(画像はイメージです/PIXTA)

ある高齢女性は、資産家の夫から相続した財産を、夫の甥に「伯母さんが死んだらあげる」と、ことあるごとにいっていました。女性の実子である娘2人はまともに取りあいませんでしたが、女性の葬儀後、甥から「口頭での遺贈は有効」と主張され、困惑します。実際はどうなのでしょうか。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が解説します。

お年寄りがいいがちな「死んだらあげる」の効力は?

「死んだらあげる」相手の気を引くための冗談なのか、本気なのか、そういうことをいう方は高齢者に多いです。今回は、「死んだらあげる」というのは法的に有効なのか、それで財産は本当にもらえるのかということについてご説明します。

 

まず、「死んだらあげる」というのは、遺言と考えられます。そこで、遺言として有効でしょうか。

 

遺言には、一般的に、自筆証書遺言、公正証書遺言の2種類があります。いずれも書面が作成されます。

 

当事者間での口頭の遺言は無効です。

 

だからといって、百合子さんと菊子さんは、何もしなくても自宅やマンションを智さんに取られる心配はないかというと、そうではありません。

 

なぜかというと、口頭の遺言は無効でも「口頭の贈与は有効」だからです。

 

「死んだらあげる」というのは、「死因贈与」といわれています。死因贈与は法律上は贈与なので、一般的な贈与が口頭でも有効とされていることから、口頭の死因贈与も有効となります。

 

口頭の贈与は有効だといっても、口約束は「言った」「言わない」の問題となり、裁判で証明することは難しいのが普通です。

 

しかし、本件では、「死んだらあげる」ということを百合子さんも菊子さんも聞いていたのですから、智さんは口頭での死因贈与の証明もできることとなります。

書面によらない贈与は、履行する前であれば解除可能

そうだとすると、ますます、百合子さんと菊子さんは自宅やマンションを智さんに取られてしまいそうです。

 

しかし法律上、書面によらない贈与は、履行する前であれば解除することができるとされています(民法550条)。

 

口頭による死因贈与は、この「書面によらない贈与」に当たります。

 

贈与の履行とは、贈与の対象である自宅やマンションを引き渡したり、移転登記手続をしたりすることです。

 

陽子さんが「死んだらあげる」ということなので、自宅やマンションの引き渡しや移転登記手続を陽子さんがしているはずもなく、百合子さんや菊子さんがするはずもありません。

 

そこで、百合子さんと菊子さんは、智さんが主張する死因贈与契約について立証されたとしても、民法550条により解除することにより、智さんに自宅やマンションを贈与する義務を免れることができます。

 

以上のことからすると、「口頭の遺言は無効だから、百合子さんと菊子さんは何もしなくても自宅とマンションを智さんに取られることはない」とする選択肢①は誤りとなります。

 

「口頭の贈与は有効だから、自宅とマンションを智さんに取られてしまう」とする選択肢②も誤りとなります。

 

「口頭の贈与は証明できれば有効だけれども、履行がなされていない場合は解除することが可能だから、百合子さんと菊子さんは口頭の贈与を解除することにより、自宅とマンションを智さんに取られることはない」とする選択肢③が正解となります。

 

口頭の贈与も有効だけれども、履行前だと自由に解除されてしまい弱い効力しか持ちません。贈与を受ける方は書面にしてもらうことが必要になります。

 

逆に、贈与する側は口頭の贈与が弱い効力しか持たないので、助かる場合もあるということになります。

 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

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