確定給付型の退職金から確定拠出年金へ
さらに、定年後の生活のやりくりのために、今後の潮流としてますます個人の自助努力が求められるようになることは避けられない。
先ほどの退職給付制度の内訳をみると、退職一時金の給付、確定給付企業年金など将来の給付を約束する形での企業年金が縮減されているなか、確定拠出年金は現在もなお普及が進んでいるところである。
確定給付企業年金と確定拠出型の給付ではその役割は大きく異なる。前者では将来の退職時の給付が企業の責任となる一方、後者では企業はその時々に拠出金の拠出さえ行えばよく、その後の運用は従業員の責任となる。
また、社員が転職した場合も確定給付型の退職金であればその都度精算され勤続年数に応じた積算が解消してしまうが、確定拠出年金であれば退職後もその額を引き継げることから一つの会社での長期雇用のインセンティブが発生しない。
確定拠出年金制度は近年大きな改正が行われている。個人型確定拠出年金(通称iDeCo)の加入者範囲の拡大や、税制上の優遇措置の拡大など、制度面の拡充が急速に進んでいる。企業が退職金制度を設けていない場合や、自営業者などの場合でも、個人型の確定拠出年金によって将来の給付の受け取りが可能だ。
政府としても厳しい財政事情のなか、公的年金に頼るよりも、個々人に自身の責任のもとで将来の年金を確保してもらう方向に軸足を移しているのである。
政府としては、税制上の優遇措置を設けることによる税収減の犠牲を払ってでも、老後の生活を自身の力で賄ってほしいということに力点を置いているということなのだろう。逆に言えば、これらの制度はそれだけ利用者にとってもメリットが大きいものになっている。こうした選択肢のなかで個々人が老後の生活に必要な費用を自身で考え積み立てていくことが必要な時代になってきているということである。
坂本 貴志
リクルートワークス研究所
研究員・アナリスト