変化の激しい現代において、企業がDXを推進することは必要不可欠です。実際、多くの企業がDX導入に向けて動き出しています。しかし、思うようにDXを進められないと頭を抱えている企業は多く存在します。
そこで、DXが進まない企業の課題を7つ取り上げ、課題に対する解決策を8つ解説します。
1. DXが進まない日本企業が抱える7つの課題
日本企業のDX推進を阻む、主要な7つの課題について解説します。
課題1. DXの推進に寄与する人材の確保が難しい
日本では諸外国と比べて、DXの推進に寄与する人材が少なく、確保が難しいという現状があります。
2021年7月30日に総務省が出した「情報通信に関する現状報告」によると、DXを推進するうえでの課題として「人材不足」を挙げた比率が53.1%と、諸外国よりも高い結果となりました。
日本は少子高齢化により、労働人口の減少が社会問題化しています。DXにおいてもデジタル技術に精通している人材の確保、育成は大きな課題です。日本が既存社員で対応しようとしている一方で、アメリカは採用や関連会社からの異動や転籍でカバーすることが多く、人材流動性の高さにも違いがあります。
課題2. 経営戦略やビジョンの確立が不十分である
DXを単なる「既存業務のデジタル化」と考え、経営戦略やビジョンが明確でない企業が多いという現状があります。
DXは、企業全体をデジタル化して企業文化まで変革し、社会や顧客のニーズに合わせて新たな価値を創造していくものです。実現するには経営戦略やビジョンの明確化、事業構想の具体化が欠かせません。経営戦略やビジョンがなければ、DXに到達せず、ただのデジタル化で終わってしまいます。
DXを成功させるためには、企業がDXで何を実現したいのかという経営戦略やビジョンを明確にする必要があります。そのうえで、デジタルテクノロジーを企業の各業務に落とし込んでいく必要があります。
課題3. 既存システムからの脱却が難しい
既存システムを新しいシステムに置き換えられないという課題もあります。
経済産業省の調査によると、企業が予算として組み入れているIT関連費用のうち、80%は既存システムの維持管理として使われています。過剰な費用負担を強いられている原因は、既存システムの老朽化と複雑化、ブラックボックス化によるものです。大企業でも、老朽化したシステムを使い続けているところが多く見受けられます。
将来的なビジョンを描かず短期的な観点でシステムの開発や改修を続けた結果、保守や運用の費用が増大して企業の大きな負担となっているのです。
DX推進には既存システムへの無駄な費用投入をストップし、新しいシステムへの攻めの投資をしなければなりません。
課題4. 現行システムと並行した新規導入の難易度が高い
現行システムと並行して新しいシステムを導入することが困難だという課題があります。
DX推進により既存のシステムを変えていくことで、業務効率化が進み、生産性が向上するため、企業の発展にも繋がります。しかし、実際に現場で働く従業員は既存のシステムでの業務に慣れ親しんでいます。そのため、新しいシステムを導入して業務のサイクルを変えようとすると、不満が出る可能性があるのです。
システムの新規導入は経営陣だけの判断で決めるものではありません。現場に対し、なぜDXが必要なのか、業務がどのように変わるのかを共有し、理解してもらえるように働きかけなければなりません。
課題5. ベンダー企業への丸投げから起こるトラブル等
DXをベンダー企業に丸投げすることによるトラブル等も避けなければなりません。
日本の企業は、ITエンジニアの70%以上をベンダー企業に依存しており、DX推進のためのIT人材確保ができていないところが多いのです。少子高齢化が進むなかで就業人口も減り続けており、新人の採用は難しくなっています。変化の激しい時代において、ITテクノロジーの進化に対応できる人材確保と育成は必要不可欠です。
自社でIT人材の採用、育成ができない場合、ベンダー企業にシステム開発やDXに関する要件定義をすべて委託することになります。そのため、ベンダー企業との間でトラブルが起こりかねません。
課題6. 現状への危機感やDXの必要性の認識が低い
企業の危機感欠如や、DXの必要性に対する認識の低さも問題です。
業績が安定している状況である場合、変革しなければならないという危機感は覚えにくいものです。気付いたときはすでに業績不振で、変革する体力もないという状態があり得ます。
また、日本企業の95%はDXに取り組んでいない、もしくは取り組み始めたばかりです。DXの必要性の認識が低いといわざるを得ません。
現状に満足していると自社の存亡に関わるという危機感を持ち、DXを推進して効率と生産性を上げて企業を変革し、競争に勝ち抜くという認識に変えていく必要があります。
課題7. 保守的な企業風土の変革ができていない
保守的な企業風土がDXを妨げる可能性があります。
DXを推進できる企業と、そうでない企業の違いは「失敗を恐れない文化」があるかどうかです。失敗したとしても理由によっては許容される文化が定着している企業には「失敗を恐れない文化」があるといえます。
失敗を恐れて保守的になる企業と、失敗を恐れずチャレンジできる企業とで大きな差が開くのは当然といえます。失敗を恐れる保守的な企業風土を変えない限り、従業員が自らの意思で積極的にDXを推進することはできません。
