DX推進の動きは各企業でますます進んできています。専門の部署を立ち上げたり、新しく人材を獲得したりと、DXの流れに遅れまいと、企業の命運をかけてどこも必死で取り組んでいます。
しかし、DXがどのようなものかいまだによくわかっていない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、DXの身近な例を挙げて、サービスや社内業務の改革について紹介しています。最後まで読んでいただくと、DXがどのようなものなのかよく理解できるはずです。
1. 耳にすることが増えた「DX」そのメリットをおさらい
DXで最も大きなメリットは、既存の業務をデジタルに置き換え、進化させることによって、生産性や正確性を向上させることができる点です。
デジタル化によって従来の業務を最適化できれば、作業時間は減って人件費を減らすことができ、人が介在することで起こるヒューマンエラーもなくすことができます。
DX推進により、従業員は負担が軽くなってより重要度の高い業務や新しい仕事に取り組めます。顧客と接する時間も増えるので、顧客満足度もアップすることでしょう。
2. DXの身近な成功例:生活に密着したサービス編
DXの身近な成功例を紹介します。これまでDXがよくわかっていなかった方も、DXが現在、いかに生活に密着したサービスにつながっているか理解できることでしょう。
サービス①:遠隔注文サービス
「遠隔注文サービス」はマクドナルドやスターバックスのモバイルオーダーが代表的で、実際に使ったことがある人も多いことでしょう。
遠隔注文サービスはスマートフォンなどのモバイル端末を使って遠隔で商品を注文できるように設計されており、専用のアプリやブラウザから利用可能です。モバイルオーダーは対面でのやり取りがなく、待ち時間の短縮につながり、顧客満足度向上につながっています。
企業側にとっては販促手段として使えたり、顧客のデータの収集ができたりします。企業と顧客の双方にとって利用価値が高いといえます。
サービス②:無人レジ
コンビニやスーパーなどでは自分でレジを操作して精算を行う「無人レジ」の導入が進んでいます。
企業内の売店でも導入が進められており、有人販売では困難だった24時間営業を実現し、従業員からのニーズに応えられるようになりました。
無人レジだと深夜の時間帯でも営業が可能になりますので、深夜帯の利用が多いユーザーにアプローチできるうえ、売上アップにもつながっています。もちろん、昼間の時間帯でも利用できますので、人員不足解消や人件費削減といった課題を解決するものとして注目されています。
サービス③:食品配達サービス
ウーバーイーツや出前館など、都市部を中心にサービスを展開している食品配達サービスも、DXのひとつです。
出前といえば店に電話やFAXで注文して届けてもらうかたちが一般的でしたが、DXの進んだ食品配達サービスの場合、アプリやブラウザでプラットフォームにアクセスし、ラインナップにある店舗・商品のなかから好きなものを選択し、注文します。
注文だけでなく、決済もアプリやブラウザ内で完結するため、ユーザーは届いた商品を受け取るだけという手軽さです。
サービス④:車両手配サービス
車両手配サービスとは、利用者がスマートフォンアプリを使って、利用したいときにいつでもタクシーやライドシェア(自家用車を使った有償旅客運送)の車を好きな場所まで呼べるサービスです。
日本ではまだまだ浸透していませんが、アメリカの「ウーバー」や中国の「ディディ」を聞いたことがある人は多いことでしょう。
日本では、ライドシェアは法律で禁止されていますが、タクシーやハイヤーの車両手配サービスは行われており、DeNAやソニーに加え、ウーバーやディディも参入してきています。
サービス⑤:サブスク
Netflixなどの月額制動画配信サービスやSpotifyなどの音楽配信サービスといったサブスクリプションもDXの身近な例です。
ユーザーは月額料金を支払うことで、プラットフォーム内にアップされている動画や音楽をいつでもどこでも、自由に視聴できます。サブスクは「所有」ではなく、一定期間「利用」するのが特徴です。
これまではレンタル店でDVDやCDを借りることが一般的でしたが、サブスクの配信サービスの登場で人々の生活スタイルが大きく変わりました。
サービス⑥:スマート家電
スマート家電は従来の家電製品にAIを搭載することにより、さらに使いやすく便利にした家電のことです。
最近は家庭やスーパーなどでロボット掃除機をみる機会が増えましたので、身近に感じている人も多いのではないでしょうか。
スマート家電のエアコンは家にいなくても外出先からスマートフォンで電源オン・オフができたり、人がいるところといないところを自動的に感知して風向きや温度を変えたりできます。
声に反応して照明がつく機器もあるなど、多くの家庭、オフィスにある多くの家電が少しずつスマート家電に置き換わっていくことでしょう。
サービス⑦:NFTアート
