「健全財政」と「機能的財政」、2つの考え方
たとえば、健全財政では、財政赤字は常に悪いものとみなされています。
しかし、機能的財政では、財政支出を増やしたり減税したりして、景気が良くなり、失業が減るのであるならば、その結果、財政赤字になったとしても、その財政赤字は良いものなのです。
ただし、財政支出の増加や減税によって、景気が過熱し、需要が増えすぎて供給が追いつかなくなり、高インフレになって、国民は苦しむ結果となったとします。この場合、財政赤字は、高インフレを引き起こしたからという理由で、悪いもの、減らすべきものだと判定されるのです。
逆に言えば、健全財政では、財政黒字は常に良いもので、目指すべきものだとされています。しかし、機能的財政では、財政黒字を達成しても、その結果、不況になって失業が増えるようでは、その財政黒字は、悪いものとみなさなければなりません。
このように、財政赤字は絶対に悪、財政黒字は絶対に善なのではありません。
財政赤字(あるいは黒字)が国民を幸福にするなら善、不幸にするなら悪。
これが、機能的財政の基本的な考え方です。
財政支出は「高インフレになる前まで」
さて、政府は、財政支出をどこまで増やすことができるのか。財政赤字をどこまで拡大できるのか。
機能的財政によれば、それは「実物資源の利用可能量の限界まで」すなわち「高インフレになる前まで」ということになります。
つまり、財政支出の上限は、インフレ率で判断すべきだということです。
「政府債務/GDP」で判断すべきものではありません。
ましてや、日本政府のように、「プライマリーバランス」(税収・税外収入と、国債費[国債の元本返済や利子の支払いに充てられる費用]を除く歳出との収支のこと)の黒字化を目標にするなど、論外です。
ですから、財政支出は、高インフレになった場合には「大きすぎる」ということになります。逆に、低インフレやデフレである場合は、「政府債務/GDP」が何%になっていようが、「プライマリーバランス」がいくら赤字になっていようが、財政支出は「少なすぎる」ということになります。
さて、日本の「政府債務/GDP」は、これまでずっと膨らみ続け、2020年には256.2%にまでなりました。
ところで、その間、日本は、高インフレだったでしょうか?
いいえ、その逆に、過去20年以上にもわたってインフレどころか、ほぼデフレでした。
[図表1]をご覧ください。日本は、1998年度以降、ずっとデフレ、もしくはディスインフレ(物価が横ばいで推移し、上がらない状態)です。なお、1997年度、2014年度、2019年度にインフレ率が上がって見えますが、これは消費税率を引き上げたから、見かけ上、上がったにすぎません。実際、翌年度からすぐに下落しています。
さらに[図表2]をご覧ください。2020年度にはコロナ対策により、プライマリーバランスの赤字が前年度の約4倍にもなったのに、インフレ率は下がり、デフレになってしまいました。
要するに、日本の財政支出は、なお全然足りなかったということです。言い換えれば、利用可能なヒトやモノがあったのに、利用されずに放置されていたということです。
中野 剛志
評論家