近年、世界で注目されているDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進させようと、多くの企業が活発な動きを見せています。しかし、DXを推進するにあたって、DX人材の不足が浮き彫りになっているのが現状です。本記事では、DX人材育成を行うポイントを8つに分けて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
1. 育成にあたって把握したい|DX推進に必要な人材の資質と職種
DXを推進するためには、専門的に行う人材が必要です。DX推進に必要な人材を「資質」と「職種」の2つの観点に分けて紹介します。
1.1. IPAの調査でわかったDX人材に必要な資質
IPA(独立行政法人情報処理機構)は、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」の結果、DX人材の適性因子には以下の6つがあると仮説づけています。
必要な資質 |
概要 |
不確実な未来への想像力 |
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臨機応変/柔軟な対応力 |
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社外や異種の巻き込み力 |
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失敗したときの姿勢/思考 |
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モチベーション/意味づけをする力 |
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いざというときの自身の突破力 |
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引用:独立行政法人情報処理推進機構「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」
DXは、デジタル技術を活用し、まったく新しいサービスや価値を想像していくものです。したがって、既存の概念を打ち破り、新しいことに積極的に挑戦する姿勢が求められるということです。
また、さまざまな人を突き動かすリーダーシップや、まとめ上げるコミュニケーション能力も不可欠です。
DXの推進は、これらの資質を持ち合わせたリーダー人材の育成が鍵を握っているのです。
1.2. IPAが定義したDXに必要な7種類の人材
IPAは、DXに対応する人材を以下の7つに分けて整理しています。
職種 |
定義 |
プロダクトマネージャー |
DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材 |
ビジネスデザイナー |
DXやデジタルビジネス(マーケティングを含む)の 企画・立案・推進などを行う人材 |
テックリード(エンジニアリングマネージャー、アーキテクト) |
DXやデジタルビジネスに関するシステムの設計から実装ができる人材 |
データサイエンティスト |
事業・業務に精通したデータ解析・分析ができる人材 |
先端技術エンジニア |
機械学習、ブロックチェーンなどの先進的なデジタル技術を担う人材 |
UI/UXデザイナー |
DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを 担当する人材 |
エンジニア/プログラマ |
システムの実装やインフラ構築・保守などを担う人材 |
引用:独立行政法人情報処理推進機構「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」
主にエンジニアやデザイナーのようなIT専門職の人材が必要であり、システムの設計や実装、保守を担う人材が求められています。
IPAの調査では、特にプロダクトマネージャーとビジネスデザイナーが重要と答える企業の割合が多かったことから、重要度の高い役割であることが理解できるでしょう。
2. 見えてきたDX人材育成の課題「リーダー人材と学習機会の不足」
DX人材育成の課題としては「リーダー人材の育成」と「学習機会の不足」の2つが挙げられます。
DXに必要なITスキルを持つ職種のうち、プロダクトマネージャーとビジネスデザイナーがDXを先導するリーダー人材にあたります。これらの人材は講習会や自己学習などの座学で育成することが難しく、案件実施による経験を多く積むことが重要です。
