(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●ニューヨーク連銀は9月8日に新たな文書を公表し、QTが計画比遅れている理由を詳しく解説した。

●財務省証券の減少は物価連動債の物価調整で抑制され、MBSは市場慣行で保有額が増加へ。

●今後MBSの減少は計画に近づき金融環境も引き締まろう、物価抑制の成否が株価安定のカギ。

ニューヨーク連銀は9月8日に新たな文書を公表し、QTが計画比遅れている理由を詳しく解説した

9月8日付レポートでは、米連邦準備制度理事会(FRB)が6月から開始した量的引き締め(QT)について、3ヵ月経過したところでの進捗状況を確認しました。計画では、当初3ヵ月累計で、財務省証券は900億ドル減、政府機関債と住宅ローン担保証券(MBS)は合わせて525億ドル減となる予定でしたが、実際は、財務省証券が744億ドル減、政府機関債とMBSは合わせて18億ドル増(政府機関債は金額不変)という結果でした。

 

この理由について、これまでFRBから正式な説明はなく、政府機関債とMBSの一般的な特性(取引の決済と元本支払いのタイミングが異なるため報告される保有額も変動する点)が、ニューヨーク連銀のホームページで説明されているだけでした。しかしながら、9月8日に、「The “How and When” of the Fed’s Balance Sheet Runoff」という文書がニューヨーク連銀から公表され、QTの遅延理由が詳しく解説されました。

財務省証券の減少は物価連動債の物価調整で抑制され、MBSは市場慣行で保有額が増加へ

以下、主なポイントをみていきます。まず、財務省証券について、文書ではその保有額の減少を妨げる要因として、「物価調整」を挙げています。これは、物価の上昇率に応じた物価連動債の元本増加分であり、このところの物価上昇で、物価調整の金額が増加したと説明しています。財務省証券は、この物価調整を含んでいるため、これを除けば、3ヵ月累計の減少額は744億ドルから875億ドルとなり、計画の900億ドルに近づきます。

 

次に、MBSについて、金額が増加したのは、MBS取引の市場慣行によるものとしています。例えば、MBSを再投資した場合、元本の受け取りから、資金決済(FRBのバランスシート計上)まで、3ヵ月もの遅れが生じる可能性があると指摘しています。そのため、QT開始から最初の数ヵ月は、QT以前に再投資したMBSの金額が遅れてバランスシートに計上され、保有額の増加につながったと解説しています。

今後MBSの減少は計画に近づき金融環境も引き締まろう、物価抑制の成否が株価安定のカギ

実際、QT開始以降の財務省証券とMBSの残高変化の推移を比較すると、その違いは明らかで、MBSの残高が減っていないことが分かります(図表1)。ただ、今回ニューヨーク連銀が公表した文書で、その理由は明確になりました。なお、文書では、9月からMBSの再投資が停止され、MBSの毎月の減少額は数ヵ月後、計画された上限額により近くなり始めるとしています。

 

 

米国の金融環境は、大幅利上げやQT開始を受け、緩和の度合いは修正されつつありますが、まだそれほど引き締まった状態ではありません(図表2)。ただ、QTに関し、今月から保有資産の縮小上限額が月950億ドル(財務省証券が月600億ドル、政府機関債とMBSが月350億ドル)に倍増するため、もう一段の金融環境の引き締まりが予想されます。これによる早期インフレ抑制の成否が、株価安定のカギを握ることになると思われます。

 

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米の「量的引き締め」がやや遅れている理由【ストラテジストが解説】』を参照)。

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

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