(※写真はイメージです/PIXTA)

海外名門大学への留学・進学に詳しい小泉涼輔氏(株式会社U-LABO 代表取締役社長)が、米国留学の最新事情を解説します。2022年はコロナ禍の落ち込みから一気に留学生が増えましたが…。

物価上昇が止まらないアメリカ…日本人留学生の現状は

2022年5月、アメリカでは40年5ヵ月ぶりに消費者物価指数が8.6%上昇しました。数値だけ見ると一見わかりにくいですが、たとえば2021年4月から2022年の4月までの1年間で、卵は22%以上、航空券に至っては37.8%の価格上昇を記録。アメリカでの生活コストはこの1年で大幅に上がりました。それに加えて急速な円安が進み(2021年初頭で1ドル104円程度、2022年12月現在1ドル132円)、日本人にとってアメリカでの生活がさらにハードルの高いものになってしまいました。

 

こうした背景から、もともとはアメリカ大学への留学を希望していた学生が、留学をやめて日本の大学に進学するケースも増えてきました。また、学費が安価なヨーロッパや、学生ビザで就労が可能なカナダ、オーストラリアの大学を希望する学生も年々増えている印象です。

 

※ソース:Trading economics-US Inflation Rate

ただし、アメリカの留学費用を「大幅節約」する方法も

留学費用がこれほどまで高くなっていても、アメリカ留学、特に正規留学は根強い人気を誇ります。中には、この金額までしか出せないが、どうにか予算内でアメリカの大学に留学する方法はないか?という問い合わせをいただくこともあります。

 

もともとの費用が高いのは事実ですが、実は、アメリカは工夫次第で大幅に費用を抑えられる国でもあります。ここでは、アメリカの正規留学に焦点を当て、どのような節約方法があるのかについて見ていきましょう。

 

【私立大学における「返済不要の奨学金」を狙う】

2022年9月、プリンストン大学が年収10万ドル以下の家庭に対して、学費や寮費を免除することを発表しました。このようにアメリカには、卒業生の寄付金等を原資に返済不要の奨学金(スカラーシップ)を授与している私立大学が数多くあり、留学生にも獲得権があります。

 

返済不要の奨学金というと、何か特別なことを成し遂げた学生だけに出るもの、というイメージが強いかと思いますが、このような奨学金は「メリットベース」と呼ばれています。

 

実は留学生が目指しやすいのが、「ニードベース」と呼ばれる奨学金です。これは、たとえば大学の学費・寮費が年間600万円で、払える教育費用が200万の場合、差額の400万円を大学側が支給(減額)してくれるというもの。一見世帯収入が高い家庭で、日本では奨学金の対象にならないような場合でも、複数の子供に係る学費や、老後積立・住宅ローンなど、さまざまな出費を考慮に入れてくれるため、奨学金の必要性を主張できるのです。

 

この制度を利用して出願し、無事に全額が支給されれば、予算内で進学することが可能になります。また、メリットベースや日本国内の奨学金との併願が可能な場合も多いので、ダブルで受給できれば大幅に費用を抑えられます。都内の大学に進学して1人暮らしをする場合のコストより安価に抑えることも夢ではありません。

 

「ニードベース」は実は私立大学であれば、ほとんどの大学が受け付けています(年度にもよります)。出願方法が難しいためあまり日本人には知られていない制度ですが、大幅に費用を抑えられる可能性が高く、まず選択肢に入れたい方法です。

 

※ニードベースについてイメージを理解するのには、ハーバード大学のNet Price Calculator(https://college.harvard.edu/financial-aid/net-price-calculator)が最もわかりやすいです。こちらは諸条件を入れるとハーバードにおけるニードベース奨学金の目安額を算出してくれるもので、たとえば居住地域をアジア、3人家族、年収1,000万円($75,000)と入れると、なんと奨学金額が約1,065万円($80,713)、必要コストは約50万円($3,500)と算出されます。

 

【州立大学における「州外料金の免除」を狙う】

州立大学は州民のための大学なので、基本的には留学生に対してほとんど奨学金を支給していません。一方で、「州外料金の免除」という方法であれば、留学生でも目指せます。

 

州外料金とは、州民ではない学生に対して課される料金で、州民料金よりも数百万円単位で学費が高くなっています。一部の州や州立大学では、一定の条件を満たすことでこの州外料金を免除してくれることがあります。私立大学の奨学金に比べると受入枠は少ないですが、州民料金であれば日本の大学の学費程度に抑えられる大学もあり、大きな費用節約になります。

 

【もともと学費が格安な大学を選ぶ】

アメリカでは「大学のレベルが高ければ高いほど学費が高額になる」と言われている通り、いわゆる名門大学と言われるような大学には、もともと学費が安価な大学は存在しません。ただ、アメリカには4,000を超える大学がありますので、比較的良い教育を提供していて、1万5,000ドル前後で通える大学も中にはあります。大学の知名度は重視しない、という学生であれば、こういった大学を狙うのも1つの手です。

 

【コミュニティカレッジからの編入を利用する】

コミュニティカレッジと呼ばれるアメリカの2年制大学は、学費が非常に安価に設定されており、1万ドル程度で通えます。コミュニティカレッジに2年間通い、3年次に4年制大学へ編入することで、学費を大幅に抑えることが可能です。また、アメリカの大学は単位制ですので、学費の安価なコミュニティカレッジで単位を多く取得しておき、編入後に取る単位を減らすことでさらに費用を節約することもできます。

 

【物価の安い地域で生活費を抑える】

アメリカの中でも物価が安く、大学も集まっているのが、中西部です。たとえば2022年で最も生活費が高かったのはマサチューセッツ州ボストンで、年間約$36,400でした。対して中西部に位置するミズーリ州ジェファーソンシティでは年間約$21,100と、1万5,000ドルもの開きがあります。アメリカ中西部の大学で寮生活などをすれば、かなりの費用を抑えることができるでしょう。

 

※ソース:Best State Capitals to Live In – 2022 Edition(https://smartasset.com/data-studies/best-state-capitals-to-live-in-2022)

 

このほかに「学内アルバイトをする」という節約方法もあります。学生ビザでの就労は認められていませんが、学内アルバイトであれば留学生でも週20時間まで行うことができるのです。ただ、給料が高くないこと、アメリカの大学生は学業が忙しくバイトに時間を割くのが大変であることなどから、あまりおすすめはできません。

まとめ

コロナ禍の落ち込みから一気に留学生が増えた2022年ですが、同時に物価上昇や円安でアメリカ正規留学へのハードルが高くなってしまった年でもあります。しかしながらアメリカは、返済不要の奨学金や住む地域などにより、大きく費用を節約することができる国です。人生を大きく変える選択肢である留学。費用が高いから…とすぐに諦めてしまうのではなく、いろいろな選択肢を模索してみてくださいね。

 

 

小泉 涼輔

株式会社U-LABO 代表取締役社長

UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)卒業。世界4大会計事務所の1つであるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)入社後、国際税務業務に従事。日本の多国籍企業へのコンサルティング経験を通じて、将来のグローバル人材育成の重要性を痛感し、U-LABOとして世界トップ大学への進学・留学サポートを開始。日本で最もアメリカ名門大学への編入に精通した専門家の1人として、これまでに多くの学生を合格に導いており、2022年にはUCLAが選ぶグローバルに影響を与える事業100(「UCLA Bruin Business 100」)に選出されている。

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