2. DXの7つの課題の背景にある要因とは?
DXを推進していくうえで、なぜ上述の7つの課題が存在するのでしょうか。その要因について解説します。
要因1. 変革に対する共通認識の浸透が難しいため
DXは企業の変革を促すため、共通認識の浸透が難しいという点があります。
DXは部署を横断して組織全体を変えていかなければなりません。しかし、組織全体に同じ温度感で浸透させていくのは困難です。組織が大きくなると特に難しくなります。
DXを進めていくとスムーズにデジタルに移行できなかったり、生産性が一時的に低下したりする等、課題となることが増えていきます。
DXは組織全体で行う大規模な取り組みであるため、共通認識を浸透させづらいのです。
要因2. 変革には大きな負荷が伴うため
DXは企業にとって変革となるため、大きな負荷が伴います。
DXはただのデジタル化にとどまらず、既存のビジネスモデルを大きく転換するものです。
新システムやツールの導入によって、業務のやり方や意思決定のあり方を抜本的に変える等、企業全体に大きな負荷がかかります。
DXの重要性は理解できていても、大きな変化に対する負荷の大きさから、疑問や反対意見が出てしまい、スムーズに進められないという事態に陥ってしまうのです。
要因3. DXへの理解が乏しい・誤解があるため
DXへの理解が不十分であったり、DXが何なのかを誤解したりしていることが妨げになることもあります。
DX推進についてよくわかっていないまま社員に説明しようとすると、DXの本質が伝わらないため、思うように進められません。
結果として向かうべき本来の方向から外れたり、DX推進が止まってしまったりする事態も考えられます。DXに対するモチベーションが上がっていた社員も、企業の手詰まり感に嫌気がさし、やる気をなくすこともあり得ます。
要因4. 自社がDXに適していないという思い込みがあるため
DXが自社には関係ないと思い込んでいる場合もあります。
医療や介護等のような対面での仕事や、使える人材や予算が少ない中小企業の場合は特に、自社がDXに向いていないと思い込みがちです。
DX推進に成功している企業は日本国内ではまだ多くないため、イメージが湧かないのはやむをえません。しかし、DXに適していない会社であるというネガティブな思い込みが、DXを進めるうえで数多くの課題に直面し、課題を突破することを阻害する原因でもあるのです。
3. 今の日本は世界に取り残された「デジタル後進国」
海外では多くの企業がDX推進に成功しており、参考にしたい事例もたくさんあります。
しかし、日本の場合、海外と比べて大きく後れを取っているのが現状です。IMDが発表した「世界デジタル競争ランキング2020」は、政府・企業がデジタル技術をどれくらい積極的に活用しているのかを表しています。
日本は第27位と、デジタル後進国であることが浮き彫りになりました。アメリカが1位なのは当然ですが、シンガポールや韓国、中国等のアジア各国にも負けているのです。
日本がデジタル後進国である理由は、企業の経営戦略が曖昧であること、IT人材が不足していること、使い古されたシステムを使い続けていること等があります。
4. DXの課題を解決して市場で生き残るには?8つの解決策
ここまで紹介してきたDXの課題を解決し、変化の激しい市場で生き残っていくにはどうすればよいのでしょうか。8つの解決策を紹介します。
解決策1. 経営陣の意識を高める
なぜDXを進めなければならないのか、経営陣が率先して意識を高めるようにしましょう。
DXは企業を変革し、それまでになかった価値を創造していくものです。単純なデジタル化とは異なるので、DX推進には経営陣の中長期的な経営戦略とビジョンの共有が欠かせません。
経営陣はさらに、現場の社員にDXを理解させ、モチベーションを高める必要があります。
経営陣が先頭に立って、DXによって何をどう変えていくのか、現場に対してわかりやすく周知していきましょう。
解決策2. DXへの理解を進めて経営計画を確立する
経営陣はDXをよく理解して、経営計画を確立させなければなりません。
DX推進による経営計画は、それまで行っていた経営計画の立て方とは大きく異なります。
