譲渡担保権と「受戻権」の関係性
一方でAさんは、Cさんに対して貸金を返還するので自宅不動産の名義を戻すよう求めることができます。これを「受戻権」といいます。弁護士と話し合ったAさんは、Cさんに対して受戻権を行使し、自宅不動産の名義を自分に戻す請求をすることにしました。
ここで本件では、訴訟(裁判)ではなく民事調停によって解決することを選択しました。訴訟とは、裁判所で裁判官が判断し、判決には強制力があるものです。一方で調停とは、裁判所で調停委員のアドバイスを基に当事者同士が話し合って解決するものです。今回は、調停委員のなかに不動産鑑定士もいるので、調停のほうが自宅不動産の適正価格を見据えた話し合いができると考えました。
その結果、Cさんから借りた2,000万円と、これに対する年15%の利息(3年分900万円で利息制限法の上限)、解決金名目で100万円を上乗せし、3,000万円にてBさんが住宅ローンを組んで購入することとなりました。この提案にCさんからは特に反論はありませんでした。Cさんが反論しなかった理由として考えられるのは、貸金業者としての登録を受けていなかったため深掘りされるのを避けたということです。
さて、実際は貸金担保の意味で不動産売買を行うことは昔からあり、その際双方が自身に都合良く解釈することがあるためトラブルも多発しています。今回の事例で説明すると、担保に取ったCさんは清算金を支払わなければ自宅不動産の所有権を取得したことにはならず、Aさんに退去を求めることもできません。ただし、不動産の価値が貸金額よりも低ければ清算金の支払いは必要ありませんが、CさんはAさんに所有権を取得していることを通知する必要があります。
このようにCさんが、貸金の弁済金のあとに清算金の支払いまたは支払いが必要ない旨の通知をして所有権を取得することを譲渡担保権の「実行」といいます。
一方でAさんは、この「実行」があるまでは受戻権を行使して自宅不動産の名義を自身へ戻すよう請求することができます。ここで、それはいつまでできるのかが問題になります。これについては、Cさんが担保不動産によってどのように返済を受ける予定であったかで判断されます。
考えられるのは2パターンです。(1)Cさんが自宅不動産の所有権を取得することで返済を受けたことにする予定だった、(2)Cさんが自宅不動産の所有権を第三者に売却することで売却金をもって返済を受ける予定だった。
(1)のときはCさんが清算金を支払うまで、または第三者へ売却するまで、(2)のときは第三者へ売却するまでが受戻権行使の期限となります。なお、貸金担保の契約に関しては、利息制限法、貸金業法、出資法などの規制があるので、これらについても注意が必要です。
鈴木 洋平
LTRコンサルティングパートナーズ
理事