学習機会の不足については、新しく習得したスキルを活かせる案件が減少していることや、講習などといった社内で行える学習機会を提供しにくいことが原因として挙げられます。
これらを解決するためには、社内に蓄積されたデータの活用や社外サービス・コンテンツの利用が効果的です。
3. DX人材の育成の進め方|4つの段階を解説
DX人材の育成は4つのステップで進めていきます。重要なのは、座学で学んだことを実践を通して深く理解していくことです。
3.1. 適性のある人材を選定する
まず、DX人材としての適性を持っている人材を選定することから始まります。適性については前述の通りです。技術面だけでなく、主体性や柔軟性を持ち合わせ、高いコミュニケーション能力と強いリーダーシップを発揮できる人材が求められています。年齢や役職に左右されることなく、フラットな視点で選定することが重要です。
3.2. 座学により直接的・間接的に必要な知識を身につけさせる
DX人材の候補者を選定したら、座学で必要な知識を身につけてもらいましょう。その際、社外講師による講習やハンズオン講座(体験学習)などが有効です。業務に直接関係のあるデジタルスキルを学ぶことはもちろん、DXはチームで推進していくため、リーダーシップやマインドセットなど、業務に対して間接的に必要な知識を学ぶことも重要となっています。
3.3. 実践的な訓練を施す
座学で学んだ知識を、実践を通して昇華させる工程です。これはOJT(On-the-Job Training)と呼ばれていますが、実際に実務経験を積むことが成長には欠かせません。まずは、社内限定の小さなプロジェクトから始め、実行力を身につけるとよいでしょう。
3.4. 最新情報を吸収できる環境を提供する
ITは情報の変化が激しいため、常に最新情報を吸収できる環境に身を置くことが重要です。必要な情報を素早くキャッチアップするためには、社内外にアンテナを張る必要があります。社外の情報コミュニティに参加することや、有益な情報発信を行っている第一人者のSNSをフォローすることなどが有効です。
4. 社内でDX人材の育成に取り組む8つのポイント
社内でDX人材の育成を行う際は、注意すべきポイントが多数存在します。本項では8つのポイントを取り上げ、解説します。
4.1. ITシステム導入と共に人材育成への投資も必要である
DX人材を育成する際、ITシステムを導入するだけでなく、人材への投資も必要不可欠です。人材への投資としては、社内で座学やOJTを行うことや、外部講師を雇って講習会を開くことなどが挙げられます。人材への投資は将来のために必要な投資と位置付け、事前に予算を分配しておくことが大切です。
4.2. 育成対象の選定においてはビジネス面での素養も見極める
DXの推進は既存の業務に大きな変革をもたらします。したがって、ITスキルなどの技術面以外に、コミュニケーションやリーダーシップなどのビジネス面での素養も見極める必要があります。
また、DXの推進には、問題を見つけ解決する主体性や、改善しようとする柔軟な姿勢が欠かせません。ビジネス面での資質は、ITスキルと同等あるいはそれ以上に重要な要素だといえます。
4.3. DX専門部門以外の部署にもDXの基本的知識が必要となる
DXを推進するために専門部門を設けることは大切ですが、専門部門だけ教育を行えばよいというものでもありません。工場や倉庫の作業スタッフ、事務員などの一般スタッフにもDXの基本的知識を習得させることが重要です。現場で作業を行うスタッフがデータ活用の技術を把握し、業務を効率的に遂行させることが求められています。
4.4. 育成に活用できる社内外のリソースを適切に配分する
DX人材の育成は、初めのうちほど、業務委託の専門家や外部講師による講習といった、社外のリソースに頼ることをおすすめします。最も効率的なのは、OJTを行いながら、徐々に内製化していくことです。
DX人材の育成を効率的に行うためには、社内外のリソースを適切に配分する必要があります。
4.5. リーダー人材の育成は社内で長期的視点をもって行う
中小企業など、社内でDX人材を揃えるのが難しい企業も存在するでしょう。しかし、プロダクトマネージャーやビジネスデザイナーなど、DX化を先導するリーダー人材は社内で育成する必要があります。
その理由は、DXを効率的に推進していくためには、社内リソースや事業内容を正確に把握している必要があるからです。また、DX化を外部企業に丸投げしていては、自社にノウハウが蓄積されません。また、リーダー人材に必要なスキルや経験は座学だけで習得できるものではないので、実践を通して長期的な視点で行う必要があります。
4.6. 育成の過程を社内で共有する
