DXによる企業の変革は大きな課題です。そこで求められる「DX人材」は、周囲を巻き込むようなリーダーシップを持つ人材であり、さまざまな能力が求められます。DX人材をいかに確保するのかが企業の課題となっています。
ただし、日本は少子高齢化が進み労働の担い手が減少している問題も抱えています。本記事では、DX人材に必要なマインドセット、スキルセットを提示したうえで、DX人材確保のためにどのようなことをすべきか、解説します。
1. DX人材の特徴とは?これまでのIT人材との違い
まず、経済産業省の定義しているDX人材とはどのようなものなのか、その特徴について解説します。
1.1. 経済産業省が定義する「DX人材」の特徴とは?
経済産業省は、2010年ごろよりDX人材の確保に向けて対策を実施してきました。「DXレポート」という報告書を作成しており、DXの加速に向けた研究会なども実施しています。DX人材をいかに確保/育成するかが課題となっているのが現状です。
1.2. IT人材とは異なる役割とスキルを持つ人材が必要
もともとITシステムの仕事をしていた人は、DX人材になれる可能性があります。ただし、DX人材に求められるのは、デジタル分野に精通した人材ということだけでは足りません。
その知識を使い、いかに事業の変革をもたらすことができるかを求められています。そのため、いままではITシステムの業務に携わっていなかった事業開発担当者であっても、デジタルを使い事業を変革できるのであれば、DX人材になれる可能性があります。
2. DX人材の役割・資格|IPAが定義する7つの職種
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が定義するDX人材として、以下の職種が定められています。
DX人材の呼称 |
定義 |
プロダクトマネージャー |
主導するためのリーダー的な存在 |
ビジネスデザイナー |
企画や立案、推進などを行う人材 |
テックリード |
システムの設計や実装ができる人材 |
データサイエンティスト |
業務に精通しデータ解析や分析ができる人材 |
先端技術エンジニア |
先進的なデジタル技術を担う人材 |
UI/UXデザイナー |
ユーザー向けデザインを担当する人材 |
エンジニア/プログラマ |
システム実装やインフラ構築などを行う人材 |
2.1. プロダクトマネージャー/プロデューサー
DXなどのデジタルビジネスを実現するために、メイン(主導)となるリーダー的な存在です。ITなどのデジタルシステムを理解しているのはもちろん、企業として目指す理想像を実現するための力も必要です。
企業では管理職のような部下を持つ立場の人材であり、優秀な人材に任されるポジションでもあります。リーダーとしての品位が必須になるため、誰でもなれるわけではありません。
2.2. ビジネスデザイナー
プロダクトマネージャーやプロデューサーのもとで、DXの企画立案や推進を行う人材です。リーダーが理想とする形を実現できる発想力や、スケジュール通りに計画を進めていく能力も求められています。ビジネスを熟知している人でないとできないこともあり、ファシリテーション(業務を円滑に進める技法)などの能力も求められます。
2.3. テックリード
システムの設計や実装などの技術的な面を担う人材です。そのためITに関する高い技術を持っているのはもちろん、SE(システムエンジニア)領域などの業務にも精通している必要があります。リードエンジニアとも呼ばれており、チームをまとめ生産性を高める役割も担っています。品質を担保する役割を期待され、他部署との調整もあるため高いコミュニケーション能力も必要です。
2.4. データサイエンティスト
業務で必要になるデータ分析や解析を行う人材です。ビックデータを使い、事業にとって必要な情報を引き出していく役割も持っています。データを分析するためには統計を解析するスキルも必要になりますし、数学的な知識も求められます。IT分野についても幅広い知識が求められるため、プログラミングなどのスキルも必要になってきます。
2.5. 先端技術エンジニア
AIはもちろん、ブロックチェーンなどの先進的なデジタル技術を担う人材です。最先端の技術を十分に理解していないとできません。変化の早い分野になるため、アンテナを張り、最新の情報をキャッチすることも求められます。情報を集めることに長けている人でないと、先端技術エンジニアはつとまりません。
2.6. UI/UXデザイナー
ユーザー向けシステムのデザインを担う人材です。考案するためのセンスに長けており、どうしたらお客様に満足してもらえるのかをイメージして形にしていく必要があるのです。デザインのスキルはもちろん、情報収集力も必要になるでしょう。いかにユーザー目線で考えられるかもUI/UXデザイナーに求められるスキルです。
2.7. エンジニア/プログラマ
システムの立案に対してシステムを構築し実装、保守などを行う人材です。既存システムも対象になり運用します。エンジニア/プログラマの仕事は業務分析やプロジェクトのマネジメントなども対象です。必要に応じて業務の一部を外部委託するためのスケジュール管理なども求められます。知的財産管理などの専門的な知識も必要です。
3. あるべきDX人材像|IPAの調査でわかった必要なマインドとは?
