歯周病が認知症リスクを加速させる
■成人の「歯を失う理由」第1位が歯周病だが、歯を失った人ほど…
歯周病は認知症との関連性も指摘されています。
認知症の7割を占めるアルツハイマー病は、「アミロイドベータ(Aβ)」などの異常なたんぱく質が少しずつ脳に蓄積することで発症したり、症状の進行につながります。九州大学などの研究チームは2020年、歯周病菌が、この異常なたんぱく質を脳に蓄積させるのを加速させてしまうことを明らかにしました。
また、成人で歯を失う原因のうち、最も多いのが歯周病で、抜けている本数が多いほど認知症を発症しやすいことも分かっています。認知症専門医の長谷川嘉哉先生は、「認知症を改善するためには歯周病を治さないといけない」と以前から啓蒙されており、医科で歯科衛生士を雇って治療に当たっています。これは医科と歯科の理想的な連携といえます。
歯周病予防のために、きちんと歯磨きをしたり、定期的にクリーニングをすることで認知症が発症しにくくなるというデータもあります。脳科学的にいうと、歯をしっかり噛むことができ、自分の歯の感覚によって脳に刺激がいけば、前頭葉が活性化されます。
ですから、日頃から口の中をきれいにして歯周病を予防すること、噛めるようにしておくことが、認知症の予防になるのです。
歯周病は後期高齢者の死亡原因「誤嚥性肺炎」にも関与
■誤嚥性肺炎の原因となる細菌の多くは「歯周病菌」
後期高齢者の肺炎の大半が誤嚥性肺炎だといわれています。誤嚥性肺炎とは、食べ物や異物を誤って気管や肺に飲み込んでしまうことで発症する肺炎です。その際、食べ物などと一緒に口の中の細菌を飲み込み、気管から肺の中へ入ることがあります。その結果、免疫力の衰えた高齢者は誤嚥性肺炎を発症してしまうのです。誤嚥性肺炎の原因となる細菌の多くは、歯周病菌であるといわれており、誤嚥性肺炎の予防には歯周病の治療が必須となります。
また、誤嚥性肺炎は、咀嚼機能とも大きな関係があります。高齢者の噛む機能が衰えることが、高齢者の飲み込む機能の低下につながり、誤嚥を引き起こしてしまうからです。
咀嚼機能の低下は唾液の分泌の低下につながります。唾液は、口内を清潔に保つ機能があり、分泌が低下すると口内には細菌が発生しやすくなります。その結果、誤嚥を起こしたときに細菌を含んだ唾液や食べ物が肺に侵入して肺炎を起こしてしまうのです。咀嚼機能を高めるためには、高齢になっても自分の歯で噛めるよう、若いうちから虫歯や歯周病を予防しておくことが大切です。
「感染性心内膜炎」を引き起こす細菌の4割は口腔細菌
■自由診療の歯石除去では、口の中の菌を少なくする「次亜塩素酸水」を使用
感染性心内膜炎という心疾患は、血管内に入った細菌が心内膜や人工弁に付着、繁殖することで、発症します。その細菌のうち4割が歯周病菌などの口腔細菌であることが分かっています。
歯石を取る際、出血して、血液に細菌が入り込みますが、健康な人は免疫力があるので感染して死に至ることは滅多にありません。しかし、免疫力が低下している人や高齢者の場合、細菌が心臓にまで届いて繁殖してしまう場合があるのです。
私のオフィスでは、治療の際、菌を殺してくれる次亜塩素酸水を使っており、血液のなかに菌が入らないよう予防をしながら治療しています。次亜塩素酸水は、「精製水」と純度99%以上の「食塩」からなる低濃度の「食塩水」を電気分解して生成された、人体に安全な除菌機能水です。
このように、歯科での治療によって口の中から感染を予防することが、実は体の健康にもつながっているのです。
■口腔内をきれいに保つことは、コロナ対策としても役立つ
細菌の感染を防ぐという意味では、新型コロナウイルスの侵入を防ぐためにも、次亜塩素酸水は注目されています。実際、私のオフィスでは、クラスターが発生した県内の高齢者施設に次亜塩素酸水のうがい薬を送って、それ以降の感染予防に役立てました。
次亜塩素酸水の使用に限らず、口腔内をきれいにしておくことは新型コロナ対策に役立つことが知られています。歯周病菌を減らすと、風邪やインフルエンザのウイルスが細胞へ付着することを阻害できます。新型コロナウイルスも、インフルエンザウイルスと同じ付着様式なので、歯周病菌を減らすことが、新型コロナ対策になるのです。
また、歯周病を放置し重症化すると、歯周ポケットという深い溝ができ、細菌の温床の場となります。その結果、ウイルスの感染を進めてしまうため、歯周病は重症化する前に治療すべきなのです。
「噛み合わせの悪さ」が肩こり、頭痛、難聴を招く例も
■【事例】左耳が聞こえにくいが、耳鼻科では「聴力に異常なし」
噛み合わせの治療をされる方は、かなりネガティブになっている方も少なくありません。
噛み合わせが悪くなって違和感が募ると、元気がなくなったり、イライラしたりして、気持ちが沈みがちになるのです。また、噛み合わせが悪いと肩こりや頭痛の原因にもなります。
患者で、左上の2番目の前歯が下の歯と逆さに噛み合っている方がいました。その方は、左の顎に違和感があり、肩こりがひどく、左耳の聴こえが悪いとのことでした。耳鼻科にも行かれましたが、聴力は異状なしだったそうです。
私のオフィスで噛み合わせの検査をしたところ、左前歯が引っ掛かり、その状態で左の顎が後ろに下がっていました。顎の関節が後ろに下がっていると耳の後ろを圧迫することになります。そこには自律神経があるので、常に圧迫していると、体の不調和が起きるのです。この患者の耳の聴こえが悪かったのはそれが原因でした。
結果的に矯正治療を開始し、前歯の引っ掛かりが取れ、きれいに並んだと同時に、左顎の違和感、肩こりがなくなり、さらに耳の聴こえが良くなったそうです。
原因不明の肩こりや頭痛、難聴などに悩んでいる方は、一度、噛み合わせの検査をしてみるのもおすすめです。
金子 泰英
医療法人KANEKO DENTAL OFFICE 理事長・院長