を取り崩した場合、を比較しました。
■試算では、運用しながらの②、③の方が「資産寿命」が長くなりました。③では、相場下落時の取り崩し額が抑えられる他、運用年数が経過するほど取り崩し額が少なくなっています。このため、③では資産の取り崩しを始めて30年経過後でも1,000万円以上の資産が残る形となり、「資産寿命」を伸ばせる可能性が高まると考えられます。
(2)NISA恒久化で退職後の運用にも活用
■税制控除は退職後も活用できます。NISAは、累計1,800万円の投資枠上限に達した後でも、売却をして投資枠に空きが生まれれば、年間の投資上限枠内で、さらに運用することができます。制度をしっかり活用することで、売却益や配当にかかる税金を節税することができ、「資産寿命」のさらなる延長が期待できます。
まとめ
長寿国の日本は、今まさに「人生100年時代」を迎え、物価上昇が今後も継続すると想定すると、必要となる老後資金もさらに膨らむと考えられ、資産形成の必要性はますます高まっています。
「長期・分散・複利」の3点を運用のコツとして、税制優遇制度を活用することで運用利回りを高めることが可能になり、より効果的に資産形成できると期待されます。
退職世代となってからも、NISAを上手に活用しながら、毎月定額ではなく定率で資産を取り崩し、運用をより長く続けることで、「資産寿命」は延ばすことができると考えられます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『【人生100年時代の資産運用】「長期運用」と「税制優遇制度の活用」で、老後資産もインフレ対策を!(マーケットのプロが解説)』を参照)。
三井住友DSアセットマネジメント株式会社