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)では、DX人材に必要な人物像について「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」レポートを公表しています。DX人材に必要な複数の適応因子があると述べられています。
そこで提示されている必要なマインドは以下の通りです。
- 変化を受け入れる
- 挑戦を恐れない
- 最後まで完遂する
- 周囲を巻き込む
- 課題を発見する
- 知的好奇心がある
- 継続的な努力を怠らない
3.1. 変化を受け入れる
計画通りにいかないときにも、そのときの状況に応じて変化を恐れないマインドが必要です。目標を見失うことなく、計画を組み直しながら前に進んでいく気持ちです。
3.2. 挑戦を恐れない
新分野に対しての取り組みをいとわない姿勢も重要です。どんな未来を目指したいのかを明らかにし挑戦する姿勢、課題を設定する姿勢が求められます。
3.3. 最後まで完遂する
失敗したとしても一次的なものだと考え、立ち止まることなく前に進める姿勢も求められます。失敗も、成功するための過程と割り切って考えられるかどうかによっても結果が変わります。
3.3. 周囲を巻き込む
周囲のメンバーを自然と巻き込み円滑に進められる能力が必要です。普段から他者との関わりを持つ機会を増やして、自分の成長につなげることが大切です。
3.4. 課題を発見する
自ら挑戦したい課題を明確にし、自分の言葉で相手に伝えられるかどうかも重要です。主体性が求められます。
3.4. 知的好奇心がある
進歩の早い業界だからこそ、強い知的好奇心は必要です。新しいビジネスに高い関心を払い挑戦していくことにつながります。
3.5. 継続的な努力を怠らない
すぐに解決できないことも、諦めることなくさまざまな方法を模索する姿勢が求められます。責任感を持ち、常に壁を突破できるように日々努力を重ねていくことです。
4. DX人材に求められるスキルセットの6つの内容
DX人材として企業に変革をもたらすために必要なスキルセットの6つの内容を紹介します。
4.1. プロジェクトファシリテーションスキル
DXは全体的な変革が必要です。そのため、プロジェクトファシリテーションスキルの高さも問われます。これは、プロジェクトメンバーのコミュニケーションを円滑にし、その能力を最大限発揮させ、プロジェクトを成功に導くスキルです。
他の分野でプロジェクトに携わった経験があると、戦略の策定はもちろん、問題を分析して解決する力もつきます。予算を管理しながらスケジュール管理をぬかりなく行うようにしていきましょう。他にもコミュニケーション能力が必須です。
4.2. ビジネス企画・構築力
全体の戦略に基づき、具体的な企画を立案します。目的や課題が明確になっていないとやるべきことが定まりません。やらなくてもいいことに時間をかけることがないように、重要な業務を切り分けながらまとめていきビジネスを構築します。ビジネスを構成するためには密なコミュニケーション能力も必要になります。
4.3. ITに関する基本的な知識
DXは、ITの基礎知識も必要です。たとえば技術職との打ち合わせのなかで共通言語の部分が通じないと行き違いが生じてしまいます。IT技術はもちろん、最新の分野にも興味を持ち、しっかりと知識を積み上げていく必要があります。
国内だけでなく国外にも視野を向けると、幅も広がりDXの深みが増してきます。
4.4. ビッグデータサイエンティストスキル
ビッグデータを使い、分析し課題と向き合う必要があります。データ分析の精度は年々高まっていますので、そのデータをいかにビジネスに活かすかが求められています。企業同士の競争も激しくなる環境下、収集したデータをいかに活用するのかがマネジメントに求められている部分です。
4.5. ITトレンドの知見と応用力
常に状況が変化している業界だからこそ、そのときのトレンドを知ることはもちろん、いかにその知見を応用するのかも身につけていくべきスキルです。状況はすぐに変わってしまうため、一度得た知識がそのまま活かせるとは限りません。最新の情報を収集する癖をつけ、定期的なキャッチアップを目指す必要があります。
4.6. UX・UI目線
ユーザー目線に立ち使いやすいシステムを考えていく必要があります。どんなに最新技術を取り入れたサービスだとしても、使いにくいと思われてしまっては意味がありません。
どんなユーザーニーズがあるのかを把握し、ニーズに沿ったリアルな体験を提供できるかどうかが重要です。DXに限らず、ユーザー目線を意識することはきわめて重要です。
5. DX人材が必要な背景にある日本の課題と将来への取り組み
日本ではDX人材が求められ、経済産業省でも2025年の崖という問題が定義されています。コロナの影響もあり、働き方が変わったことも影響しています。日本ではどんな課題があるのか、将来の取組についても解説します。
5.1. 「2025年の崖」回避に向けた日本全体でDX推進拡大
「2025年の崖」とは、経済産業省の「DXレポート」のなかで課題として定義されたものです。データの活用やシステムの改革が進まないと、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性を示唆しました。
