今回は、相続税対策を考えた場合、老人ホームに入居した親の自宅をどうするかを見ていきます。※本連載は、相続を中心に個人の資産に関する業務に力を注いでいる株式会社ウーマンタックスの代表取締役、板倉京税理士の著書、『相続はつらいよ』(光文社)の中から一部を抜粋し、「評価を下げて相続税を減らす」タイプの節税対策を紹介します。

要件を満たせば「小規模宅地等の評価減」の適用も可能

「一人暮らしの母が老人ホームに入るのですが、この先の相続税を考えた時に、自宅は、そのまま持っておくべきか、それとも売るべきか、どちらがいいでしょうか?」

 

「老後は家族に面倒をかけたくないから」と老人ホームに入る方も増えてきています。親が老人ホームに入った後、自宅をどうすればいいのかは悩ましい問題です。

 

老人ホームに入るにも費用がかかりますので、それを捻出するために自宅を売却すると決めている方はいいのですが、自宅をそのままにしておくか、どうするか悩んでいる方には、相続税という側面からちょっとお話をしておきたいと思います。

 

ゆくゆく相続税がかかりそうだという方の場合、前回でお話しした「小規模宅地等の評価減」の特例を受けられるかどうかは大きな問題です。簡単におさらいすると、この特例は、亡くなった方の住んでいた家の土地の評価を8割引きにしてくれるという制度です。

 

以前は、終身利用権付きの老人ホームに入居された方の自宅にはこの特例が使えませんでしたが、平成26年1月1日以降の相続から、下記の要件を満たせば、老人ホームに入った方の自宅にも、この特例が適用できるようになりました。

 

【老人ホームに入っても自宅に小規模宅地等の評価減を使える場合】

①要介護認定又は要支援認定を受けていた人が次の施設等に入所していた場合

A.認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム又は有料老人ホーム

B.介護老人保健施設

C.サービス付き高齢者向け住宅

 

②自宅を賃貸など他の用途に使用していない場合

賃貸に出せば相続税の節税効果も見込める

自宅が地価の高い場所にあるなどの理由で、高い相続税が見込まれる場合、この特例が使えるのであれば、売却や賃貸などせず、そのまま保有し続けることで自宅の土地の評価が8割引きになり、相続税の節税効果が見込めます。

 

しかし、「介護が必要とまではいかないけど、先々のことを考えて老人ホームに入っておいたほうがいいかも」というような親御さんもいらっしゃるでしょう。その場合、要件の①を満たせないと、特例の適用はむずかしいかと思います。

 

そんな時は自宅を賃貸に出すということも検討してみてはいかがでしょうか(自宅に特例の適用が受けられる方も是非検討してみてください)。というのも、自宅を賃貸に出した場合も、相続税の節税効果があるのです。

 

先に少し触れましたが、賃貸に出した不動産は、借りた相手に借地権や借家権という権利が発生するため、相続税の評価において、建物が3割引き、土地がおおむね2割引きとなります。その上、賃貸の場合も「小規模宅地等の評価減」を受けることができ、200㎡までは5割引きになるのです。

 

つまり、土地は、2割引きの上、さらにそこから5割引きになるので、トータルで6割引きとなる可能性があるということ。しかも、賃貸に出せば家賃も入ってくるといううれしいおまけつきです。

売却しないほうが相続税が安くなる可能性が高い

ではもう一つの選択肢、もし「売却したらどうなるのか」について考えてみましょう。これも先に説明した通り、不動産の相続税評価額は、実際の売買価格よりも低くなる傾向にあります。つまり高額な相続税がかかる場合は、売却して現金で持つよりも、不動産で持っていたほうが相続税は安くなるはずです。

 

その上、「小規模宅地等の評価減」のような特例が受けられるのであれば、売却しないほうが、相続税が安くなる可能性は高いと言えます。とはいえ、不動産を現金化したことで、その現金を使って生前贈与をしたり、生命保険に入ったりすることで、別の方法での節税効果を期待することはできます。

 

「結局、賃貸と売却、どちらが有利なんだ?」とお知りになりたい方がいるかもしれませんが、すみません。答えはケースバイケースです。

 

どのくらいの財産を持っているのか、賃貸に出した場合どのくらいの賃料が見込めるのか、売った場合はいくらになるのかなどなど、しっかり確認してみないと答えは出せないのです。そうです。大事なのは、どちらが有利か検討してみるということなのです。

 

「特例のことを知っていれば、自宅を売らなくて済んだのに・・・」と後悔される相談者の方をたくさん目にしてきました。自宅は大きな財産ですから、その扱いについては、しっかり検討する必要がありますね。

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    本連載は、2016年6月20日刊行の書籍『相続はつらいよ』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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