「コロナ慣れ」で、景気は緩やかに回復中
景気は、人々が新型コロナに慣れたことで、緩やかに回復しつつあるようです。新型コロナ自体が弱毒化していることもありますが、人々が「未知の怪獣を過度に恐れていた状況」から次第に正常化しつつある、という面が大きいと思います。
新型コロナよりも「マスク警察」を恐れてマスクをしている人は多いですが、飲み会や旅行等については、他人の目を恐れて遠慮する人はだいぶ減ってきたようです。海外の景気が冴えないこともあって輸出は冴えませんし、電気料金等の値上げで消費者の財布が心細くなっていることから、個人消費も活発とは言い難いですが、いままでいちばん困っていた飲食や旅行関連が息を吹き返したことは朗報といえるでしょう。
しかし、2023年に関しては、米中の景気後退の影響で日本の景気も後退を免れないでしょう。米国に関しては、落ち込みは軽微でしょうが、世界経済に与える影響は大きそうですし、中国は経済が失速する可能性もあるので要注目です。
国内には、景気を動かすような要因が見当たりません。新型コロナが変異して致死率が上がるようなことがあれば別ですが、そうでなければ人々のコロナ慣れは続くでしょうから、新型コロナが景気を悪化させる可能性は小さいでしょう。
それ以外の要因は、特段見当たりません。バブル崩壊後の長期低迷期を振り返っても、当初は金融危機等がありましたが、その後の20年は「山低ければ谷浅し」ということで、国内要因で景気が変動したことはほとんどなかったわけです。したがって、今年も海外要因に注目しておけばよさそうです。
米国、金融引き締めにより景気後退へ
米国は、日本とは比べものにならないほどインフレになっていて、中央銀行であるFRBは金融引締めによるインフレ抑制を目指しています。景気をわざと悪くしてインフレを抑えよう、というわけですから、景気が悪くなるのは仕方ないですね。もっとも、資源価格等も落ち着きを見せはじめているので、景気が猛烈に悪くなるほどの強い引締めは見込まれず、米国景気は軽微な後退に止まるでしょう。
問題は、米国の通貨である米ドルが世界中の取引で使用されていることです。米国の金融政策は、米国の景気とインフレの関係を最適にするように決定されるわけですが、その決定により、世界中の途上国が高金利に悩まされることになりかねないのです。
高金利だけでなく、返済要請も増えるかもしれません。外貨が不足している途上国がドルを返済しようとすると、ドルを買う必要があるのでドル高になり、輸入インフレに苦しむことにもなりかねません。ドル高になると日本からの輸入も減るでしょう。したがって、今年は途上国の経済にも要注意ですね。
中国経済は失速する可能性
中国経済は、不動産バブル崩壊、新型コロナ、国進民退、米中冷戦により失速する可能性があります。
中国の不動産バブル崩壊の可能性は10年以上前から指摘されていましたが、現実のものとなりつつあります。中国政府はバブル崩壊が金融危機をもたらさないように必死で守るでしょうから、金融危機は回避されるとしても、中国の主要産業である住宅建設が止まってしまうことの影響は大きいはずです。
新型コロナに関しては、厳しい都市封鎖などが解かれたことで経済が回るという考え方もありますが、免疫を持たない中国人が自由に行動することで感染が爆発的に広がって経済が混乱するという可能性も決して小さくないはずです。
習近平首席は、国家による経済統制を強めようとしているようですから、国営企業が栄えて民間企業が衰えることになるでしょう。これにより、中国経済の活力が大いに削がれるとすれば、「共同富裕」を目指して「等しく貧しい国」になる可能性も否定できません。経済統制が外国企業にも及ぶ可能性を考えると、海外からの投資で発展してきた流れが逆流する可能性もありそうです。
米中の冷戦も激化しそうです。習近平首席は台湾統一を公言するなど「戦狼外交」を繰り広げており、米国はそれに反発しています。米国は中国の台頭を防ぐために中国向けの重要物資の輸出を禁止する等の政策を採りつつあり、それが中国経済に大きな足枷となる可能性もあります。
米中冷戦が激化すれば、日本企業も「中国と取引するなら米国とは取引させない」といわれる可能性があります。そうなると、「いちばん安い所から調達する」という国際分業の流れが逆流し、高くても中国以外から買うという動きが増えるかもしれません。これも景気にはマイナスですね。
中国の輸入規模が巨大なので、中国経済が失速すると、世界中の輸出企業に大きな影響が出るでしょう。日本も、中国向け輸出は巨額なので、中国経済が失速すると大きな影響を被るはずです。
もっとも、中国経済の失速は悪いことばかりではありません。中国は莫大な資源エネルギーを輸入しているので、中国経済が失速して資源エネルギーの輸入が減れば、世界的なインフレが抑制され、米国の金融引き締めが緩む可能性があるからです。
日本企業としては、中国と取引することがリスクになりかねない、ということを考えて投資や貿易等に関する企業戦略を練る必要があるかもしれません。その結果、中国との取引を減らすという企業行動が、日本国内で作るという動きにつながれば、日本国内の投資や生産が増えるかもしれません。
長期的には中国経済が疲弊して、米ソ冷戦が平和的に終結したように米中冷戦も平和的に終結して、再び国際分業の流れが活発化する可能性もありますが、そのあたりは筆者が不得意な国際政治の話になるので、論じないことにしましょう。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家