これをきっかけに広く認知されるようになったため、経営陣をメインに企業がDX人材に対して前向きに取り組むようになりました。
デジタル技術が進んだことで、古いやり方では自社の優位性を表しにくくなっていること、周囲と比較して競争力が低下していることなども課題として実感しているようです。DXは企業の課題と向き合っていくためにも必要なのです。
5.2. 新型コロナウイルスによる働き方改革の潮流
新型コロナウイルスによって、ビジネス環境は大きく変化しました。デジタルシフトも進んだことで顧客ニーズの変化に対応すべく、DXも加速しています。ビジネスのデジタル化を希望する企業も多く、データ分析や活用を求める声も上がっています。リモートワークの対応によって働き方が大きく変わったことでDXの必要性が高まっているのです。企業もいかにDXを進めていくかが大きな課題となっています。
ただ、圧倒的な人材不足の状況が大きなハードルとなっているのも事実です。
5.3. 政府が掲げるデジタル社会の実現に向けた取り組み
経済産業省は2010年より、DXの必要性や推進が進まない今の構造に対して、後押しするための施策を次々に打ち出しています。DXの必要性は認識しているものの、費用の高騰により戦略的なIT投資ができない企業が増えています。政府はデジタル社会の実現に向けて、デジタル化を全面的に推進しています。
また、政府はDX人材の不足を補うために、2021年9月に「デジタル庁」を新設しました。さまざまな技術の利用促進のためにも、ネットワークシステムの設置は必要不可欠です。専門性の高い分野になるので、デジタル庁では民間人からも採用を行いました。
データサイエンティストを2024年までに100人増やすことを掲げ、外部の採用や社内教育にも力を入れています。データ分析に強い組織を作る目的があります。今後は民間の企業でもDX人材の採用が進むと考えられており、デジタル化とともに加速することが予想されます。
5.4. 将来的に見込まれるIT人材の不足拡大
IT業界は以前から人手不足といわれており、2030年には約79万人のIT人材が不足するといわれています。IT人材は年々需要が伸びており、その背景にIT業界の急成長が関係しています。インターネットが当たり前になったことで、企業もIT化が進んでいます。
電子化も進んでいますし、企業の大切な情報をクラウドで保存するなどデジタル化が進んでいます。ただでさえ少子高齢化により人材不足になっているなかで、IT人材への需要は旺盛であることから、IT業界の人材不足は拡大していくと考えられています。
6. DX人材を獲得する方法とコツ
企業にとって、いかにDX人材を確保するかが重要になってきます。獲得する方法やコツについて、詳しく紹介していきます。
6.1. 新規に採用する
経験者による新規採用(中途採用)での人材確保です。
社内のDX人材が不足している場合は「中途採用」も考えていかなくてはなりません。既存社員のリスキリング(能力やスキルの再開発)のみですぐに結果をだすのは難易度が高いです。即戦力を求めている場合は、中途採用も検討する必要があります。
IT人材は採用したいと考えている企業が多いため、競争率も高くなります。社員が働きたいと思える魅力的な企業であることをアピールしていくことが重要です。
また、新規採用が難しいときは、業務委託契約も視野にいれるのがおすすめです。中途採用よりは人材獲得が難しくなく、なかには経験豊富でハイクラスの技術や知識を持っている人もいます。
6.2. 外部企業と連携する
DXを少しでも早く効率的に進めていきたい企業は、外部組織との連携を図る方法も有効です。協力企業や派遣企業などの外部人材を活用するケースも多く見られます。特定の技術を持った企業もしくは技術者との直接契約もありますので、需要も増えていくと考えられています。
外部企業はすでに蓄積されたノウハウを持っています。社内でもDXの知識や技術を蓄積させて学ぶ姿勢が大切です。せっかくの技術をどういかすのかを考え、社内の体制も整えていきましょう。
6.3. 社内育成(リスキリング)する
DX人材を社内育成する方法もあります。可能であれば社内でDXの対応ができるのが望ましいともいわれています。
社内育成には以下のようなメリットがあります。
- 先端IT従事者への転換もあり部署横断的な育成に繋がる
- DXのリーダーになれる可能性も期待できる
- 人件費を抑制できる
- 社内全体の意識改革に繋がる
- 現場とのずれが起こりにくく、リアルに状況や問題を把握できる
- DXのノウハウを社内に蓄積できる
このように社内だからこそできる問題解決も多く存在します。DX人材育成プログラムを使い効率的な社内育成を進めていく方法もあります。
まとめ
DX人材の需要が高まっているため、いかに優秀な人材を確保するのかが課題になってきます。そのため、外部に頼る方法もありますが、社内育成に力を入れていくことで、ノウハウを蓄積しながらDX人材を確保できる環境を整えていきましょう。
社会全体でデジタル化が進んでいるからこそ、DXに取り組んだ企業とそうでない企業に差が出てくる可能性も。社内育成だからこそのスピード感も上手に活用していきましょう。