法定相続人が多いほど安くなる日本の相続税
セミナーをしていた時の休憩時間、60代と思おぼしきPさんという男性が、「先生ちょっと」と話しかけてこられました。
「先生、相続税対策には養子縁組がいいと聞いて、長男の息子(お孫さん)を養子にしたんだけど、それが他の子どもたちにバレてしまって・・・。自分の子どもも養子にしてほしいと大騒ぎになってしまったんですよ」
Pさんによると、彼には長男・長女・次女の3人のお子さんがいるのですが、長男に多く財産を相続させたい気持ちがあったことから、他の子どもたちに内緒で養子縁組を行ったとのこと。
確かに養子縁組は相続税の節税に役立ちます。日本の相続税は、法定相続人が多いほど相続税が安くなる仕組みになっているからです。そして、養子縁組された養子は、法定相続人の数にプラスされるのです。
相続税の課税ライン(基礎控除額)は、〈3000万円+600万円×法定相続人の数〉で計算します。
つまり、法定相続人が1人増えるごとに基礎控除額が600万円増える計算になります。それ以外にも、相続税の計算過程で、法定相続人が多いほど、かかる相続税が安くなるような計算になっています。
また、生命保険金の非課税枠と退職金の非課税枠も、法定相続人が多いほど増えます。非課税の枠は〈法定相続人の数×500万円〉。つまり、法定相続人が1人増えるごとに非課税になる金額が500万円増えるということです。
法定相続人の数に含められる養子は2人まで
それなら、このPさんも、他の孫も養子にしてあげればいいんじゃないの? と思いますよね。もうこうなったらまとめて、孫全員を養子にしちゃえばいいじゃない! 人孫がいたら10人とも養子にすれば、すごい節税になるはず!
でも、そうは問屋が卸しません。国だって、そのあたりちゃんと考えています。民法では、養子縁組した人はみな養子として認められますが、相続税法では、相続税を計算する上で法定相続人の数に入れられる養子の数は制限されています。具体的には、実の子がいる場合は1人まで、実の子がいない場合でも2人までしか養子を法定相続人の数に含めることができません。
となると、養子10人はとても厄介な事態を招くだけになってしまいます。相続税の節税に役立つのは多くて2人までなのに、財産をもらえる人は10人も増えてしまう。ただでさえむずかしい遺産分割がなおさら複雑になってしまいかねません。Pさんも、長男の息子以外の孫たちを養子にすれば、そういう事態になりかねないと心配していたのです。
でも、はっきり申し上げて、他の子に内緒で長男の子だけを養子にした時点で、もめごとになることは目に見えていたと思いませんか。そんなこと、いつまでも秘密にしておけるはずがありません。
同じように、養子縁組で困った思いをした人がいます。先日お会いしたQさんは、相続税対策のために、両親がQさんのご主人を養子にしたといいます。しかし、数年後Qさんはご主人と離婚してしまいました・・・。
婚姻関係は、離婚届を出すことで円満解決しましたが、婚姻と養子縁組は別物です。Qさんの両親との養子縁組解消を、元ご主人は拒み続けたといいます。その問題の決着がつく前にQさんのお父様が亡くなり、Qさんの元ご主人は法定相続人として相続権を主張してきたそうです。結局モメごとになるのを恐れたQさんのお母様が、いくばくかの財産を渡した、とQさんは悔しそうに話していました。
このように、養子縁組はモメごとの種になりやすい側面があります。節税を追い求めるあまり、かえって大変な思いをすることのないよう、注意をしていただきたいと思います。