(※写真はイメージです/PIXTA)

経済が停滞している場合、国が適切に「財政支出」をして対策を行うことは不可欠です。そこで問題となるのが「財源」です。国家は貨幣を「無」から創造できるので、必ずしも「税収」による制約を受ける必要はありません。ただし、ただ貨幣を生み出せば良いわけではありません。評論家の中野剛志氏が新刊著書『どうする財源——貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)より、あるべき財政支出のルールについて解説します。

「健全財政」と「機能的財政」、2つの考え方

たとえば、健全財政では、財政赤字は常に悪いものとみなされています。

 

しかし、機能的財政では、財政支出を増やしたり減税したりして、景気が良くなり、失業が減るのであるならば、その結果、財政赤字になったとしても、その財政赤字は良いものなのです。

 

ただし、財政支出の増加や減税によって、景気が過熱し、需要が増えすぎて供給が追いつかなくなり、高インフレになって、国民は苦しむ結果となったとします。この場合、財政赤字は、高インフレを引き起こしたからという理由で、悪いもの、減らすべきものだと判定されるのです。

 

逆に言えば、健全財政では、財政黒字は常に良いもので、目指すべきものだとされています。しかし、機能的財政では、財政黒字を達成しても、その結果、不況になって失業が増えるようでは、その財政黒字は、悪いものとみなさなければなりません。

 

このように、財政赤字は絶対に悪、財政黒字は絶対に善なのではありません。

 

財政赤字(あるいは黒字)が国民を幸福にするなら善、不幸にするなら悪。

 

これが、機能的財政の基本的な考え方です。

財政支出は「高インフレになる前まで」

さて、政府は、財政支出をどこまで増やすことができるのか。財政赤字をどこまで拡大できるのか。

 

機能的財政によれば、それは「実物資源の利用可能量の限界まで」すなわち「高インフレになる前まで」ということになります。

 

つまり、財政支出の上限は、インフレ率で判断すべきだということです。

 

「政府債務/GDP」で判断すべきものではありません。

 

ましてや、日本政府のように、「プライマリーバランス」(税収・税外収入と、国債費[国債の元本返済や利子の支払いに充てられる費用]を除く歳出との収支のこと)の黒字化を目標にするなど、論外です。

 

ですから、財政支出は、高インフレになった場合には「大きすぎる」ということになります。逆に、低インフレやデフレである場合は、「政府債務/GDP」が何%になっていようが、「プライマリーバランス」がいくら赤字になっていようが、財政支出は「少なすぎる」ということになります。

 

さて、日本の「政府債務/GDP」は、これまでずっと膨らみ続け、2020年には256.2%にまでなりました。

 

ところで、その間、日本は、高インフレだったでしょうか?

 

いいえ、その逆に、過去20年以上にもわたってインフレどころか、ほぼデフレでした。

 

[図表1]をご覧ください。日本は、1998年度以降、ずっとデフレ、もしくはディスインフレ(物価が横ばいで推移し、上がらない状態)です。なお、1997年度、2014年度、2019年度にインフレ率が上がって見えますが、これは消費税率を引き上げたから、見かけ上、上がったにすぎません。実際、翌年度からすぐに下落しています。

 

政府債務残高とインフレ率(出典)政府の長期債務残高は財務省、インフレ率は総務省
[図表1]政府債務残高とインフレ率 (出典)政府の長期債務残高は財務省、インフレ率は総務省

 

さらに[図表2]をご覧ください。2020年度にはコロナ対策により、プライマリーバランスの赤字が前年度の約4倍にもなったのに、インフレ率は下がり、デフレになってしまいました。

 

(出典)内閣府のデータをもとに、三橋貴明氏作成・提供
[図表2]プライマリーバランスとインフレ率 (出典)内閣府のデータをもとに、三橋貴明氏作成・提供

 

要するに、日本の財政支出は、なお全然足りなかったということです。言い換えれば、利用可能なヒトやモノがあったのに、利用されずに放置されていたということです。

 

 

中野 剛志

評論家

 

※本連載は中野剛志氏の著書『どうする財源——貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

どうする財源 貨幣論で読み解く税と財政の仕組み

どうする財源 貨幣論で読み解く税と財政の仕組み

中野 剛志

祥伝社

21世紀の経済原論 あらゆる経済政策には、財源の裏づけが必要である。政府は往々、財源として増税を実行する。では、私たち国民は、増税の根拠となる「財源」についてどれほど知っているだろうか。本書では、貨幣とは何かと…

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