前回は、相続人の一部に「遺留分の事前放棄」をしてもらう方法を紹介しました。今回は、遺言書の「付言事項」で自分の思いを伝える方法を見ていきます。

愛する人が残した「最後の言葉」は・・・

付言事項では、やはり、配偶者や子供など愛する人たちへの率直な思いを何らかの形で伝えておくことが望ましいでしょう。

 

その際に、参考になるかもしれない著名人のエピソードを紹介しておきましょう。

 

「空に太陽がある限り」などのヒット曲で知られる歌手、錦野旦さんの前妻で女優の武原英子さんが亡くなられた時に残したメッセージです。

 

錦野旦さんは、ご存じのように、1970年に日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞し、一躍、スターの地位を獲得した後、思いも寄らぬスキャンダルに巻き込まれるなどしたため、長い不遇の時代を経ることになりました。その間、武原さんが錦野さんの再起を信じ、支え続けたことが、「スター・ニシキノ」の復活劇へとつながったのです。

 

そのような深い愛情で結ばれた2人を悲劇が襲ったのは、1995年のことでした。武原さんは乳がんを患っていることが発覚し、医師に全摘手術を勧められましたが、乳房を失うことを恐れて拒否し、漢方治療などを行ったものの、瞬く間にがんが広がり、全身に転移してしまったのです。

 

1996年12月に50歳で武原さんが亡くなった際、錦野さんに残した最後の手紙には「私は世界一幸せな女です」というメッセージが記されていたそうです。

残された人たちに引き継がれていく「故人の思い」

男性にとってこれほど嬉しく、グッとくる言葉はないでしょう。恐らく最愛の妻を失った悲しみ、苦しみを錦野さんはいくらかなりともこの言葉によってやわらげることができたはずです。

 

このように、故人が残した思いは何らかの形で残された人たちにも引き継がれていくことになります。それが残された人の新たな、しかも前向きな方向へと向かう人生のステップにつながるきっかけともなるでしょうし、さらにはその人が社会に働きかけていくという形で、社会が動き変化していくことに結びつくことになるかもしれません。

 

人の思いは、そのような意味で、残された人たちに伝えられることによって、この世界に生き続けていくことになるのです。

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『相続争いは遺言書で防ぎなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続争いは遺言書で防ぎなさい

相続争いは遺言書で防ぎなさい

大坪 正典

幻冬舎メディアコンサルティング

相続をきっかけに家族がバラバラになり、互いに憎しみ合い、ののしり合う──。 故人が遺言書を用意していない、あるいはその内容が不十分であったために、相続に関するトラブルが起こってしまうケースは数多く存在していま…

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