(※写真はイメージです/PIXTA)

不動産業者がせっかく優良な不動産物件を扱えても、その物件にまつわる複雑な法律トラブルがあると、物件が適正価格で売れず、依頼者の希望に添えないことがあります。そこで、せっかくのビジネスチャンスを失わないため有効なのが、法律の専門家である弁護士との「協業」です。本連載では、弁護士として不動産関係の数々の法律問題を解決してきた実績をもつ鈴木洋平氏が、不動産業者と弁護士の協業について事例を交え解説します。

D社が競売を選択した場合に起こり得るケース

不動産について合理的な売却価格を前提に任意売却の提案をしているのに、これに応じない担保権者は少なくありません。相手が金融機関ならばそのようなことはほとんどありませんが、一般的な法人などの場合は比較的多いように思います。

 

今回のD社がまさにそうでした。D社としてはこの際、抵当権消滅請求に対抗するためには自ら競売を申し立てるという手段がありました。

 

しかし、競売となると価格が2500万円以下になる可能性が高く、無剰余取消し、つまり、後順位抵当権者が競売手続きをしても、買受可能価格がC社(一番抵当権者)への弁済と競売費用を支払うのに満たない場合は、裁判所は申し立てを却下してしまいます。

 

ちなみに競売の買受可能価格というのは、入札できる最低ラインの価格です。これは売却基準価額の8割とされています。また、売却基準価額は、裁判所の評価人(不動産鑑定士)が算定した価格の7割とされています。つまり、競売の買受可能価格は市場価格の56%程度となり、本件の場合は自宅マンションの市場価格が3,000万円でしたから1680万円ということになります。

 

一方でC社の担保権は2500万円。これでは無剰余取消しになる可能性が高いといえます。さらにD社が競売をするためには裁判所への費用として約100万円を用意する必要があったため、赤字のリスクを考えると競売の申し立てはできなかったのだと考えられます。

 

なお、同じ競売取消しでも無剰余取消しではなく開札されたが落札者が誰もいなかった場合は、抵当権消滅請求は認められません。

 

抵当権消滅請求は、以前は「滌除」(てきじょ)という制度で悪法といわれていました。漫画『ナニワ金融道78発目』『これがプロの金融屋のやり方や!!』では、抵当権者であるアカ信ファイナンスの社長が滌除をした帝国金融に対し「金融のプロが仕掛けてきた法律の悪用やねん」と発言しています。

 

しかしながら、滌除が悪法といわれていた理由は、増加競売(落札者がいなければ競売申立人が1割増しで購入しなければならずその購入資金が必要な競売)をしなければならなかったからです。増加競売が廃止された現在は、悪法とはいえず所有者としての正当な権利の行使といえます。

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不動産業者のための 弁護士との「協業」のすすめ

不動産業者のための 弁護士との「協業」のすすめ

鈴木 洋平

幻冬舎

相続、担保、借地・借家…… 不動産業者が直面する法律問題は弁護士との「協業」で解決! 不動産取引を成功に導く「協業」のポイントを 8つの成功ストーリーで徹底解説。 不動産業者必読の一冊! 「仕事になりそうな…

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