DXのビジョンや人材の育成目的など、育成過程はDXの推進部門だけでなく、全社に共有することが大切です。理由は、DXに関して協力的な姿勢を得られることはもちろん、失敗した際の態度も寛容になることが挙げられます。
DXの推進を全員で行っているという自覚があれば、全社的なモチベーションの向上や、さらなる活性化が期待できます。
4.7. 身につけたスキルの活用には「アジャイル開発」の手法を用いる
DX人材が身につけたスキルを活用する際は、いきなり大規模なプロジェクトに参加させるのではなく、「アジャイル開発」の手法を用いて小規模なプロジェクトから徐々に慣れさせていくのが有効です。
アジャイル開発とは、1つのプロジェクトを細かく区切り、短い単位で実装とテストを繰り返す開発手法です。難易度を抑えることができるため、経験の浅いDX人材でも成功体験を積み重ねやすく、自信がつきやすいというメリットがありますす。
4.8. 時流に対応するべく人材育成計画はフレキシブルに修正する
DXに必要なスキルや知識は、社会情勢等の外的要因によって変化しやすいという特徴があります。具体例として、近年では新型コロナウイルスの流行によって非接触対応を可能にするビジネスが注目を集めています。こうした時流に対応するべく、人材育成計画はフレキシブルに修正する柔軟な対応が必要です。
5. 自社で人材育成を行うと自社に最適なDXが推進できる
DX人材の育成を自社で行うことで、自社に最適なDXを推進できるという大きなメリットがあります。
自社で育成したDX人材であれば、既存事業への理解が深いため、既存システムを活用した革新的なシステムの開発を行ったり、既存事業とのシナジーを起こす新規事業を立ち上げたりすることができます。
また、社内システムに一貫性を持たせられるため、トラブルの際にも柔軟に対応ができます。
DXを推進するには、世のニーズを察知しながら、柔軟に立ち回ることが求められます。自社に最適なDXを推進できるというのは、大きなメリットになります。
6. 経済産業省がDX人材育成に向けて用意した学習機会を活用しよう
DX推進を先導している経済産業省は、IPAとともにDX人材の育成を目的とした学習プラットフォーム「マナビDX」を2022年3月29日に開設しています。DX人材の育成にあたり、こういったプラットフォームを活用するのもおすすめです。
6.1. DXの知識や学習機会が得られるプラットフォーム「マナビDX」
マナビDXでは、デジタル知識や能力を習得する機会を得ることができます。ここではマナビDXでできることを2つ紹介します。
6.1.1. 教育コンテンツやDXの指針などの情報入手が可能
マナビDXでは、デジタルスキルを学ぶための教育コンテンツを入手できます。また、「何を」「どのようにして」学んだらよいのかわからないという人に向けて、DXの指針について紹介しています。
DXの指針においては、DXの背景や活用されるデータ・技術を定義し、それらの知識を身につけることが学習の指針とされています。
主に企業がDX人材育成のためのカリキュラムを策定したり、個人がスキルアップのために利用するガイドとして活用したりすることが可能です。
6.1.2. DXに適した学習講座の検索もできる
マナビDXに掲載されている学習講座は、利用者の目的に合わせて検索ができるように設計されています。
主に「デジタル入門/基礎講座」「デジタル実践講座」「受講料の支援のある講座」「特に女性におすすめ」の4つの基本カテゴリーに分類されています。利用者のレベルに応じて絞り込みができるのはもちろん、AIやクラウドなど、カテゴリ別に絞り込むことが可能です。
6.2. 2022年に企画された無料の研修「DX人材育成プログラム マナビDXクエスト」
マナビDXクエストは、地方企業や産業のDXを担う人材育成の促進を目的に企画された研修です(2022年度の募集は終了しています)。
企業データに基づくケーススタディを行ったり、地方の中小企業に協力してもらい、実際に現場研修で課題解決に取り組む経験を積めんだりできるのが特徴となっています。
デジタル知識を得られるだけでなく、同じ目標を持つデジタル人材との繋がりを構築できるのも大きな魅力です。
まとめ
DX人材の育成は社内で行うのが理想です。DX人材は転職市場でも枯渇しており、外部から採用しようとすると困難を極めるからです。また、自社で育成すれば、自社に最も適したDXを推進することができます。
DX人材を育成するには、外部機関や学習プラットフォームを活用するのが効果的です。本記事で紹介した「人材育成に取り組む8つのポイント」を押さえて、DX人材の育成に取り組んでください。