歯周病と骨粗しょう症の深い関係
■歯周病も骨粗しょう症も「エストロゲンの分泌低下」の影響を受ける
女性に多い骨粗しょう症も歯周病と深い関係があります。骨粗しょう症は、骨強度が低下し骨がもろくなって骨折しやすくなる病気で、罹患者の約90%が女性です。女性は閉経によって骨代謝に関わるホルモンのエストロゲンが低下し、骨粗しょう症を発症しやすくなるのです。エストロゲンの分泌が少なくなると、歯を支える歯槽骨ももろくなり、歯周病にかかりやすくなります。
また、骨粗しょう症の薬であるビスフォスフォネート系製剤(BP製剤)を服用している場合、歯科治療では注意が必要です。これを服用している方が抜歯などをした場合、周囲の骨が壊死する事例があるからです。
歯科医のなかには、BP系薬剤を服用されている患者は診療せず、「大学病院の口腔外科に行ってください」と伝えるケースもあります。BP系薬剤を服用されている方は、歯科治療の際は必ず申告してください。
歯科治療の際に申告すべき薬
■血圧を下げる薬(降圧剤)や血液をサラサラにする薬(抗血栓薬)は要申告
あまり知られていないのですが、骨粗しょう症の薬だけでなく、血圧を下げる薬の服薬など、歯科治療の際に申告すべき薬は少なくありません。
降圧剤のなかにも歯周病を悪化させるものもあります。そのため、患者のかかりつけ医に相談してから歯科治療を始めることが重要です。
また、歯科で使う麻酔薬のなかには血管収縮剤が入っており、血圧が一時的に上昇するため高血圧の方は注意が必要です。私のオフィスでは、血圧をモニター管理して治療をしており、血圧が高いまま戻らない場合は治療を中止することもあります。しかし、一般的な歯科では血圧の管理まで行っているところは少ないのが現状です。また、血圧が高い患者の場合、麻酔科の先生と連携をして、血圧をコントロールしながら治療をすることもあります。
このように歯科治療をする際は、患者の全身疾患を把握しておくことがベストですが、なかなかそこまでは理解していない歯科医のほうが多いのではないかと思います。もし、患者に何かあれば歯科医の責任になりますので、歯科医は、歯の情報だけでなく、薬や疾患に関する情報を常にアップデートしておく必要があるのです。
実は私自身、一度、危ない経験をしました。
患者が「何も薬は飲んでいない」と言うので抜歯したのですが、その後「気分が悪い」「ドキドキする」と言うのです。そこで「本当に何も薬は飲んでいませんか?」と聞くと、「血栓の薬は飲んでいます」と言われました。確認のため患者の奥さんに確認したところ、そのほかにもたくさん薬を飲んでいたのです。抗血栓薬を飲んでいる方は、抜歯の際に血が止まりにくくなるという報告もあるので、抜歯は慎重に行う必要があります。その患者はすぐに酸素吸入をして回復し、大事には至りませんでしたが、問診の大切さやダブルチェック、患者にあらためて聞くことの重要性を意識しました。
そして、歯科と医科が連携していれば、患者のカルテや処方薬の履歴を閲覧できるのでトラブルも未然に防げたのではないかと強く実感しました。
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<歯科治療の際、申告してほしい薬>
●骨粗しょう症(ビスフォスフォネート系製剤)
BP製剤使用経験のある方が、抜歯などの顎骨に刺激が加わる治療を受けると、顎骨壊死が発生する可能性があります。
●神経系薬剤
抗うつ薬や抗精神病薬などの神経系薬剤のなかには口腔乾燥、咬合の違和感、顎関節痛、咀嚼障害、歯周病、歯痛など、口腔に関連した副作用を引き起こすものが多くあります。
●抗凝固薬
ワーファリンをはじめとする抗凝固薬は、抜歯時に休薬すると血栓塞栓症のリスクを増加させると指摘されています。日本循環器学会のガイドラインに抜歯をする際の注意点が記載されています。
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金子 泰英
医療法人KANEKO DENTAL OFFICE 理事長・院長