(※写真はイメージです/PIXTA)

不動産の決済・引渡し当日、まれに残代金の支払いトラブルが発生することがあります。仲介を任された不動産業者は万全を期したものの、売主・買主側に事前手続きの不備があれば、授受が成立せず、引渡しも延期せざるを得ません。このような想定外のトラブルを防ぐため、当事者が事前にチェックすべきポイントを説明します。

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    売買代金の支払い方法は、3パターンから選べるが…

     

    まず、一般的な不動産売買契約書に記載されている売買代金の支払いルールをおさらいしてみましょう。

     

    買主は、売主に対し、売買代金として、内金、残代金を、表記各支払日までに現金(振込送金を含む)または預金小切手をもって支払います。

     

    (一般的な不動産売買契約書より抜粋)

     

    この文面を読むと、買主は売買代金の支払い方法として「現金」「振込送金」「預金小切手」の3パターンから選べることがわかります。よくあるのは「内金(手付金)は現金、残代金は振込送金(振込)」というパターンです。

     

    手付金は売買代金の一割程度と少額なので現金で用意しても手間や負担は少ないでしょう。一方、残代金は数百~数千万円の大金になるので持ち運びや枚数確認が大変です。そのため、残代金の支払いは振込で行われることが多いのです。

     

    少数派ですが、預金小切手(預手)での支払いも可能です。預手は銀行に「当座預金口座」を持っている企業や個人事業主が利用できます。当座預金口座は決済支払い専用にお金を預ける口座のため利息は付きませんが、万一口座のある銀行が破綻しても預金は全額保護されます。

     

    預手には口座名義人が自由に金額を記入できます。たとえ口座にお金がなくても、支払い日を先延ばし(先日付小切手)にして発行できます。しかし、これでは決済当日の残代金受領と認められないため、預手はあまり使われません。

    決済時の支払いトラブル事例

     

    決済時は、当事者の誰もが想定していなかったさまざまなトラブルが発生するものです。その中で最も深刻なのが残代金支払いに関わるトラブルです。

     

    仲介を請け負う不動産業者は、売主・買主に対して細かに注意喚起しながら万全の準備を行いますが、時にはどうにもならない事態が起こってしまいます。

     

    ◆残代金が「振込上限額」を越えていた

    売主Aさんは、収益マンションを1,500万円で売却する契約を買主Bさんと交わしました。手付金の30万円はBさんのネット銀行口座から振込済みなので、決済・引渡し時にAさんが受け取る残代金は1,470万円になります。

     

    ネット銀行はとても便利です。銀行の窓口へ行かなくてもパソコン上で振込手続きができますし、何より着金確認がスピーディです。そのためBさんは残代金の支払いもネット銀行口座から行うつもりです。

     

    購入資金の一部(1,200万円)はローンで賄うため、決済当日はローン借入先(ノンバンク)からBさん口座に1,200万円が入り、そこからAさん口座へ1,470万円を送金する段取りでした。

     

    決済前日の日曜日、Bさんは大変なことに気が付きます。ネット銀行には「1日あたりの振込上限額」という設定があり、Bさんの口座を確認するとそれが「1,000万円」になっていたのです。これでは明日の決済で1,000万円を超える残代金の送金ができません。

     

    ネット銀行のホームページを確認すると、振込上限額の変更(金額アップ)はネット上ではなく書面での申請が必要で、手続きに1日以上かかるとあります。振込で足りない分は現金で用意すればよいのですが、470万円もの大金は手配できません。他方、ローン借入先に電話を入れますが、日曜定休のため連絡がつきません。

     

    一般的なネット銀行口座には1日あたりの振込上限額が設定されています。これはメール・SMSを介したフィッシング詐欺等の被害から預金を守るための対策です。

     

    各行により設定額はさまざまで、慎重なところは1日あたり10万円(口座開設初期値)、上限額を上げても最高1,000万円までとしています。その他、定期的な送金実績がある口座(登録振込先)なら上限2,000万円まで、新規送金先の場合は上限500万円までとしているところもあります。

     

    そしてほとんどのネット銀行において「1,000万円を超える振込の場合は実店舗窓口での相談・手続きが必要」で、振込上限額解除までのタイムラグは「手続き後翌日以降」となっています。

     

    決済当日の早朝、Bさんはローン借入先の実店舗へ駆け込んで対処法の相談をします。そこで、借入金の振込先をBさんのネット銀行口座でなくAさんの指定口座へ直接振り込むこともできる旨説明を受けました。

     

    1,200万円は司法書士の本人確認完了を合図にAさん口座へ振り込まれ、並行してBさんのネット銀行口座からも270万円が振り込まれ、この日の決済・引渡しは大事に至ることなく完了しました。

     

    ◆銀行の現金ストックが足りない

    売主Cさんは自宅マンションを3,000万円で売却する契約を買主Dさんと交わしました。手付金の300万円は契約時にDさんから支払われているので、決済・引渡し時にCさんが受け取る残代金は2,700万円になります。

     

    決済場所はDさん側の仲介不動産会社です。Dさんは全額自己資金で購入するため、決済場所の近くにあるDさんのメインバンク(都市銀行)から残代金を振り込もうと考えていました。

     

    しかし、当日になってCさんが「新居のリフォーム費用を支払う関係で、残代金は現金でいただきたい」と言い出したのです。Dさんは「大金だが、何とかなるだろう」と現金2,700万円の払い出しをメインバンクに依頼したところ、「当支店には現金の用意がございません」と、近隣にある別の支店で相談するよう言われました。

     

    前述の通り、買主から売主への残代金支払いは振込が一般的ですが、たまに売主から全額現金払いを求められることもあります。そういった高額現金の払い出しが必要となった場合、買主はメインバンクに事前相談しておく必要があります。

     

    ちなみに銀行1支店あたりの現金ストックは地方銀行で数百万円程度、都市銀行でも数千万円程度しかありません。これは銀行強盗対策のほか、現金ストック額次第で掛金が変わる損害保険金の節減も影響しているのでしょう。

     

    加えて、昨今増えている「なりすまし詐欺」防止のため、高額現金を引き出す口座名義人(Dさん)の本人確認も慎重になります。ある都市銀行では、「200万円を超える大口の現金による取引がある場合、氏名・住所・生年月日と取引を行う目的・職業の確認、本人確認書類(原本)の提示」を求めています。

     

    このように、身分証明書等の確認に留まらず、現金使用目的についても細かに質問され、それらの内容を元に銀行内部で審議が行われ、決議までに長い時間がかかります。

     

    幸い、近隣にある別の支店には現金ストックがあったため、Dさんは残代金を全額引き出すことができましたが、本人確認には数時間かかってしまいました。その上、現金は「口座名義人ご本人にしかお渡しできません」とのことで、Dさんは紙袋に入った現金を恐る恐る運ぶ羽目になりました。

    まとめ

     

    不動産の決済時にはさまざまなトラブルが想定され、特に重大なのは残代金支払いのトラブルです。

     

    残代金の支払いには「現金」「振込送金」「預金小切手」の3つの方法があります。通常は振込送金で行われますが、売主が現金払いを望むこともあるので、その際は銀行に事前相談しておいた方が良いでしょう。

     

    また、最近利用者が増えているネット銀行も要注意です。1日当たりの振込上限額が低いと残代金の振込ができず、決済・引渡しがご破算になってしまいます。このようなトラブルを回避するには、決済の数日前までに売主が望む支払い方法や、買主のメインバンクを確認しておくことが必要です。

     

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    ※本連載は、『ライフプランnavi』の記事を抜粋、一部改変したものです。

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