ブータン先住民の収入源「冬虫夏草ビジネス」とは
ホームステイに関連するポーター(荷役労働者)とポニーのビジネスは、先住民であるラヤの人々の主な収入源の一つとなっている。
以前、この村では主に冬虫夏草※ビジネスが盛んに行われていたが、その信頼性の低さや気候パターンの変化により生産活動が妨げられたことで、人々は現在のビジネスに重点を移すようになった。
※冬虫夏草:キノコが昆虫の幼虫に寄生し体内に菌糸の集合体である菌核を作り、昆虫の頭部や間接部などから棒状の子実体を形成したもの。古くから「不老不死」、「強精」や「美容」に効果があるとされ、秦の始皇帝や楊貴妃などにも重用されてきた。
しかし、ラヤの先住民であるラヤグップ・ツェワン氏は「現状も、人々は冬虫夏草の採集でより多くの収入を得ているので、冬虫夏草ビジネスはまだ存続していると言える」と述べた。「だがほとんどの村人は、冬虫夏草の採集は以前より激減したと言っている」と付け加えた。
窮地で考えられた新たなビジネス
気候の変化により、冬虫夏草の収穫量が年々減少しているため、特にこの季節の高地でのビジネスに大きく支障が出ているという。気候変動によって、高地では予測できない雨や雪が降り、鉄砲水、地滑り、土壌侵食などの自然災害が近年頻繁に起こるようになったのだ。
ラヤの先住民たちは、従来の冬虫夏草ビジネスの他に、お香の収集、先述したポータービジネス、ホームステイ、ヤク製品(ヤク:ウシ科ウシ属の家畜)の販売といったビジネスアイデアを考え出した。ラヤは国内でも有数の観光地として知られ、村人たちは国内外からの観光客を受け入れており、地域経済の活性化に貢献している。
現在、特にポーターとポニー関連のサービスが先住民らの主な収入源である一方、ホームステイビジネスを行うための励みとして観光客の受け入れを行なっており、彼らの生活と収入の向上に貢献している。ラヤグップ氏は、「地元の人々はホームステイを通して国際的価値感や社会性を身につけ、さらに収入を得ることができ、若者たちが村に戻るきっかけにもなっている」と付け加えた。
冬虫夏草で得た利益
また、ポーターとホームステイのオーナーの一人であるツェリン氏は、ポータービジネスは長期的には自立した良いビジネスであると信じている。
「ポータービジネスには多くの努力と作業が必要だが、それでも見返りは大きい」と彼は言い、また現在、冬虫夏草の採集で得られる収入は1年で15万〜20万ニュルタム(ニュルタム:ブータンの通貨。約23万8,082円〜31万7,442円)で、数十年前はもっと大きな見返りがあったと付け加えた。
さらに、冬虫夏草の採集期間はわずか1ヵ月であり、1年間に採集できるのは各家庭から3名だけという決まりがあるのだという。
同様に、ラヤ唯一の学校で校長を務めるケンドラプラ氏は、「冬虫夏草ビジネスで得た利益は一般市民に直接還元されないため、予測不可能なビジネスである」と考えている。また、冬虫夏草の販売で得た利益はすべて販売店に還元されるため、地元の人々は販売プロセスについてあまり知らないのだと言う。
「気候変動と世界的な気温上昇のため、人々は十分な利益を得ることができなくなっている。昔は400個もの冬虫夏草を集めていたのに、今では1年に100個も集められない」とケンドラプラ校長は付け加えた。
村の人々がホームステイやポータービジネスを始めたのは、遠隔地の村を訪れる人が増えたためだ。ラヤグップ氏は、「ラヤの人々はこれを収入を得る機会としてとらえ、自分たちの活動を維持し、さらに世界中の人々との繋がりも得たのだ」と語った。