(※写真はイメージです/PIXTA)

日本では、給与所得等の最高税率は45%で、高額所得者は地方税を加えると所得の半分以上が税金になるケースも。一方の土地や株式の売却益ですが、税金は地方税を併せても所得の20%強…。この不公平を是正するため、国は年間の所得が30億円を超える超富裕層への課税を検討しています。しかし、目論見通りに運ぶとは思えません。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

本来は、売却益も給与等と合算して累進課税すべき

税率の逆転を解消したいのであれば、株や土地の売却益を給与所得等と同様に累進課税とするべきでしょう。給与所得と売却益が両方ある場合には、合算した所得に対して課税するわけです。

 

もっとも、庶民の投資を阻害しないような配慮が必要です。政府は「貯蓄から投資へ」「貯蓄から資産形成へ」という掛け声で庶民に対して株式投資等を呼びかけているわけですが、投資の利益が総合課税の対象となると、庶民の投資意欲が失われかねません。

 

庶民にとっては「儲かったら税率が高くなる」というのも問題ではありますが、「少額でも売却益を稼いだら、確定申告が必要になって面倒だ」というほうが、実際には大きな問題でしょう。

 

これを避けるには、NISAの枠を大幅に拡大すればいいと思います。いっそのこと、〈上級庶民〉も含めて株式投資残高1億円までは売却益を非課税にする、といったことでいいのではないでしょうか。

 

「売却益が1億円を超えたら総合課税すべき」という考え方もありますが、これは賛成しかねます。だれの売却益が1億円を超えたのか、把握が大変だからです。資産家たちは、多くの証券会社に口座を開設して各社で少額の売却益を稼ぐようになるでしょうから。

 

「売却益に課税すると、起業家が莫大な利益を得たときに高額の税を課されるので、人々が起業する意欲を失ってしまう」と心配する人もいるでしょうが、起業家に「株式を公開して何十億円も稼いだら、半分を税金で持っていかれるよ」と囁いても、気にしないでしょう。半分残れば十分ですから(笑)。

「金持ちの定義」が、一層大きな問題に…

所得による税率の逆転も問題ですが、筆者がそれ以上に問題だと考えているのは、「金持ちから税金を取ろう」という場合の金持ちの定義です。日本では、高額所得者から税を取ることに熱心である一方で、資産家から税を取ることにはあまり熱心ではないようです。

 

税だけではありません。「国民全員に10万円を配ろう」というときにも、「高額所得者は除外すべきだ」と主張する人は大勢いましたが、「資産家は除外すべきだ」と主張した人は稀だったでしょう。

 

何億円も資産を持ちながら、年金生活をしている高齢者は、所得税や住民税を支払っていない例も少なくないようです。そうした人々は、税金を支払っていないのみならず、住民税非課税世帯に対する種々の恩恵も享受しているのでしょう。

 

こうした問題に対しては、資産額に応じた課税をすべきだと考えています。問題は、税務署が各人の所得は把握できても資産額が把握できていない、ということにありそうです。

 

銀行預金等々をマイナンバーで名寄せし、不動産の登記名義人をマイナンバーで名寄せすれば容易に各人の資産額が把握できると思うのですが、それがおこなわれていないのは残念なことです。

 

さらに言えば、役所相互で情報の共有が不十分であることによって行政が非効率になっているという問題もあります。

 

たとえば、死亡届が提出されたらただちに全国の戸籍情報を検索し、だれが推定相続人であるかを把握し、全国の不動産登記を検索して死亡者名義の不動産について推定相続人に相続登記を促すと同時に相続財産の一覧表を税務署が作成できるようなシステムを構築すべきでしょう。

 

それにより、行政が効率化するのみならず、相続人の負担も大幅に減ることになります。それは、相続税を脱税していないすべての国民の利益になると思うのですが。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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