将来の日本の経済状況について警鐘を鳴らす「2025年の崖」ですが、なんとなく危機感を抱きつつも、具体的な対応策がわからない方も多いのではないでしょうか。本記事では、2025年の崖が日本企業にもたらす影響とそれを乗り越えるための対応策について解説します。
1. 経済産業省が警鐘を鳴らす"2025年の崖"とは?
2025年の崖とは、2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート」のなかで使用されているキーワードで、将来の日本企業が陥る状態に対して警鐘を鳴らしたものです。
1.1. 「2025年以降」に危惧される年間約12兆円の経済損失
現状、日本企業は各企業の業務形態にカスタマイズされた基幹システムを使用していますが、過去の技術で構成され複雑化・老朽化していることが多く(レガシーシステム)、新たなシステムへの切り替えが困難な状況に陥っています。
2025年の崖は、レガシーシステムをこのまま使い続けた先に待ち受けている将来について、警鐘を鳴らすものです。
世界の企業が新しいシステムを積極的に取り入れ成長しているのに対し、日本企業はレガシーシステムを使い続けることで競争力を失い、その結果、2025年〜2030年のあいだに1年あたり約12兆円の経済損失が生じるといわれています。
1.2. 「2025年」から経済損失が発生する理由
2025年に経済損失が発生すると予想されている理由は、2025年に21年以上運用しているレガシーシステムを抱える企業が国内の6割以上になると推定されているからです。
1990年代〜2000年代の日本では、BPR(Business Process Reengineering)ブームをきっかけにシステムを導入する企業が増え、各企業の業務内容に合わせてシステムを独自にカスタマイズしていくことが主流となっていました。
この時期に導入されたレガシーシステムを使い続けることによって、保守費用は高額になっていき、人材不足という問題も同時期に重なることから、2025年がターニングポイントになると予想されているのです。
1.3. 全員が「2025年の崖」に落ちる可能性がある
現代の社会では、ITを活用せずに業務を行う業種がほとんどないため、全員が2025年の崖に落ちる可能性があるといえます。
しかし、システムを一新することはコストがかかるだけでなく、一時的な生産性の低下を招くなど業務負担も計りしれません。
まずは、経営陣がレガシーシステムを使い続けている状況に対して危機感を持ち、それを社内全体に浸透させることが重要とされています。
1.4. 「2025年の崖」回避には「DX」が必要不可欠
上記でも紹介した経済産業省の「DXレポート」において、2025年の崖を回避するためには企業が「DX」を進める必要があるとされています。
DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略で、デジタル技術の活用によって市場に新たな価値を創出することを指します。
DXを推進していく過程でレガシーシステムが新システムに移行されるので、業務の効率化をもたらし、コストの削減も実現できるということです。
新しい商品やサービスを開発し、新たな価値を見出して市場の優位性を獲得するDXを実現させることが2025年の崖を回避することに繋がります。
2. 「2025年の崖」に落ちたら待ち受ける未来…DX推進を怠る影響とは
DXの推進を怠り、2025年の崖に落ちるとどのような未来が待ち受けているのでしょうか。想定される4つの影響をそれぞれ解説します。
2.1. 経営状態への影響
DXの推進を怠ることで、十分なデータ活用ができず、顧客ニーズの変化に対応できない未来が予想されます。また、DXを推進させた企業に比べて業務効率が悪く、コストもかかるので、同じ商品やサービスを提供していても価格競争で負けてしまいます。デジタル競争の敗者となってしまい、売上や利益の減少など、経営面への悪影響は計り知れません。
2.2. システム利用への影響
レガシーシステムを使い続けることによって、保守・運用を行う人件費や維持費が高額になっていきます。最新のシステムは連携や互換性を意図して設計されているものが多いので、既存のシステムと連携させるために新たなコストを必要とする可能性も高くなります。また、IT人材が不足している課題と重なり、サーバーセキュリティの脆弱性が高まることも懸念されています。
2.3. 人材確保への影響
すでに不足しているIT人材ですが、2025年にはさらに不足することが予想されています。DXが推進されなければ、システムの保守・運用に大きなリソースを割くことになるので、さらなる人材不足に拍車をかけることになります。
2.4. 技術開発への影響
既存システムの保守・運用費用などに大幅なコストを割くため、新たな技術開発に着手できず、技術の進歩が止まることも予想されます。新たな商品やサービスを開発できなくなるため、世界の企業との競争に置いていかれることになります。
3. 「2025年の崖」を回避することで得られる未来とは?DX推進の効果
DXを推進して2025年の崖を回避すると、どのような未来を得られるでしょうか。4つの効果が期待できます。
3.1. ユーザー企業に対する効果
ユーザー企業(システム開発を他社に委託する企業)は、システムの保守や運用に回していたコストや人材などのリソースを、DX推進により新たな商品やサービスの開発に回すことで、市場に新たな価値を創出し、優位性を確保することができるようになります。さらに、AIなどの最先端テクノロジーを活用することにより、正確でスピーディな意思決定を実現させ、企業に好循環を生み出します。
3.2. ベンダー企業に対する効果
ベンダー企業(システムを提供する企業)は、既存システムの保守業務に費やしていた人材やコストを最先端技術の開発にシフトさせることが可能になります。自社サービスを開発することにより、従来の受託型業務からビジネスモデルを変化させることもできるでしょう。ユーザー企業との関係においても、委託・受託の関係から、利益をシェアする「パートナー」の関係に変化することが期待できます。