縦割りでやっていた各部門の仕事も、DXでは横の繋がりがより重要となり、全社的に行うべきプロジェクトとなっていきます。経営陣がDXに合った経営計画を確立することで、企業が向かうべき方向性がはっきりするため、全社がモチベーション高く、同じ目的でプロジェクトを推進できることでしょう。
解決策3. DXを推進した未来の会社のあり方を共有する
DXを推進すると会社はどうなっていくのか、未来の姿を社内全体で共有できるようにしましょう。
DX推進には全社一丸となって協力していくことが必須です。
DXによってビジネスモデル、製品、サービス等が大きく変わることになります。一部門の頑張りだけでできるわけではなく、部門同士が協力しあえる体制を確立していかなければなりません。
そのためには曖昧な目標ではなく、DXを推進した未来に会社がどのような姿になるのか、はっきりとした会社のあり方を共有しましょう。
解決策4. DX人材の育成を進めて体制を立てる
企業はDX人材を育成し、DX推進のための体制を立てていきましょう。
新卒や中途採用で人材を確保するのも大切ですが、既存の社員に対する育成や教育にも力を入れていかなければなりません。
そのためには社内研修はもちろんのこと、社外研修の推奨や必要な資格を取得するためのフォローも必要となります。すでに社内のシステム部門で活躍している熟練社員と連携し、システムの管理および運用方法を引き継いでいくことも大切です。
解決策5. DXの導入事例にアンテナを張りヒントにする
日本国内や海外では、DX導入に成功した事例が数多くあります。そのような情報に対してアンテナを張って、自社への導入のヒントにしていきましょう。
自社と同じ業界の事例が参考になることはもちろんですが、それ以外でも幅広くチェックすることで、これまで気付かなかった見方ができるようになるかもしれません。
アンテナを張って得られた手法を自社で試してみたり、失敗事例もどんどん収集して自社が同じような失敗をしないように参考にしたりしましょう。情報収集は必ずDX推進の助けとなります。
解決策6. 市場の動向を常に把握してビジネスモデルの開拓をする
DX推進で市場の動向にいつも目を配っておくことにより、新しいビジネスモデルを開拓できる可能性があります。
現代は顧客ニーズが細かく分かれているため、企業がニーズを予測することが難しくなりました。しかし、激しい競争を勝ち抜いて発展していくためには、顧客が求めている潜在的な価値を発掘していかなければなりません。
新たな価値を創造できるよう、顧客ニーズの動向を調査するだけでなく、市場がどう変わっていっているのか、競合はどんな動きをしているのか、新しい技術で何ができるのか等、さまざまな情報を収集していく必要があります。
解決策7. 再構築を図るべく既存システムの分析と評価を行う
既存システムを分析、評価して、新しいシステムを再構築していきましょう。
多くの企業は既存システムを長年使い、何度も改修しているため、限られた人しかわからないような複雑なシステムとなっています。既存システムは老朽化によって維持管理費の負担が増え、対応できる技術者がいなくなる可能性もあります。DX推進においては既存システムの再構築が必要不可欠です。
既存システムを機能ごとに分析・評価して、機能の刷新と削除を判断し、全体が最適化された新システムを再構築しましょう。
解決策8. ベンダー企業とパートナーとして関わる
従来のベンダー企業との関係を見直し、パートナーとして関わっていきましょう。DX推進にはベンダー企業との関係強化が重要です。
ITシステム全般を請け負うベンダー企業には、リスクの高い仕事を依頼することになります。リスクを軽減できるよう、関係の再構築が必要になる場合が出てくるかもしれません。
DXをよい機会として、企業はベンダー企業と上下関係ではなく、パートナーの関係にしていきましょう。
ベンダー企業とよい関係を築くことが、DX推進に成功する鍵です。
まとめ
この記事ではDXの課題と解決方法について解説してきました。
海外と比べて日本企業は、DXで大きく後れを取っています。従来の進め方でDXを成功させることは難しいでしょう。
まずは自社がDXで何をしたいのか、そのために何のITツールを導入し、どのように使っていくのか、ひとつひとつ明確にして、全社で同じビジョンを共有してください。