(※画像はイメージです/PIXTA)

2021年10月に行われた衆議院議員選挙において「1票の格差」が2.08倍だったことが「違憲」であるとして選挙の効力が争われた裁判で、本日(2023年1月25日)、最高裁判所が格差は「合憲」との判断を下しました。裁判所の判断がどのような枠組みに基づくものかということと、その問題点についてわかりやすく解説します。

論点2|国会が「合理的期間」内に格差是正のための相当な措置をとったか

ただし、不平等状態が発生しているとしても、それが「違憲」かどうかは別の問題です。

 

すなわち、人口はたえず移動するものなので、即、憲法違反としてしまうのは非現実的です。しかも、国会が不平等状態を是正するために区割りや選挙制度の改正を行うにも時間がかかります。

 

そこで、裁判所は「合理的期間論」というものを採用してきました。これは、裁判所が判決において「不平等状態が発生している」と指摘したにもかかわらず、それを是正する区割りの変更や選挙制度の改正等の努力を怠った場合に「違憲状態」に陥るというものです。

 

「合理的期間」がどのくらいの期間かは明示されていません。これは、「物理的な時間の経過」と、「国会がどれだけ不平等状態を解消するための努力を尽くしたか」の相関関係によって相対的に決まるということを意味すると考えられます。

 

最近では、最高裁は、2009年、2012年、2014年の衆議院議員選挙について、「違憲状態」と判断してきました。いずれも1票の格差が2倍を超えており、かつ、国会の不平等解消のための努力が不足しているという評価が下されたものです。

 

ただし、2016年に区割りにおける人口比を従来の「1人別枠方式」よりも厳格に反映させる「アダムズ方式」の導入が決まりました。しかし、「アダムズ方式」は国勢調査の結果を前提とします。したがって、「アダムズ方式」の適用が国勢調査(2020年)を経た後の2022年からとされたため、2021年の衆院選には間に合いませんでした。

 

今回、最高裁は、国会が不平等是正のために行った上述の取り組みを評価して、間に合わなかったことはやむを得ないものと判断し、「合憲」の判断を下したものです。

論点3|選挙の効力

今回は「論点2」の時点で合憲との判断がなされたので、自動的に選挙は有効ということになります。

 

ただし、一応触れておくと、もし「違憲状態」と判断された場合も、最高裁は一貫して選挙の効力を「有効」としてきました。

 

「事情判決の法理」というロジックを使い、無効にすると社会生活への影響等が大きく「公の利益に著しい生涯を生じる」ということで、「有効」と判断してきたのです(行政事件訴訟法31条1項参照)。なお、この「事情判決の法理」は実は法理論的にやや無理筋でややこしい問題を含むので、本記事では詳細には立ち入らないこととします。

残された問題

衆議院議員選挙の小選挙区制においては、「1選挙区から1人を選ぶ」という制度設計上、1票の価値の不平等が生じることは、程度の差こそあれ避けることが不可能です。都道府県単位で選挙区を設定している参議院議員選挙の場合はなおさらです。

 

なお、2022年12月に示された新たな衆議院の小選挙区の区割りでは、1票の格差は「1.999倍」となることが決まっています。2倍はかろうじて切っていますが、ほとんど2倍であることに変わりはありません。国会には、さらなる解消の努力が求められます。

 

また、特に、現行の小選挙区制には、施行当時から「死票」が多くなってしまうという指摘がなされています。これは、次点の候補者以下に投票した有権者の民意がないがしろになるリスクがあるということです。特に、当選者と次点候補者の票差が僅差であった場合は深刻です。

 

民意を適正に反映させる選挙制度の構築は、どの国においても重要な課題となっています。「1票の格差」の問題は、民意をどのように適正に国政へと反映するかということとも密接にかかわっています。

 

ともすると、一部の人の意向のみが国の政策に色濃く反映されてしまうリスク、本来多数派であるはずの人々の意図と無関係に政策が決定されてしまうリスクは常に存在します。

 

その意味で、私たちは、単に投票に行くだけではなく、現行の制度のあり方とメリット、問題点を十分に理解し、理想的な制度設計を考えていかなければなりません。

 

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