「勝ち組サラリーマン」を待ち受ける、老後生活のワナ
厚生労働省の「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金保険(第1号)受給者の平均年金月額は、老齢年金で14万6,145円。標準報酬月額の平均は31万3,000円となっている。しかし、年収1,000万円を超える給与を得ていた「エリートサラリーマン」であれば、月30万円を超える年金を受給しているケースもある。
中央労働委員会『令和元年賃金事情等総合調査』によると、定年退職による平均退職金は1,213万8,000円。さらに満額勤続した場合の定年退職金は、大卒で2,289万5,000円、高校卒で1,858万9,000円である。ここで取り上げている年収1,000万円超のエリートサラリーマンなら、退職金が2,000万円超のケースも多いだろう。
ここで取り上げたエリートサラリーマンの場合、「現役時代の給与・退職金・年金額」の数字を見れば、いずれも平均を大きく上回る「勝ち組」といえる。
しかし、いくら平均よりも高い年金を得ていたとしても、定年を迎えてリタイア生活に移行すれば、投資用不動産でも保有していない限り、現役時代と同等の収入を確保することは難しい。世間の平均以前の収入があっても、「過去の自分」と比較したうえで、生活レベルをダウンさせないと、老後生活の運営は厳しくなってしまう。現役時代より明確に収入が下がっているのに、これまでと同じ生活をしていては、じきに行き詰ってしまうだろう。
バブル経験者は、贅沢な生活が忘れられず…
定年退職したサラリーマンに対してしばしば注意喚起されるのが、退職金による投資デビューだ。これまで投資とは縁遠かったにもかかわらず、まとまった現金を手にしたことで、金融機関からの誘いが増え、勧められるままに手数料の高い、お得とは言い難い商品に大金をつぎ込んでしまう人もいる。
もうひとつは、定年まで頑張った自分への「過剰なご褒美」だ。ここ数年はコロナ禍で海外旅行は下火だが、豪華な旅行、贅沢な車などに大枚をはたいてしまう。
定期的な外食や毎日の買い物なども、ちょっとしたこだわりや贅沢が積み重なれば、生活を圧迫する。いま定年退職して年金生活にシフトしているのは、バブルのうまみを知っている世代だ。若いときの贅沢が忘れられず、食事や住環境にこだわりを持つ人も多い。
このような日々を過ごすことで、いつの間にか大切な資産が目減りしてしまうのである。
年齢を重ねれば、リスクとして真っ先にあがるのが自身や配偶者の健康問題だ。日本には医療保険・介護保険が整備されているが、治療やサービスを受けるための金額の負担割合は、収入を基準に定められている。当然、収入が多ければ負担額も大きくなり、また、継続的な治療が必要な病気にかかれば、その間ずっと治療費の支払いが発生する。年齢を重ね、整形外科的な問題や認知症等で介護施設への入所が必要になれば、その費用も必要だ。
自分の健康には注意を払うべきだろうだが、だからといってすべての病気を遠ざけられるわけではない。運や遺伝といった、本人にはいかんともしがたい要素もある。
相続でヘタを踏み、将来のリスクを背負い込む人も
上記は、いずれもサラリーマンとして自ら得てきた収入・築いた資産について述べてきたが、退職金以外にまとまった資産を手にする機会がある人もいる。相続だ。
50代になると、そろそろ相続問題が心配になってくる。いまの中高年の親世代は、自宅を保有している人が多く、また、普通預金・定期預金を積み上げているなど、まとまった資産を保有している人が珍しくない。
しかし、相続の際にしっかりと先を見越した遺産分割をしないと、手元に資金が残らないだけでなく、延々持ち出しが必要になるなど「マイナス資産化」のリスクがある点にも要注意だ。
よく問題になるのが、相続人同士による「不動産の共有」である。親の家や保有する収益物件を、「きょうだい全員の所有物」とするのだ。一見、平等でよい選択のように思えるかもしれないが、年月の経過にともない、相続人同士の事情が変わることでトラブルになる、名義人が亡くなって名義人の配偶者や子が権利を相続するなど、所有権が複雑化するリスクもある。
なかでも、親から「先祖代々の土地を頼む」などと遺言された場合、使命感に駆られ、活用のめどが立たない地方の実家や山林等、延々と費用をかけて維持し続けるといったことも起こりがちだ。思い出のある土地かもしれないが、冷静に費用対効果を考え、早い段階で売却するといった決断も必要である。
平均を大きく上回る給与・年金がある「勝ち組」でも、金融リテラシーが欠如し、底抜けのバケツのような金銭感覚では、じり貧は必至だ。
自分の生活を守るためにも、状況に見合った金銭感覚への軌道修正と、費用対効果を厳しく見た資産管理を行うことが、なにより望ましいといえる。
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