「15年間の積み立て投資でFIRE」は再現可能か
同書でとても気になったのは、著者が「過去15年の積み立て投資でFIREした」と述べている点です。『FIRE』とは「早期リタイア」を指す言葉です。もちろん、著者(厚切りジェイソンさん)は、冒頭で「投資には絶対はない」と断言していますし、「15年でFIREできる」とは述べていません。
問題は、15年間という投資期間は、インデックス投資や積み立て投資にとって十分な期間なのかどうかです。言い換えれば、15年間の資産運用における「成功」をもって、資産運用を他人に説けるのかどうかです。結論を先取りすれば、もっと長いデータでは「そうではない」ことを示しています。
思い出してください。過去の15年は、グローバルな金融緩和の最終局面です。金利低下や中銀による流動性の巨大な供給によって、資産価格は大きく上昇したと思われます(→これもデータで示せます[図表1])。
[図表2]は、過去150年を30年ごと、5つの期間に区切って、S&P500の「株価」のリターン(年率;物価調整後)を見たものです。すると、「過去30年の株価上昇率は、年率6%におよんでおり、異例に高いリターンだった」ことがわかります。
異例な株価上昇の背景は、バリュエーションの上昇によるものであり、言い換えれば、金利の低下によるものであることが示せます。
今後、金利低下の余地が限られるなら、著者の「投資には絶対はない」という言葉どおり、過去15年(あるいは過去30年)のような状況は再現されない可能性があります。
「NISAは成功。拡充しよう」は、グローバルな金融緩和の最終局面に大きな影響を受けているかもしれません。
過去30年の「平和」やグローバル化、そしてディスインフレが終わるならば、過去15年や30年のデータで語っても見るべき姿は見えてこない可能性があります。
誤解のないように強調すれば、筆者も「長期の右肩上がり」は続くと考えています。
しかし、後述のとおり、「長期の右肩上がり」が信じられないほど、あるいは、資産運用を続けるのをあきらめそうになるほど、資産市場の低迷が続く場合もあります。
われわれは現実を直視して、そこから解決策を考える必要があります。
<<【画像】30年間、毎月1ドルずつ積み立て投資をした場合のシミュレーション>>
重見 吉徳
フィデリティ・インスティテュート
首席研究員/マクロストラテジスト
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