企業の積極的な自社株買い
2022年4~11月のTOPIX構成銘柄企業の自社株買い設定金額は前年同期比1.2倍の7.6兆円、設定件数は同1.2倍の約521件だった。2020年度はコロナ禍で手元資金を温存した企業が多く自社株買いは設定金額、件数ともに一旦落ち込んだが、その後は足元まで、企業の積極的な自社株買いの姿勢は継続している(図表1)。
自己株式の取得を行う理由は
自社株買いの設定時期には季節性があり、決算発表が集中する5月、11月、2月に設定が増える傾向がある。今回は主に中間決算の発表が集中した2022年10~11月の自社株買い設定企業について、設定理由と株価の反応を確認した。なお、2022年10~11月に限ると自社株買い設定金額は1.9兆円、件数は153件だった。
図表2は、自社株買いを設定した企業について、自己株式の取得を行う理由毎に企業数を集計した結果である。『株主還元』、『機動的な資本政策』、『資本効率の向上』を理由にあげている企業が多く、ほぼ同数であったことが分かる。上場企業の株主還元や資本効率の向上を意識した自社株買いの設定が継続している。
自社株買いは常に投資家から好感されるのか?
自社株買いの設定の発表は株価には一般的にプラスに働くと考えられている。実際に2019~2021年度は自社株買い設定直後の株価は対TOPIXで上昇した*1。2022年10~11月に決算発表に合わせて自社株買いの設定を発表したTOPIX構成銘柄企業118社(図表3①全体)についても、概ね株式市場で好感されている。特に発表翌営業日は平均で約2%も対TOPIXで上昇した。
ただ、自社株買いを設定した企業の中には足元の業績が振るわない企業もあった。そのような企業でも上昇したのであろうか。そこで、さらに当期利益が前年同期比で増加した企業と減少した企業に分け、それぞれの発表直後の株価を確認した。当期利益が対前年同期比で増加した企業は68社、減少した企業は50社だった。
当期利益が前年同期比で増加した企業(②自社株買い×当期利益増加)の株価は、設定日の翌営業日に平均して約3%上昇し、その後も累計3~5%台で推移した。その一方で当期利益が前年同期比で減少した企業(③自社株買い×当期利益減少)の株価は、設定日の翌営業日に平均して約0.8%上昇し、その後は累計0~2%台で推移した。
②自社株買い×当期利益増加の企業の株価は、③自社株買い×当期利益減少の企業の株価に対して平均して2~4%上回っており、足元の業績の好不調によって株価の上昇具合に差があることが確認できた。ただ、③自社株買い×当期利益減少の企業の株価でも設定日以降プラス圏を維持しており、底堅く推移していたことが確認できた。
*1:森下千鶴(2022年1月26日)基礎研レター『2021年4~12月の自社株買い動向~設定額はコロナ禍前の2019年の水準まで回復、アナウンスメント効果も引き続き有効』