NFTは「Non-Fungible-Token」の略で、唯一無二の代替不可能なトークン(デジタルデータ)という意味です。
NFTは、仮想通貨でも使われているブロックチェーン技術を利用することにより、データを改ざんできなくしています。
これまでのデジタルアートは簡単にコピーできてしまうことが大きな欠点でした。しかしNFTは唯一無二のデジタルアートであることを証明する技術であり、高い価値がつくことになるものです。
実際、NFTアートは数百万円単位の価値がつくことも珍しくなくなっており、最も高額なものになると数億円で取引されています。
3. DXの身近な成功例:社内業務の改革編
社内業務の改革に関するDXの身近な成功例について紹介します。DX化を進めると社内の業務が大きく変わり、社員のモチベーションも上がります。
業務改革①:書類の電子データ化
書類を電子データ化すると、収納場所を必要とせず、整理整頓する手間もありません。
紙での保管は定期的に処分しないと溜まっていく一方ですし、処分するにしても時間も費用もかかります。
しかし、書類を電子データ化すると、大きなスペースの保管場所は必要なくなり、サーバやクラウドにデータファイルを保存しておけば、いつでもどこでも、ほしいファイルにアクセスできます。
業務改革②:AIやRPAツールを活用した業務自動化
AIやRPAツール(ロボットによる業務自動化ツール)を活用することで、業務を自動化できます。
売上データを収集してグラフにしたり、請求書を発行したり、就業時間を集計したりするなど、社員が単純作業に時間と手間をとられ、本来やるべき仕事に注力できないという悩みを抱えた企業は多く存在します。
AIやRPAツールを活用すると、従来の業務が自動で行われますので、効率的かつ正確に処理が進みます。RPAの場合、異なるシステムやツールとの連携もできますので、複数の部署が関与する業務でも効率化が可能です。
業務改革③:情報管理ツールの活用
情報管理ツールを活用すると、既存の業務体制を整理でき、顧客に最大限の価値を提供できます。
DX推進にはAI・RPAツールを使った業務自動化だけでなく、複数のツール導入も重要です。代表的なツールは下記の3点です。
- SFA(営業支援システム)
- MA(マーケティングオートメーション)
- CRM(顧客関係管理)
顧客情報を効率的に広く取得するためには複数の自動化ツールを導入しましょう。さらに、収集したデータを活用するためにどう変換するかといった思考が欠かせません。
企業でSFAやMA、CRMのツールを導入することによって、社内のデータ活用基盤を整えることができるでしょう。
業務改革④:在宅勤務の推進
DXが進むと、在宅勤務の推進につながります。
2020年以降、従来の仕事のあり方が大きく変わり、オフィスにほとんど出勤しないという人も増えてきています。
在宅勤務が不自由なくできているのも、企業のDXが進んでいるからこそです。今後はオフィスに行かずに在宅勤務を選択する人がさらに増えて、オフィスそのものの価値、存在意義が変わっていくことでしょう。
4. DXの身近な成功例:企業の成功事例
DXに成功した身近な例として、企業の成功事例を紹介します。よく知る企業の成功事例を知ると、DXをより理解できることでしょう。
成功事例①:建築会社「清水建設」
清水建設では建物内の設備やIoT(モノのインターネット)のデバイス(モノ)、それぞれのアプリケーションを簡単に連携および制御できる建物運用デジタル化プラットフォーム「DX-Core」という建物OS(オペレーティングシステム)を開発しました。
DX-CoreはWindowなどのOSと同じく、随時更新可能なプラットフォームです。建物をパソコン本体のようにすることにより、各種設備機器などのデバイスを容易に増設、連動可能にしました。
バージョンアップも簡単にできるため、ビル機能を常に最新の状態にしておくことができます。
成功事例②:不動産会社「オープンハウス」
オープンハウスでは社内のIT部門が中心となって開発したシステムやアプリ、ツールでコスト削減および利便性を実現しています。
ロボット技術を活用した、社内外から情報収集できる「物件資料自動取得RPA」、宅地を最適に区割りする「自動区割りシステム」、物件情報の書類にQRコードの台紙を挟んでスキャンするだけで整理と分類ができる「整理・保存システム」などです。
業務のDXを進めたことで、オープンハウスは「2020年度第38回IT賞」を受賞しています。
成功事例③:保険会社「ソニー損保」
ソニー損保はアプリに運転データを連動させることにより、顧客満足度アップに成功しています。
車の電源ソケットに専用デバイスをとりつけると、エンジンをかけたときにデバイスとスマートフォンにインストールしたアプリが連動して、運転データを自動的に計測します。
ユーザーが行うのは最初のセッティングのみです。
ソニー損保ではすぐに反映される計測結果に基づき、キャッシュバック額を決定します。
走行記録の確認もできるため、自分の運転を改善するのに役立てることも可能です。
