日本の社会システム…「専業主婦優遇説」は誤解
昭和時代は圧倒的多数だった「専業主婦」だが、近年では減少の一途をたどっている。
増加の背景には女性のキャリア志向もあるだろうが、「共稼ぎでないと、そもそも家計が回らない」という厳しい実情もあるだろう。
そんななか、専業主婦には、一部厳しい視線を向ける人たちもいる。「専業主婦は社会保険料を払わずに年金をもらえるなど、優遇され過ぎている」という意見による。
では、実際のところどうなのであろうか。
専業主婦の場合、本人の収入0(あるいは基準以下)で、配偶者が厚生年金に加入していれば、自分で保険料を払う必要はない。国民年金は、20歳以上の日本国籍を有する者に加入の義務があり、令和4年度(令和4年4月~令和5年3月まで)は月額16,590円を納めるわけだが、配偶者が代わりに払っているようには見えない。したがって、「優遇されている」と思われても仕方がないかもしれない。
公的年金の被保険者だが、自営業等=第1号、会社員や公務員=第2号、そして第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者=第3号に分かれており、第3号被保険者の保険料は、配偶者が加入している厚生年金や共済組合の制度全体で負担する仕組みになっている。
そこから「共働きは、ふたりとも保険料を払っているのに!」という怒りの声が生じるわけだが、実は誤解がある。日本の年金制度は「1人当たりの賃金」が同じなら、年金額は同じなのである。単身・片働き・共働きいずれも同様だ。
厚生労働省が示すモデル、「平均的な月額賃金(賞与込み年収の月額換算)44万円×40年働いた場合」を見てみよう。
会社員の夫と専業主婦の場合、夫の月収が44万円であれば「1人あたりの賃金=22万円」となる。年金については、国民年金は2人で6万5,000円、厚生年金は会社員の夫の分で9万円。合計22万円で、1人あたり11万円だ。
次に会社員の夫と会社員の妻の場合。1人あたりの月収は22万円で、世帯では合計44万円。年金は、国民年金が6万5,000円、厚生年金が4万5,000円で合計11万円。夫婦で年金22万円、1人あたりは11万円。
単身者の場合。「1人あたりの賃金が同じなら」であるため、月収は22万円。年金も国民年金が6万5,000円、厚生年金が4万5,000円で合計11万円となる。
つまり、「1人当たりの賃金」が同じなら受給される年金額は同じ。専業主婦が優遇されているというわけではない。
103万円の壁・130万円の壁が、女性の就労の足かせに
それとは別に「専業主婦の優遇」の根拠とされるのが「103万円の壁」「130万円の壁」である。
専業主婦の給与所得が103万円以下であれば所得税はかからず、夫の給与収入が1,095万円以下であれば、夫は満額38万円の配偶者控除が受けられ、その分所得税が安くなる。また、給与所得が130万円に満たなければ、妻は夫の扶養でいることができる。一方、給与所得が103万~130万円なら、世帯年収が増えるメリットがあるが、所得税がかかってしまう。だが、それでも夫の扶養でいられるため、自分で保険料を支払う必要はない。
つまり、100万円程度の給与所得なら、扶養の範囲内で給与はそのまま収入となる。そのメリットが注目され、「専業主婦優遇論」が叫ばれるのだろう。
だが、年収が基準を超えた途端、社会保険料の負担は増し、しかも、年収103万円以下ではさほど家計の足しにならない。
収入確保の面からは、壁を気にして仕事をセーブするより、扶養を外れるほど稼いだ方がずっといい。「103万円の壁」「130万円の壁」が、女性の平均給与の押し下げの一因となっているとの声もある。
最近では、扶養を外れるほど稼いだ方が、家計にとってずっとプラスになると判断し、仕事に注力する女性も増えている。
1980年には専業主婦世帯は1,114万世帯で、共働き世帯は614万世帯だったが、1992年に逆転。1997年以降は共働き世帯優勢となり、その差は拡大し続け、2021年には、専業主婦世帯566万世帯に対し、共働き世帯は1,247万世帯となっている。
国も女性の就労を後押ししており、厚生年金の適用拡大という措置を取っている。従業員501人以上の企業を対象に、週20時間以上30時間未満の短時間労働でも厚生年金の対象になり、2024年10月からは従業員51人以上の企業へと拡大する。
「専業主婦」はすでに過去のものとなり、いまは男女が肩を並べてひたすら働き、ようやく家計が維持できる、そんな時代となったのである。
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