労働はコストではなく価値の源泉
Q:多くの企業経営者からは、今更国内生産体制の構築は困難である。人が集まらない、技術者がいない、との嘆きが聞こえる。
武者:一旦失われた生産体制の再構築は困難だが、それをやりきることが勝敗を分かつ。そのためには労働政策を根底から見直さなければならない。
円高デフレ下での企業の労働政策は、コストの抑制にあった。円が2倍になったことで、日本人労働者の賃金を半分に引き下げないと競争できなくなり、賞与・残業代カット、工場の海外移転を推し進めた。
図表5は企業における1人当たりの物的生産性、付加価値生産性、労働報酬の推移であるが、日本企業は世界的技術発展の恩恵を受け、物的生産性をそれなりに上昇させてきた。にもかかわらず、円高とデフレによる販売価格低下により、企業には生産性上昇の果実が残らず、付加価値生産性は横ばいであった。
しかし労働報酬をそれ以上に抑制し、それによって企業利益が確保された、という連鎖が起きた。日本の実質賃金が過去30年間まったく上昇せず、デフレに陥ったが(図表6)、その起点は、円高下での企業の価格競争力維持の努力にあったといえる。
しかしこれからは労働が価値の源泉であるという認識の転換が必要である。高い賃金を払ってでもいい人を採用し、モチベーションを高めて競争力のあるチームを作らなければならない。労働はコストという認識から労働は価値の源泉という認識へと、発想の大転換が必要である。
保守的な財務戦略から「自社株買い」への転換が必要
Q:企業の財務資本政策も大転換が必要だ、その柱が自社株買いによる高株価経営だとも主張している。
武者:バブル崩壊以降、日本企業は保守的財務戦略に徹してきた。借金を減らし、利益の社外流出を抑えて自己資本を厚くし、ひとたび危機が起きたときに備えるため財務クッションを著しく高めてきた。
図表7は日米欧の上場企業のDebt to Equity レシオであるが、日本企業の極端な保守性が際立つ。このデレバレッジの財務戦略は、資本効率を無視し安全性のみにこだわったバランスを欠いたものになっている。
いまや低レバレッジ経営は株価低迷をもたらし買収されやすくなる一方、他企業の買収や新規分野への投資などの将来に対する布石を縛ることで、負けパターンの企業戦略といえる。
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