(※写真はイメージです/PIXTA)

歯の疾患は「口の中だけの問題」ではありません。たとえば歯周病は糖尿病、誤嚥性肺炎、心疾患など全身疾患に悪影響を及ぼすことが分かっています。このことから金子泰英氏(医療法人KANEKO DENTAL OFFICE 理事長・院長)は、医科と歯科が連携して患者の健康を考える体制を望んできました。しかし一方では、長年、医科歯科連携の難しさを感じてきたといいます。

歯周病を放置したまま抗がん剤治療を始めるリスク

抗がん剤を入れたことによって顎骨壊死になるケースも

しかし、その後、義父のがんは肝臓に転移していることが分かりました。医師は「腫瘍が大きくなっているため今すぐに抗がん剤(点滴)を始めたい」と言います。

 

しかし、1ヵ所、抜歯しなければならない歯が残っていたため、「抜歯後に抗がん剤を始めることはできないでしょうか」とお願いしました。すると医師は「抗がん剤を今すぐに始めないと転移したがんが大きくなるので、歯の治療は最小限にし、抜歯するタイミングはこちらから連絡します」とのことでした。医師の考えは、万が一抜歯して敗血症を起こされたら責任がもてないということだろうと理解し、私も従うことにしたのです。

 

しかし、抗がん剤が始まり3ヵ月経ち、義父の腫瘍が小さくなってきても、医師からの連絡はありません。義父から医師に聞いてもらったところ、歯については何も考えておらず、医師は口腔ケアを軽視していることが分かったので、私は義父の歯の治療を決断したのです。

 

歯周病の治療をしないまま抗がん剤治療をすると、その歯の周りの骨が腐ってしまいます。最近の流れとしては「歯周病の治療をしてから抗がん剤治療をする」というのが一般的になってきていますが、日本は歯科よりも医科のほうが優先という考え方で、医師から
「すぐに抗がん剤治療をします」と言われたら患者も従わざるを得ません。それで何も起
こらなければいいのですが、抗がん剤を入れたことによって顎骨壊死になるケースもあり、そうなると新たな手術が必要となり、患者には大きな負担がかかります。
 

義父には悪い歯を残していることによる今後のリスクを説明し、血液検査の結果を基に体調のいい日に合わせて抜歯を行いました。

 

通常の患者に行っているように感染には十分な配慮をし、術前には抗生剤を投与、抜歯したところはパーフェクトペリオで洗浄し、膿を取り除き、そして完全自己血由来フィブリンゲル(血液を採取し遠心分離にかけ濃厚な血小板を利用する再生療法)を入れ、縫って終了しました。術後は経過良好でした。かぶせものはインプラントができないため、妥協案で特殊構造のブリッジを入れました。

 

義父は残念ながらその後、亡くなってしまったのですが、きっちり歯が入ったのでよく噛めるようになり、家族との食事の回数も増え、最期まで楽しい時間を過ごすことができたと思います。

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予防弱者 知らぬ間に不健康に陥る日本人

予防弱者 知らぬ間に不健康に陥る日本人

金子 泰英

幻冬舎メディアコンサルティング

「病気になったら治す」では、気づかぬうちに病魔が進行していることも…。 病気は「治す」時代から「予防する」時代へ! 医療技術の進歩がめざましい今、欧米を中心とした先進国では「予防医学」が着目されるようになって…

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