(※写真はイメージです/PIXTA)

いま、日本のみならず世界の金融・経済情勢も不安定な状況が続いています。多くの悲観論が飛び交っていますが、これまでもたびたび繰り返されてきた金融危機を振り返ることで、学びになることがあるはずです。今回は、2008年に世界各国を震撼させた「リーマン・ショック」について、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

本当の問題は、自己資本比率規制による貸し渋り

銀行には、自己資本比率規制という規制があります。大胆に簡略化して説明すると「自己資本の12.5倍までしか貸してはならない」という規制です。これは、「融資の12.5分の1(=8%)が回収不能になっても倒産しないような、健全な銀行を目指せ」という規制なのですが、これがあると、銀行が大赤字になって自己資本が減ったときに融資を回収する必要が出てくるわけです。

 

少なくとも新規の貸し出しは絞りますから、材料を仕入れる資金や給料支払い資金が借りられずに倒産する企業が多数発生することになりかねません。「貸し渋り」「貸し剥がし」と呼ばれる現象です。

 

そうなると、世論は銀行に批判的になります。「銀行が貸し渋りをしたから中小企業が倒産している」というわけです。

 

実は、このときにおこなうべきことは銀行に増資をさせて政府が引き受けて、銀行の自己資本比率を高めることです。そうすれば、貸し渋りをする必要がなくなり、中小企業が助かるからです。しかし、それは大変に困難なことなのです。「国民の血税で銀行を助けるのはケシカラン」という世論の大反対が起きるからです。

 

銀行を助けるのではなく、銀行が貸し渋りをしなくてすむように銀行の自己資本を充実させて中小企業を助けるための政策なのですが、世の中の人は「自己資本比率規制」などというものを知りませんから、銀行を助けるための公的資金注入だと思うのは当然ですね。

 

そのときに政府がするべきことは、「自己資本比率規制というものがあって、それが貸し渋りを招いているのだ」ということを国民に丁寧に説明することなのですが、日本でも米国でも今ひとつその説明が不十分だったのは残念なことでした。

 

結局、日本でも米国でも最後には公的資金の注入がおこなわれましたが、それまでに時間を要したため、その間に倒産した企業が多数あり、景気への悪影響は甚大なものとなったのです。

 

以上、金融危機について記して来ましたが、筆者は現時点で金融危機が迫っているとは考えていません。今回の株高がバブルだったのか、米国の住宅投資がバブルだったのか、現段階ではわかりませんが、仮にミニバブルだったとしても、その崩壊が金融危機をもたらす可能性は低いと思います。

 

本稿を読んでいただいた方が過度に不安を感じるとすれば、それは筆者の望む所ではありません。ただ、可能性は皆無ではないので、頭の片隅には置いておいていただきたく思います。

補論:銀行が不動産融資に慎重であるべき理由

上記のように、不動産価格が上昇を続けていると、銀行の融資の審査が甘くなる場合があります。これは、理論的に大問題です。

 

投資家(投機家?)は莫大な利益を手にするかもしれませんが、銀行は、不動産価格が何倍になっても金利だけしか得られません。一方で、不動産価格が暴落すれば、投資家は当然損をしますが、投資家が破産すれば銀行も損をします。

 

つまり、不動産価格が上昇を続けているときに不動産購入資金を融資するのは、「勝てば他人の得、負ければ両者とも負け」という賭けをしているようなものなのです。そんな融資をするくらいなら、銀行が自分で不動産を購入するほうがはるかによいでしょう。

 

さらにいえば、バブルかもしれないときに銀行が不動産担保融資に慎重になれば、バブルは膨らみませんから、日本経済全体にとっても、銀行が合理的に行動してくれる(慎重になってくれる)ことが望まれるわけです。

 

次に「バブルかもしれない」と思われるようなときが来たら、ぜひ銀行には慎重になってほしいものです。そのためには、銀行の人事評価において「貸出が焦げ付いたら、焦げ付いた時点で過去の貸出稟議を調べて、押印した人全員の人事効果を引き下げる」といったことが徹底される必要があるでしょうが。

 

今回は以上です。なお、本稿はわかりやすさを優先していますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「幻冬舎ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「幻冬舎ゴールドオンライン」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義
経済評論家

 

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