DXとよく似た言葉としてCXがありますが、両者の違いがわからないという方も多いのではないでしょうか。どちらも企業の成長には欠かせないものですが、アプローチの方向性が違うため、両者はまったくの別物です。本記事では、DXとCXの違いについて解説し、DXを使ってCXを向上させるメリットやポイントを紹介します。
1. よく似た言葉”DX・CX・UX”の意味を整理しよう
DX・CX・UXは、推進することで企業の成長を促す重要な要素です。言葉が似ているため、意味を混同してしまっている方も多いのではないでしょうか。まずはそれぞれの意味を解説します。
1.1. DXとはデジタル改革
DXはデジタル・トランスフォーメーションの略で、一言で表すと「デジタル改革」になります。
IT化やデジタル化などと違い、デジタル技術やシステムを導入すること自体が目的ではない点に注意が必要です。
DXは、デジタル技術の活用によって新しい商品やサービスを生み出し、市場に新たな価値を創出することや、企業内の業務プロセスの改善を指す言葉です。
1.2. CXには2つの意味がある
CXには、「カスタマー・エクスペリエンス」と「コーポレート・トランスフォーメーション」の2つの意味が存在します。それぞれの意味について解説します。
CXの意味①:カスタマー・エクスペリエンス
カスタマー・エクスペリエンスとは、顧客体験を意味します。商品を購入する前に確認する説明書やWEBサイトの文言、購入後に行われるカスタマー対応など、顧客と企業のあらゆるタッチポイントにおいて顧客が体験することがCXです。
後述するUXと意味が似ていますが、CXは商品やサービスの利用体験のみではなく、より広い範囲の体験を指しているのがポイントとなっています。
CXの意味②:コーポレート・トランスフォーメーション
コーポレート・トランスフォーメーションは、「企業の変革」を意味します。DXと意味合いが似ていますが、DXはデジタル技術の活用によって市場に新しい価値を生み出すことを意味しています。対して、CXは企業自体を変革するという意味です。
具体的には、企業が持つ価値観や考え方を最適化し、組織改革を起こすことによって市場の変化に対応していくということになります。
1.3. UXとはユーザー体験
UXとはユーザー・エクスペリエンスの略で、ユーザー体験という意味です。商品やサービスを利用したことで得たユーザーの体験を指しています。
CXと意味が似ていますが、UXは商品やサービスの利用によって得た体験のみを指しています。購入前から購入後の体験までを指しているCXのなかにUXがあるというイメージです。
2. 特におさえたい!DXとCX(カスタマー・エクスペリエンス)の違いや関係性
CXには2種類の意味がありますが、そのなかでもカスタマー・エクスペリエンスとDXには深い関係性があります。両者の違いと関係について解説します。
2.1. DXとCXの違いは”手段と目的”の違い
DXとCXの違いは、「手段」と「目的」の違いです。
CX(顧客体験)を向上させるという「目的」のために、DX(デジタル技術の活用によって市場に新しい価値を創出)という「手段」があるのです。
DXはそれ自体が目的となってしまうと、デジタル化やIT化などのように、システムを導入することや生産性を向上させることがゴールとなってしまいます。
DXはCXを向上させるための「手段」として捉えることが重要です。
2.2. CXを向上させるためにDXを活用する
インターネットの普及が進んだ現代では、CXの向上にデジタル技術の活用が欠かせません。顧客体験を向上させるためにサービスのオンライン化を進めるなど、顧客のニーズに沿ったDX戦略を練ることが重要です。
DXとCXの推進を両立させることは、市場が活性化し、企業と顧客の両者にとって望ましい社会になるので、DXとCXは両輪となって機能すべきだといえます。
3. CXが求められるようになった背景とは?
CXが求められるようになった背景には、3つの理由が存在します。それぞれについて解説します。
3.1. 消費者にとっての価値観が変化してきた
消費者は元々、商品やサービスの性能や価格など「モノ」そのものの価値を基準に購入の意思決定を行ってきました。しかし、同じ価格帯で類似商品を展開する競合他社が増えた現代では、「モノ」そのものに大きな違いはありません。
現代の消費者は、「モノ」そのものの価値よりも、商品を手に入れるまでの過程を重要視し、「体験」の満足度で商品やサービスの購入可否を検討しています。
3.2. 顧客との関係性を維持することへの重要性が高まってきた
商品やサービスを購入する買い切り型のビジネスモデルであれば、1度きりの関係というのも珍しくありません。しかし、現代では購入よりも期間利用の需要が高まっており、動画や音楽などの期間利用型のサービスが注目されています。
これにより、商品やサービスを継続して利用してもらうために、顧客との関係性を維持することへの重要性が高まっています。
3.3. SNSの普及で個人の発言力が高まってきた
現代では、Twitter・Instagram・YouTubeなど、SNSを利用して情報を得ている人がほとんどです。
SNSで発信されている情報は、商品やサービスの購入のきっかけになるため、個人の発言力が高まっています。
よりよい商品やサービスを提供すれば、口コミとしてSNSで広がっていくので、CXを向上させるメリットは大いにあるといえます。
4. DXを使ってCXを向上させる具体的なメリット
DXを使ってCXを向上させることには主に2つのメリットが存在します。
4.1. 企業側のメリットはWEBを用いたサービスの向上
DXを推進する過程で、WEBサービスの向上が期待できます。近年では、インターネット上で商品を閲覧し、決済を行うECサイトの利用が普及しているので、WEBサービスの向上は企業にとって大きなメリットです。
具体的には、ECサイト上などでチャットツールを導入すれば、顧客の疑問を解消したり、ニーズに沿った個別の提案をしたりすることが可能です。これにより、顧客体験であるCXの向上が実現するだけでなく、顧客から選ばれる企業になり、利益の向上が見込めます。
