(※写真はイメージです/PIXTA)

民法には、他人のものであっても、数年間にわたって「自分のモノだ!」と信じて占有してきたモノを手に入れられる「取得時効」というルールがあります。これを不動産に当てはめると、本来は借家なのに、借家人が「自分の持ち家」と思い込んで暮らし続ければ、大家からその住宅を奪うことができる…というわけです。借家人には好都合、しかし大家には恐ろしすぎる取得時効について、事例を交えて解説します。

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    取得時効の本来の役割とは?

    1873年(明治6年)の地租改正により日本の土地は区分され、納税義務とともに「土地所有権」という概念が確立されました。土地には個別番号(地番)が付けられ、隣り合う地番同士の位置関係がわかる程度の地図(公図)と、土地所有者を示す登記簿、土地台帳が作られました。

     

    その後の震災や戦争によって土地の境界がわかりにくくなったため、昭和30年代に入り土地台帳と登記簿が一元化され、土地の分筆や面積修正(地積更生)の登記を行う場合は「地積測量図」の添付が義務付けられるようになりました。

     

    しかし当時の測量図は手書きで不明瞭、加えて現地の境界杭は大工職人等が「邪魔だ」と移設してしまうこともしばしば…。実はこういった古い地積測量図や境界杭が今もなお不動産取引で有効とされているのです。

     

    このように古く信頼性の低いエビデンスであっても残っていれば良い方で、それさえ残っていない土地・建物はたくさんあります。そういった“迷子不動産”のために取得時効制度はあるのです。

     

    不動産の持ち主を決めるには裁判が必要です。裁判にはエビデンスを提示する必要があります。ちなみに宅建業法では「従業員名簿は10年、売上帳簿は5年」の保管が義務付けられていますが、それ以降は廃棄可能です。

     

    一般企業においても20年以上保管される書類はなかなかありません。ましてや個人、それも高齢者であれば、20年以上前に約束した不動産の貸借、または売買の記録を手元に携えておくことなど大変難しいことです。取得時効はそういった善意の弱者を救うためにある法律なのです。

    真実の所有者は、エビデンスで守られる

    前述の通り、取得時効に関わる裁判を起こす際はエビデンスが必要となります。そして以下のようなエビデンスが残っていた場合、不動産占有者の取得時効成立は難しくなります。

     

    ●賃貸借契約書

    ●使用貸借契約書

    ●毎月家賃の支払い履歴(預貯金通帳の送金・着金記帳等)

     

    一方、以下のようなエビデンスがあれば取得時効は成立しやすくなります。

     

    ●売買契約書

    ●無償譲渡契約書

     

    誰に所有権があるかが明確に記載されたエビデンスがあれば、真実の所有者が第三者に不動産等の資産を奪取される危険性は大幅に低くなります。

    まとめ

    他人の不動産を「自分の持ち家」と思い込んで暮らし続ければ、数年後には本当に自分のモノにできる「取得時効」という法律があります。

     

    取得時効には、他人のモノと知りつつも所有の意志を持って20年間占有し続けることで所有権が得られる「長期取得時効」と、他人のモノとは知らず所有の意志をもって10年間占有し続けることで所有権が得られる「短期取得時効」があります。

     

    不動産に関わる取得時効紛争は、隣地境界や相続不動産など身近なところで起きています。当事者が高齢になり、記憶や記録が残っていない不動産も多いため取得時効紛争は混戦します。

     

    しかし賃貸借契約書や売買契約書といったエビデンスがあれば、真実の所有者が第三者から不動産を奪取される危険性は低くなります。

     

    ※本連載は、『ライフプランnavi』の記事を抜粋、一部改変したものです。

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