成功事例④:ECサイト「Amazon」
Amazonの物流倉庫ではロボットによるピッキングが行われています。
Amazonぐらいの規模のECサイトとなれば、注文数は非常に多くなりますので、これまでのように人がピッキングしていたのでは商品発送まで時間がかかってしまいます。Amazonが即日配送、翌日配送できるのは、AIを搭載したロボットが人の代わりにピッキングを行ってくれるからです。
ロボットですので、商品がどれだけ高いところにあっても関係ありません。空間を効率的に使うため、Amazonの物流倉庫ではまったく無駄なスペースがなく、最速でピッキングすることを可能にしています。
成功事例⑤:フィットネス会社「24 Hour Fitness」
24 Hour Fitnessではアプリを活用して、フィットネスジム内での人と人とのコミュニケーションだけに留まらず、ジム外であっても会員一人ひとりと密接な関係を築けるようにしました。
アプリを活用することで、会員それぞれに適したトレーニングメニューを提供できることで、利用者の満足度も高まっています。
24 Hour Fitnessはアプリ利用率が全会員の4分の1程度である現状から、8割程度まで伸ばすことを目標にしています。
5. DX推進を成功させるポイントは5つ
多くの日本企業が本格的にDXを推進していくのはこれからです。一体何から手をつければよいかわからない企業も少なくないでしょう。ここからはDX推進を成功させるために各企業が考慮すべきポイントを5つ紹介します。
ポイント①:明確なゴール設定と現状把握
全社がどこに向けてDXを推進していけばいいのか、まずゴール設定を明確にして、現状把握に取り組む必要があります。
事業や業務をデジタル化しただけではDXで変革できたとはいえません。経営陣がリーダーシップをとり、経営戦略と向かうべきゴールをはっきりさせることが大切です。
目標を定めて現状を分析することで、必要となるITツールや開発すべき新システムが何なのかが見えてくるはずです。最新のデジタルテクノロジーや話題のツールありきで始めないようにしましょう。
ポイント②:全社員が一丸となった推進体制の構築
DX推進には、全社員が同じ方向を向いて進む体制の構築が欠かせません。
社内でDX導入に際し十分に話し合いの場を設けて、どのような成果を目指すのかを明確にし、全社員と共有しましょう。
自社のビジョンを一部の経営陣だけが知っているものとせず、社員全員が理解し、推進していくことが大切です。
社員一人ひとりが各部署と連携し、コミュニケーションをとって進めることにより、初めて成功への道筋が見えてきます。DX戦略のビジョンの共有は必ず、社員全員で行いましょう。
ポイント③:DX推進に必要なDX人材の採用と育成
DX推進には、必要なDX人材を採用し、育成する必要があります。
優秀なIT人材は日本国内のみならず、世界中で激しい争奪戦となっており、簡単には採用できません。DX推進に向けた目標が定まったら、優先してIT人材の確保と育成を開始しましょう。
採用だけでなく、既存社員の育成も求められます。他の業務に追われて育成できないという事態にならないよう、専門の部署を立ち上げるなど、育成のための環境づくりも進めていきましょう。
ポイント④:他社の成功事例を学んでスモールスタートする
DXの重要性は十分理解できていても、実際にDXに充てられる予算が少ないという企業は多いことでしょう。DXは企業が一発逆転を狙うようなギャンブル性のあるものではありません。企業が今後、世界を相手に競争していくために段階的に進めていくべきものです。
日本国内でもDX化に成功した企業がいくつもありますから、まずは成功している他社の事例から、DX推進において何をどのようにしたのかを学びましょう。そのうえで、低予算でスタートさせることが成功するためのカギとなります。
DXの最終目的は企業の変革を実現させることです。そのためにも、まずはスモールスタートで成功体験を積み重ねていきましょう。
ポイント⑤:共創する姿勢を持つ
企業はさまざまな企業と共創する姿勢を持ちましょう。
デジタルの活用により、これまでつながりにくかった企業ともつながりやすくなり、バリューチェーンを広げることで共創のチェーンも一緒に広げていくことが可能になっています。
その広がりをネットワーク化することで、DXに必要なプラットフォームも自然と確立します。新しいネットワークは自社に新たな価値をもたらしてくれるはずです。
既存の枠組みを超えて横の連携を強化していくことで、日本ならではのDX成功モデルとなることでしょう。
まとめ
ここまでDXの身近な例として、生活に溶け込んでいるサービスや企業の成功事例、DX成功のポイントについて紹介してきました。
DX化を成功させるには明確な目標設定に向けて組織を変革していくことが必要です。また、DXの推進には時間と人材、予算を確保しなければなりません。
向かうべき道筋を社員全員で共有し、DXを推進していきましょう。