女性のデリケートゾーンがかゆくなる原因は?
女性のデリケートゾーンは、医学的には外陰部と呼ばれる部分になります。外陰部は、通常の皮膚よりも薄いため、刺激物に対して弱く、様々な反応が出やすいです。そのため、他の皮膚よりも不調を来しやすくなります。
デリケートゾーンにかゆみを引き起こす原因は大きく2つあります。炎症性皮膚疾患と呼ばれるものと、感染症です。
<炎症性皮膚疾患の場合>
炎症性皮膚疾患には、硬化性苔癬(たいせん)、扁平苔癬(へんぺいたいせん)、乾癬(かんせん)、外陰部皮膚炎などがあります。
簡単な区別としては、細かい発疹が集まり皮膚が硬くなった状態を示すのが扁平苔癬や硬化性苔癬、銀色の鱗屑(りんせつ。粉のようなものが出てくること)を伴う境界明瞭な鮮紅色の隆起病変を示すのが乾癬、広い紅斑を示すのが外陰部皮膚炎となります。
<感染症の場合>
感染症には、外陰膣カンジダ症、一般細菌による皮膚炎、細菌性膣症、トリコモナス性感染症が含まれます。一般細菌による皮膚炎以外は、膣内のかゆみ、おりものの異常が症状のメインとなり、デリケートゾーンの症状は付随的なものではあります。しかし、必ずしも典型的な症状を来すとは限らず、特に外陰膣カンジダ症ではデリケートゾーンの症状のみとなることもあります。
簡単な区別としては、随伴症状として白く塊状のおりものを示すのが外陰膣カンジダ症、膿を伴うのが一般細菌による皮膚炎、随伴症状として悪臭を伴い黄緑色のおりものを示すのがトリコモナス性感染症、随伴症状として悪臭を伴い灰色のおりものを示すのが細菌性膣症となります。後述しますが、疾患の区別が難しく、混合感染のこともあり、間違って異なる治療薬を使用すると悪化するため、注意が必要です。
原因別「感染症によるかゆみ」のポイント
外陰膣カンジダ症は、常在菌のカンジダというカビが過剰増殖し、デリケートゾーン・膣に炎症を引き起こすものです。症状としては、デリケートゾーン・膣におけるかゆみ・痛み、性交痛、紅斑、白い塊上のおりものを来します。
一般細菌による皮膚炎は、多くは外陰部皮膚炎に併発し、かゆいところを引っかくことでできた傷において、常在菌であるブドウ球菌や連鎖球菌が増殖し、炎症を引き起こすものです。症状としてはデリケートゾーンにおけるかゆみ・痛み、膿を来します。
細菌性膣症は、常在菌のガードネレラ・バギナリスという細菌が過剰増殖し、膣を中心に炎症を引き起こすものです。症状としては、悪臭を伴う灰色のおりものが中心で、膣やデリケートゾーンのかゆみを引き起こすこともあります。
トリコモナス性感染症は、トリコモナス・バギナリスという原虫によって引き起こされます。今まで述べた性器感染症と違い、性感染症であり、伝播していきます。また、不妊やガン、出産時のトラブルとも関連します。症状としては、膣やデリケートゾーンのかゆみ・痛み、性交痛、性交後出血、紅斑、黄緑色のおりものを来します。
ただし、これらの症状はあくまで“目安”に過ぎません。たとえば、トリコモナス性感染症において、典型的な症状を来していたのは11-17%と報告されています(※1)。また、外陰膣カンジダ症と自己診断した方に対して、実際に検査で診断した結果、正しく診断できていたのは11-35%であったと報告されています(※2)。
以上より、性器感染症によるデリケートゾーンのかゆみに対して、症状だけで性器感染症の区別をすることは困難です。性器感染症の種類により使用する薬剤は異なり、顕微鏡検査等による、“正しい”診断が必要です。
「デリケートゾーンのかゆみ」に市販薬は使える?
性器感染症によるかゆみに対する市販薬としては、外陰膣カンジダ症に対する膣錠・クリームのみが薬局で売られています。しかし、上述したように、外陰膣カンジダ症と自己診断できる確率は低いです。実際はトリコモナス性感染症や細菌性膣症であるのに膣錠やクリームを使用してしまった場合、問題のないカンジダを減らすこととなり、その分、これらの菌が増えてしまい、症状が悪化します。また、混合感染しているケースも多く、その場合も、治療しない菌があると、その菌が増え症状が悪化してしまいます。
実際に診療している感覚としては、デリケートゾーンのかゆみにおいて、外陰部皮膚炎の関与が多いと感じています。外陰部皮膚炎に対して有効性が高いのはステロイドですが、市販薬には含まれておらず、注意が必要です。
デリケートゾーンがかゆいときの適切な対処法
これまで述べてきたように、性器感染症によるデリケートゾーンのかゆみは自己診断が難しいことから、専門の病院において顕微鏡検査で確定診断を行ってから治療を実施する必要があります。また、特に細菌性膣症の顕微鏡診断は難しく、行っていない病院もあるため、適切な病院を見極めることが重要です。
加えて、デリケートゾーンのかゆみの原因は外陰部皮膚炎であることも多いです。外陰部皮膚炎において有効性の高い治療薬であるステロイドは感染症を悪化してしまう可能性があり、使用するには、性器感染症の併発を確実に確認しておく必要があります。以上、様々な考慮が必要であり、デリケートゾーンのかゆみに悩まれた場合、デリケートゾーンの疾患全般に精通している病院への受診をお勧めします。
まとめ
性器感染症がデリケートゾーンのかゆみを引き起こすことがありますが、自己診断は困難です。外陰部皮膚炎を中心とした炎症性皮膚炎もあり、より適切な診断が求められます。また、デリケートゾーンにかゆみを引き起こす性器感染症の1つであるトリコモナス性感染症は、自然治癒することはなく、放置すると不妊・ガン・出産時のトラブルといったリスクを上げてしまいます。以上より、市販薬に頼りすぎず、病院を受診することが必要です。
【参考文献】
世界で最も信頼性のあるメタアナリシス(様々な研究・文献を統合して判断すること)エビデンスの1つであるUpToDate(https://www.uptodate.com)をエビデンスとして記載しております。
1) Landers DV, Wiesenfeld HC, Heine RP, Krohn MA, Hillier SL. Predictive value of the clinical diagnosis of lower genital tract infection in women. Am J Obstet Gynecol. 2004 Apr;190(4):1004-10.
2) Ferris DG, Dekle C, Litaker MS. Women’s use of over-the-counter antifungal medications for gynecologic symptoms. J Fam Pract. 1996 Jun;42(6):595-600.
北岡 一樹
医療法人社団予防会新宿サテライトクリニック 院長
早稲田大学ファージセラピー研究所 招聘研究員
三重大学医学部卒業。臨床研修後、名古屋大学で様々な薬剤耐性菌研究に携わり、博士(医学)取得。その後、早稲田大学で招聘研究員として研究しながら、医療法人社団予防会新宿サテライトクリニックで性感染症診療も開始(淋菌感染症・細菌性膣症が専門領域)。基礎医学と臨床医学を繋ぐ、研究医かつ臨床医であることを目指し、現在は新規感染症治療法(ファージセラピー)実現の研究に注力している。
ヒト感染症だけでなく、犬や猫の感染症も研究対象とし、犬猫の感染症研究費を集めるクラウドファンディングも実施して成功を収めた。
また、医療情報の発信も予防会のコラムに加えて、クラウドファンディングをきっかけとして各種SNSで行っている。
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