3.3. 経済面での効果
経済産業省の「DXレポート」によると、既存のレガシーシステムを一新してDXを進めることにより、2030年には実質GDP130兆円超えを見込めると記載されています。
これにより、さらなるIT投資を呼び込めるので、好循環が発生し、日本製品の需要が拡大することが期待できます。
3.4. 働き方改革にもつながる
2025年の崖を回避することは働き方改革にも繋がります。現在も広がりつつあるテレワークが、最新技術の導入によってさらに促進され、個々の生活スタイルに合わせた柔軟な働き方を叶えることができるでしょう。また、業務が効率化されることで残業が抑制され、健康リスクの排除も期待できます。DXをさらに進めるため、IT人材の獲得に積極的になる企業が増えるなど、IT人材雇用の拡大なども予想されます。
4. 日本企業が「2025年の崖」を回避するため解決すべき6つの課題
日本企業にとって、2025年の崖を回避するために解決すべき課題が6つあります。
4.1. レガシーシステムのブラックボックス化
前述の通り、現在の日本企業のほとんどは、各企業向けに複雑にカスタマイズされた基幹システム(レガシーシステム)を利用しています。
こうした過剰にカスタマイズされたレガシーシステムを保守・運用する人材が退職していき、システムの全貌がわからなくなってしまうことが危惧されます。この現象は「ブラックボックス化」と呼ばれています。
レガシーシステムを放置することは、後述するIT系エンジニアの人材不足やアプリケーションサポートの終了と重なり、致命的なダメージを負うことにつながるので、早急に改善が必要です。
4.2. レガシーシステムを保守できるIT系エンジニアの不足
現状、レガシーシステムの運用を行っているIT系エンジニアの多くが2025年までに定年退職することが予想されています。これにより、レガシーシステムの保守・運用ができる人材が減り、さらに運用コストの増加やブラックボックス化が進行するため、基幹システムを入れ替えるなどの対策が必要です。
4.3. 基幹アプリケーションのサポート終了
SAP(SAP社が提供する全部門共通システム)やWindows7など、いままで多くの企業が導入していたアプリケーションのサポートが終了します。サポートが終了したアプリケーションを使い続ければ、作業効率が悪くなるだけでなく、セキュリティリスクも高まるため、早急に対応する必要があります。
4.4. システムベンダー企業への丸投げ体質
日本企業の多くは、社内にIT人材を抱えていないため、システムに関する業務をシステムベンダー企業へ外部委託しています。システムに関する業務を丸投げしているので、自社内にITシステムのノウハウが蓄積されていないのが問題です。これでは、DXに向けた行動を起こせないので、まずは社内の意識から改革する必要があります。
4.5. DXを利活用する経営ビジョンの欠如
DXの必要性を認識している企業が増えてきてはいるものの、DXを利活用する経営ビジョンが欠如している企業が多いのが現状です。DXレポートでは、生産性の向上やコスト削減が目的となってしまい、本来達成すべき新たな価値の創出というDXの方向性を見失っている企業が多いという点も指摘されています。
「DXを進めた先にどのような改革を起こすのか」という具体的な経営ビジョンを持つことが、2025年の崖の回避には欠かせません。
4.6. 市場競争力の低下
システムの開発や保守・運用を行うベンダー企業は、ユーザー企業の要望に応じて受託業務を行うのが、現在の主なビジネスモデルとなっています。しかし、今後クラウド化などの高度なデジタル技術が採用されていくにあたって、受託業務の市場競争力が低下していくことが予想されます。
また、ユーザー企業についても同様です。レガシーシステムを維持している企業はデジタルの進化についていけず、新しい技術やサービスを導入できなくなり市場から取り残されることも予想されます。
5. 「2025年の崖」回避のための対応策・DXの進め方
2025年の崖を回避するためには、正しい方法でスピード感を持ってDXに取り組むことが重要です。具体的な対応策を4つ紹介します。
5.1. 現状把握と行動計画の策定を行う
まず、自社が現状の作業工程に費やしている人員やコストなどの現状把握を行う必要があります。そのうえで、DXを進めていく行動計画の策定を行います。
行動計画を策定する際は、経済産業省が公表している「DX推進指標」をチェックリストとして活用するのがおすすめです。DXに対する自社の現在位置を把握し、どこから改善していくのかを検討しなければなりません。
5.2. 必要性を突き詰めてシステムの取捨選択をする
現在利用しているレガシーシステムは、カスタマイズを繰り返す工程で、あまり利用していない余計な機能が搭載されている可能性があります。システムは新しいものを追加するだけでなく、不要だと判断したものについては捨てる勇気を持つことも重要です。本当に必要な機能だけを所持していることが最も無駄のない状態だといえます。
5.3. 計画的に新技術の導入を検討する
自社の現状把握やシステムの必要性を突き詰めたあとは、本当に必要な機能を補完するために新技術の導入を検討しましょう。新技術の導入にはコストがかかることはもちろん、システムに慣れるまで一時的に作業効率が下がる可能性もあるので、計画的に段階を踏んで導入することが大切です。
5.4. 企業全体でDXに取り組む体制作りをする
DXは、経営陣やDX推進部など、専門的な部門だけで進めるものではありません。企業全体の取り組みとして社内に浸透させ、全社一丸となって取り組む体制を整えることが重要です。進捗状況や今後のビジョンの共有などを行うことで、従業員もDXに協力的になり、DXをよりスピーディに進めることができます。
まとめ
2025年の崖は、現状使用しているレガシーシステムを使い続けた結果訪れる最悪の未来です。これを回避するためには、新しいデジタル技術を取り入れ、計画的にDXを推進していく取り組みが必要となっています。
本記事で取り上げた6つの課題や4つの対応策を参考に、自社のDXを進めていきましょう。