4.2. 消費者側のメリットは消費体験の向上
企業側のメリットとして挙げた、WEBサービスの向上が実現することで、消費者側は消費体験の向上が期待できます。
オンライン上でも商品に対する疑問がすぐに解消されたり、欲しい商品を素早く見つけたりすることができれば、店舗に足を運ぶ必要がなくなります。商品を購入する際の労力を減らすことができるでしょう。
5. DXでCXを改善する3つのポイント
DXでCXを改善するために意識すべきポイントが3つあります。
ポイント①:ユーザーが求めているものを調査する
まずはユーザーが求めているものを調査するところから始まります。日常生活のなかで不満に感じている部分や不便だと感じているものを事前に調査し、デジタル技術を活用することで解決できそうな課題を見つける必要があります。
調査方法としては、不特定多数の人から意見を集めることができるWEBアンケートが最も効率的です。
ポイント②:調査に対して最適の手段を設定する
調査結果を基に、ユーザーニーズを解決するための商品やサービスなど、最適な手段を設定します。
価格以上の価値を感じてもらうことが重要なので、デジタル技術の活用方法を含めて検討しましょう。
WEBでの操作に困っているユーザーには、チャットボットを導入して、いつでも悩みごとを解決できる体制を整えるなど、有効的な手段は無数に存在します。
ポイント③:社内全体で一貫して取り組む
DXを使ってCXを向上させるためには、特定の部署だけの働きでは不十分です。この取り組みを会社全体の取り組みとして、社内で意思の統一を行い、全社的に取り組む姿勢が求められます。
企画や商品開発などの裏方から、顧客と直接関わりのあるカスタマー部門や店舗の販売スタッフまで、全社員に共通の認識を持たせる必要があります。
6. DXを使ってCXを向上させた6つの成功事例
自社でDXやCXを進めていくにあたって、すでに取り組みに成功している企業から学べるものは多いはずです。参考となる事例を6つ紹介します。
成功事例①:スターバックス
季節限定のフラペチーノなどが毎回話題になる大手コーヒーショップチェーンのスターバックスは、その人気ぶりから、レジの待ち時間の長さや店の混雑具合が課題として挙げられていました。
スターバックスは、顧客に実施したアンケートから得たマイナス意見に向き合うところから始めました。そして、課題を改善するための手段として導入されたのが、アプリ上で事前注文と決済を可能にする「Mobile Order&Pay」です。
これにより、レジに並ぶ手間が省けるだけでなく、お会計も不要になりました。注文した商品をすぐに受け取れるという、コーヒーショップとしての新しい価値の創出を実現させています。
成功事例②:ユニクロ
ユニクロでは、専用のアプリからオンライン上で商品を購入できるECサービスを提供しています。
しかし、ECサイトでの買い物は実際に商品を見たり、試着したりすることができないので、「サイズ感がわからない」「欲しい商品が見つからない」といった声も上がっていました。
ユニクロはこの要望に対応すべく、ECサイト上での買い物をアシストしてくれる専用チャットの「IQ」を導入します。
IQは商品選びの相談に乗るのはもちろん、配送方法や返品・交換など、購入後の困りごとにも対応しているので、顧客体験の向上に役立っています。
成功事例③:ZOZOTOWN
ZOZOTOWNは、ECサイトで買い物をする際に、異なるブランドでそれぞれの公式サイトにログインするという手間を解消すべく、1つのECサイトで複数のブランドの商品を購入できる仕組みを作りました。
また、コーディネートアプリである「WEAR」を導入しています。
WEARは、掲載されている商品の色・形・質感・柄などをAIが学習して、類似する商品をおすすめとして提案してくれる機能です。おすすめの商品を提案することで顧客が商品を探す手間を省き、CXの向上に成功しています。
成功事例④:東京ガス
東京ガスは、電気の自由化に伴って電力やガス会社の競争が激化しているなかで、WEBサイトの利便性という点に目をつけて、CXの向上に成功しています。
一般家庭向けWEBサイトである「myTOKYOGAS」に各種手続きをサポートするためのチャットボットを導入し、会員数を6倍以上まで伸ばしました。
チャットボットを導入することで、カスタマースタッフなどの負担も減り、企業側も大きな恩恵を受けているのがポイントです。
成功事例⑤:ニューバランス
スニーカーメーカーであるニューバランスは、「期間限定のアイテムをいち早く入手したい」「電車やバスでの移動中にも気軽に買い物を楽しみたい」といったユーザーの要望に応えるべく、「1ステップde注文完了サービス」を導入しました。
1ステップde注文完了サービスは、お届け先とクレジットカードの情報を事前に登録しておくことで、1クリックで注文が完了するというものです。
電車内などの公共の場所ではクレジットカードを出しづらいので、ユーザーの要望に応えたサービスだといえます。
成功事例⑥:ソニー損保
損害保険会社であるソニー損保は、CX向上を図るべく、CXデザイン部を創設して顧客との関係強化に努めています。
顧客からのアンケート結果を基に改善を実施した箇所は、顧客の要望や不満、改善の内容などを公開しているのもポイントです。
積雪による被害を受けた車両も損害保険適用対象である旨を顧客に周知するといった、一見損失となりそうなことでも、顧客からの信頼を得るという長期的な視点を持って取り組んでいます。顧客利益を優先する姿勢がCXの向上に繋がっています。
まとめ
DXとCXは、言葉の違いやアプローチの方向性に違いはありますが、どちらも企業の成長には欠かせない重要な要素です。
DXを行ってCXの向上を図れば、企業と消費者の双方に大きなメリットをもたらします。
DXでCXの向上を図る際は、本記事で紹介した3つのポイントや成功事例を参考にすることをおすすめします。