近年、国内外でたびたび報道されているセクハラ問題。一般企業にとっても、セクハラの発生は由々しき問題であり、経営者や管理職は日々神経をとがらせています。ここでは、セクハラの定義と具体的な留意点について、企業法務を多く取り扱う、山村法律事務所の寺田健郎弁護士が解説します。

「どこからがセクハラ?」管理職・上司としての対策

実際、セクハラ対策をしようにも、具体的に何がセクハラに当たるのか、イメージがつかない方もいるかもしれません。

 

管理職や上司の立場にいる方々に対しての発信ですので、以下は、個人としてセクハラの対策・防止のためにはなにに気を付ければいいのか、という点について、みていきたいと思います。

 

筆者が度々受ける質問として「何でもかんでもセクハラといわれてしまうと、職場恋愛もできないじゃないか」「どこまでが自由恋愛、職場恋愛で、なにをすればセクハラになるのか、その境界線はどこなのか」というものがあります。

 

答えからいってしまうと、明確な答えはないので申し訳ないのですが、これについては本当にケースバイケースで判断は難しいのです。

 

しかし、一定の基準として、セクハラとされないために少なくともこれは気をつけてほしい、という最低限のラインが4つありますので、こちらを参考になさっていただければと思います。

 

◆身体的な接触は絶対NG

1つ目は「身体的な接触」です。身体的な接触は絶対にNGです。もちろん胸やお尻を触るということは当然ですが、手や腰、背中や髪といった、ありとあらゆる身体的接触は避けることが無難といえます。

 

やはりセクハラは男性から女性に対してのものが多いですが、男性の側は大した意味を持っていないとしても、女性の身体を触るということは基本的には何においてもダメ、という認識をしておくべきかと思います。

 

◆仕事に結びつけることはNG

2つ目は「仕事に結びつけること」です。これも絶対にNGです。

 

上述した解説した「対価型セクハラ」にもあった通り、「経営者が性的な関係を要求したが、断られたので解雇した」「上司の立場を利用して労働者の体を触ったが、抵抗されたため労働者に不利益な配置転換をした」など、要求を拒否されたために仕事に結び付いた不利益が生じさせた時点で、対価型セクハラに認定されることが多くなっています。

 

また、不利益とは逆に、その性的な関係を持ってくれたら昇給させる、昇格させる、といったことで、労働者に性的な関係を迫るのもNGとなっています。

 

◆慎重な振る舞いを心がける

3つ目は「慎重な振る舞い」です。簡単にいえば、相手の嫌がる素振りがみえたら、その行為はもうしてはいけない、ということです。

 

昔は「嫌よ嫌よも好きのうち」というような言葉も聞かれましたが、職場のセクハラにおいては、この主張は絶対に通用しません。相手に少しでも嫌がる素振りがあるようであれば、セクハラに該当している可能性があります。そのため、相手が嫌がる素振りをみせるような行為・言動を避けなければ、危機管理としてかなり危うい状況にあると考えてください。

 

◆業務と切り離して考える

4つ目は「業務と切り離す」ということです。

 

たとえば「職場から帰る方向が同じだから、一緒に駅まで歩いて帰ろう」「帰り道にある喫茶店でお茶しよう」といった流れ・誘い方はあるかもしれません。コロナ以降は減少傾向ですが、職場の飲み会でも、帰り道にもう少し話したい、と思うこともあるでしょう。

 

しかし、職場から一歩足を踏み出したがために、気持ちが緩んでいたり、酔っ払っていたりすると危険です。

 

きちんと休日に会う約束を取り付けていた場合などは職場恋愛だと認められますが、2人で一緒に帰った、一緒に喫茶店に寄った、などを論拠に「これはもう職場恋愛だ」という主張をするのは、なかなか難しいといえます。

「セクハラ上司」にならないため…弁護士からのアドバイス

弁護士は危機管理について扱う職業ですので、慎重な言葉・回答せざるを得ないことが多くあります。そのような「慎重な回答」をさせていただく立場から、少しアドバイスさせていただきます。

 

まず、自身が上司の立場に当たる時点で、相手方である部下には「逆らえない」という意識をはじめ、相当の負荷がかかっている、という点を自覚してください。

 

基本的に、上司に対して何かを断るということは、部下である以上しづらいものです。これは大前提ですし、法律もまた「部下だから簡単に逆らえなかった」というように判断します。

 

そのため、部下を持ち、その部下と親しくなりたいと考えている方は、自身を上司であると認識するのが、第一段階となります。

 

また、立場の差、年の差が大きい場合ほど、断りにくい関係であった、と認定されるケースは多くあります。たとえば2~3歳上の、少し仕事を教えてもらっている程度の先輩と、10~20歳上の、係長・課長・部長クラスの上司、どちらのほうが断りづらいか、逆らいにくいか、ということは容易に想像がつくかとは思います。

 

ほかにも、職務での関わり合いの程度が大きいほど、今後の職務のことを考えて断りづらい状況になる、と部下は考えますし、法律もそのように考えます。

 

そのため、これらの場合は、セクハラとして認定されやすいと認識しておくことが必要かと思います。

 

また、極端な話ではありますが、正当な職場恋愛、きちんとお付き合いをしているような関係であったとしても、その関係がこじれた、別れることになった場合、あとからセクハラだった、といわれることも、危機管理としてはあり得ます。

 

このような場合は、不運としか言いようがありませんが、上の立場、特に管理職の男性と、下の立場の女性が職場恋愛をするにはこういった事態を覚悟しなければならない、ということを、まず認識していただいたほうがよいかと思います。

 

恋愛とはいえ、やはり客観的な視線は不可欠であり、「セクハラにならないかどうか」という点からのリスクマネジメントを考えておかないと、万一の際に大変なことになる、ということは、弁護士の立場から申し上げておきたいと思います。

 

個人ではなく会社としてとるべき対策については、また機会を改めますが、こちらについては明確に厚生労働省によって、事業者がとるべき施策が告示されています。

 

また、男女雇用機会均等法11条でセクハラが起きてしまった場合、どのような対応をするべきなのか、事業者の義務も定められていますので、ぜひそちらもご参照ください。

 

 

寺田 健郎
山村法律事務所 弁護士

 

 

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